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【力天使】の周囲に三つの小さな光球が現れる。カイン達とは距離があり、先日ダンジョンで遭遇したヒュドラより遥かに巨大に見える「力天使」との比較であるため、小さく見える光球一つのサイズ感は掴みにくい。
すぐにその三つの光球は【力天使】と同じように人型に変化していき、やはり背には二枚の光翼を携えた天使の姿として顕現した。
これら天使が過去にこの世界に現れては人類に対して甚大な被害を与え続けてきた「悪魔《デーモン》族」と呼ばれる存在であったのだが、その姿を見たことのない街の人たちにとっては、その背後にいる巨大な【力天使】こそが伝え聞く「悪魔族」であるに違いないと考えていた。
三体の天使たちは【力天使】の前にトライアングルを描くように浮かぶと、再びその発光を強めた。
『AAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』
三つの重なり合って共鳴する天使の歌声。
それは巨大な波動となって周囲へ展開していき、眼下にあった街へと襲い掛かった。
「うわぁぁぁぁ!!」
「きゃあぁぁぁ!!」
鼓膜を突き破り、脳を破壊するかのような強烈な波動に耳を抑えて蹲るカインや街の住民たち。
そして――
――パアァァァン!!
街を覆っていた魔法障壁が跡形もなく砕け散った。
最後の防衛線を破壊され、無防備な状態に晒された人々。
三体の天使たちは、ゆっくりと、その殺戮能力を無慈悲に振るうべく、街へと降下していった。
「西だ!西へ逃げろ!!」
「慌てないで!周囲にいるお年寄りや子供たちのサポートをしてあげてください!」
街の東側から火の手が――いや、無数の火柱が上がる。
数キロ離れたカインたちのところにまで届く魔力の波動は凄まじく、本当なら今すぐにでも逃げ出したい気持ちに駆られていたが、それでも懸命に堪え、付近の住民の避難指示に当たっていた。
(一人でも多くの人を!)
そう強く思う心の奥底には、自分がアベルを見殺しにして助かったという負い目があったのは間違いなかった。
「カイン!」
逃げていく人波に逆らうように向かってきていた一団。それはギルドに所属する上級探索者たち。その中にはムルティの姿があり、カインを見つけて駆け寄ってきた。
「お前たちも早く避難しろ!」
「ムルティさんたちはどこへ!?」
「俺たちはあいつらを抑えにいく!その間に――」
「無茶です!あれは戦ってどうにかなる相手じゃありません!ムルティさんだって解ってるんでしょ!?」
「……だとしてもだ。俺たちが時間を稼ぐことで一人でも多くの命が助かるかもしれない。それにアレから逃げるなんて出来そうもないだろう?ここで逃げたって全滅する道しかなさそうだからな。それなら俺たちが盾になって少しでも多くの命を繋ぐ可能性に賭ける方が俺の性にあっている!」
「ムルティさん……」
「それにあいつらも同じ考えみたいだしな」
ムルティの視線の先で待っているのは、彼と死線を潜り抜けてきた仲間たち。すでに探索者としてのピークは過ぎてはいるが、その力は未だ衰えることのない猛者たち。
その表情は皆落ち着いていて、恐れている感情はどこにも見て取れなかった。
死地に向かうというのに、その清々しいまでの雰囲気を見てカインも決断する。
自らも命を賭して人々を護ろうと。
「ムルティさん!俺も――」
「カイン。お前たちは早く避難しろと言っただろ?こういう時は年寄りに任せとくもんだぞ?」
「でも――」
「ハンス!サレン!……カインを頼んだぞ」
「……毎回、こういう役回りなんですよね」
「ハンス!」
「……ここでカインを行かせたら、それこそアベルさんに顔向け出来ないわ」
「サレン!おい!離せ!」
「二人とも恨まれ役を任せてすまない。カインも辛い想いばかりさせちまうな。お前たちにはいつか――アベルと二人で酒でも奢ってやるよ」
ハンスとサレンに両腕を掴まれていたカインは、そのムルティの言葉に自然と涙が溢れ出した。
それはムルティなりに気を使った、自分たちへの今生の別れの挨拶であることに気付いたからだった。
「じゃあ、またな」
ムルティがそう言って待っていた仲間たちへと振り返る。
「はい……また、必ず」
それはアベルとの果たせなかった約束の言葉。
『AAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』
そして、再び天使の歌声が鳴り響いた。