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【笑うあの子の裏事情】
Episode.12 こさめ
《🎼🍍side》
朝のホームルーム前。
教室の扉を開けると、いつもの空気が流れてくる。
椅子を引く音。
友達同士の会話。
窓から入る冬の光。
担任になってから、毎日見ている景色。
でも───
俺は、毎回同じことをしてしまう。
教室の中をゆっくり見渡す。
一列ずつ。
一人ずつ。
そして、視線が止まる場所。
……すちの後ろの席。
空っぽだ。
椅子は机の中に入ったまま。
机の上には、何もない。
進級してから、ずっと。
もう冬も中盤だ。
あと数ヶ月で、この子たちは2年生になる。
進路。
将来。
高校。
そういう言葉が、現実として少しずつ近づいてくる時期。
なのに。
その席だけ、時間が止まったままだ。
🎼🍍「……はぁ」
小さく息が出る。
出席簿を開く。
名前を指でなぞる。
柴雨こさめ。
欠席。
今日も。
……でも。
あいつが学校に来てないとは思っていない。
なぜなら。
保健室には、必ず現れるからだ。
それを、俺は知っている。
でも、教室には来ない。
俺は何度か、親御さんにも電話をした。
欠席の連絡。
状況の確認。
でも、返ってくる言葉は毎回同じだった。
『期待していないので』
『あの子はもういいんです』
『それより、いるまはどうですか?』
その後に続くのは、決まって同じ話題。
───いるま。
確かに、優秀だ。
成績もいい。
問題も起こさない。
先生から見ても、手のかからない生徒。
でも。
俺の頭の中には、二つの名前が並ぶ。
柴雨いるま。
柴雨こさめ。
……双子。
同じ日に生まれて、
同じ家で育って。
でも、比べられやすい存在。
俺から見るいるまは、自信に溢れている。
授業でも迷いがない。
答える時も、はっきりしている。
でも。
それを他人に押し付けることはない。
「俺はこう思う」
それだけ。
誰かを見下すこともない。
自分のことを、自分で分かっているタイプだ。
反対に。
こさめは───
自信がないように見える。
らんからの話も聞いていると、それははっきりしている。
『期待されないって、楽だよ!』
そう言っていたらしい。
……楽、か。
期待されないことに慣れている。
いや。
慣れすぎている。
そして───
毎日、複数の怪我。
腕。
手。
膝。
転んだと言っていたらしいが。
……毎日、そんなに転ぶか?
家での問題じゃなかったら。
一体、どこで。
何を。
🎼🌸「……なつ?」
声がして、はっとする。
職員室。
隣の机。
らんが肩に手を乗せていた。
🎼🌸「疲れてんの?」
🎼🍍「……まぁ、考え事」
パソコンの画面を見る。
でも、文字が頭に入らない。
🎼🌸「こさめのこと?」
……流石だ。
分かるんだな。
🎼🍍「……まぁ、そんなとこ」
らんは小さく頷く。
🎼🌸「…そっか」
少し沈黙。
それから、俺は聞く。
🎼🍍「今日は?」
🎼🌸「ん?」
🎼🍍「来たのか、保健室」
らんは少し笑った。
🎼🌸「もちろん」
🎼🌸「満面の笑みで」
想像できる。
🎼🍍「何話してた?」
🎼🌸「金星の話とか」
🎼🌸「あと、冬が好きだとか」
思わず笑う。
🎼🍍「……こさめらしいな」
🎼🌸「だろ?」
らんも少し笑う。
でも、すぐに続けた。
🎼🌸「今日はさ」
🎼🍍「ん?」
🎼🌸「行きたい所あるって言って」
🎼🌸「すぐ帰っていった」
行きたい所?
俺は眉をひそめる。
こさめが行きたい所。
……想像がつかない。
公園か。
屋上か。
空が見える場所か。
🎼🌸「……なつ」
らんが少し真面目な声になる。
🎼🌸「こさめのことは俺に任せて」
俺は少しだけ、目を閉じる。
何度目かも分からない、このやり取り。
でも。
毎回、少し安心する。
🎼🍍「……よろしくな」
らんは頷いた。
《🎼📢side》
放課後。
学校の外。
冷たい風が吹く。
🎼👑「こっちの公園見た?」
みことが言う。
🎼🍵「…いない」
すちが辺りを見回す。
俺は───
二人の後ろを歩いていた。
探しているのは、こさめ。
でも。
見つかるわけがない。
そんなの分かっている。
🎼👑「まニキもちゃんと探してよ!」
みことが振り向く。
🎼📢「……探してる」
適当に返す。
🎼👑「絶対探してないやん!」
すちはため息をつく。
🎼🍵「…少しくらい、手伝ってよ」
でも。
手伝ったところで意味ない。
見つかるわけがない。
だって───
俺も何回も探した。
前に。
夜も。
公園も。
学校の周りも。
……どこにもいなかった。
だからもう、諦めている。
あいつが話したかったら。
あいつから来る。
そういうやつだ。
わざわざ探す必要もない。
話す必要もない。
二人の後ろを歩きながら、空を見る。
冬の空。
もう暗くなり始めている。
……でも。
なんだろうな。
腹立つんだよな。
あいつ。
言いたいことあるなら言えばいいのに。
いつも、 俯いて。
黙って。
自分が悪かったみたいな顔して。
被害者ぶる。
分かってる。
自信がないことくらい。
そんなの見てれば分かる。
でも。
それなら、 俺に言えばいい。
文句でも。
怒りでも。
なんでも、 言えばいい。
でも、 言わない。
俺を避ける。
逃げる。
それがまた───
気に入らない。
🎼🍵「次、あっち行こう」
すちが言う。
みことも頷く。
二人はまた歩き出す。
俺はその後ろを歩く。
空を見ながら。
そして、ふと呟いた。
🎼📢「……どこ行ってんだよ」
もちろん。
誰も聞いていない。
next.♡1000
コメント
9件

フォロー失礼します! 神作すぎません!?
📢ちゃん、こんなに言っててもやっぱり内心心配してんだなぁ、.... 何回も探してるってことはやっぱりめちゃめちゃ心配してる、確かに...期待されないのは楽かもしれないけど、それになれるのは危険だね....
📢くん、いつも☔くんには何も思わないのかなっていう雰囲気だけど、昔、ちゃんと☔くんのことを探したのに、どこにもいなくて諦めちゃったのかな、、、 🌸くんたちも、きっと助けてあげたいけど、☔くんからも、📢くんからも助けを求められないし、干渉しすぎちゃうと、かえって辛くなっちゃうかもしれないって考えると、手を差し伸べてあげたいのにそれが出来ないのがめちゃくちゃ切ない、!