テラーノベル
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● 黒狼の本拠地手前 ― 無線の痕跡廃鉱から少し離れた渓谷地帯。
空気は乾き、風だけが岩肌を削るように吹いていた。
カイは拾った無線機を調整し、
微弱な信号を辿って先を示す。
「この先だ。
仲介人は、黒狼と合流していない。」
ロジンが眉を寄せる。
「仲介人が単独で?
黒狼を裏切ったとか…?」
シランが肩をすくめる。
「奴は信用されるタイプじゃなさそうだし。
いつ逃げてもおかしくない。」
しかし、カイは静かに首を振る。
「いや…
あいつは“逃げない”。
まだ、この騒動を
続ける理由がある。」
ロジンは胸の奥にイヤな感覚が広がるのを感じた。
● 廃れた通信基地に潜む仲介人
渓谷の奥に、古い通信基地が姿を現した。
今は無人だが、電源は通っている。
アザルは耳元で囁く。
「気をつけて。
奴の気配がする。」
一同は慎重に進み、
最後の扉を開けた。
そこにいたのは─
机にもたれ、銃を手にした 仲介人。
疲れ切った顔だった。
しかし
眼だけは鋭く
ロジンを見つめていた。
ロジンが前に出る。
「どうして…私を狙う?」
仲介人は唇を歪めた。
● 仲介人の告白 ― ロジンへの執着の理由
仲介人
「お前の命は、金になるからさ。」
ロジンが口を開く。
「私を売るつもりだったの?」
仲介人は、哀れむでも
嘲るでもない、
奇妙な表情で笑った。
仲介人
「ロジン・ダシュティ。
あの”財団”にとって、お前の存在は脅威なんだよ。
黒狼はただの兵隊だ。
本当の依頼主は別にいる。」
ロジン
「財団…? 何の話。」
カイが横から冷静に言う。
「国境を跨いで武器と情報を売っている地下組織だ。
自分たちの利益のためなら、どんな部隊でも潰す。」
ロジンの目が大きく開いた。
仲介人はロジンを指さす。
「お前は、北部戦線で“運び屋の真実”に近づきすぎた。
財団が隠し続けた
補給ルートの存在をな。」
沈黙がはしる。
ロジン
「だから私を拉致した?」
仲介人
「最初は協力してくれると思っていたよ。
だが、お前は優秀すぎた。
真実に近づけば、財団が困る。」
アザルが怒気を含んだ声で言う。
「ロジンはただの兵士よ。
なぜそこまで…。」
仲介人はゆっくりと
ロジンへ向き直る。
「理由は簡単だ。
“お前が生きているだけで、彼らの計画が崩れる”。
だから消す必要があった。」
ロジンの手が震えた。
怒りか、恐怖か、分からなかった。
● 仲介人の最後の抵抗
仲介人はゆっくり銃口を上げた。
「さて…
この場でお前たちを消せば、まだ間に合う。」
ホシュワンが吠える。
「ふざけるな!」
だが止めたのはカイの一声だった。
「撃つな。
まだ話していないことがあるはずだ。」
仲介人は唇を震わせた。
「さすが、元特殊部隊だな。」
カイが眼を細める。
仲介人
「黒狼は…“お前を知っている”。
いや─ずっと探していた。」
その言葉に、全員が息を呑んだ。
カイ
「どういう意味だ。」
しかし
仲介人はもう答えなかった。
ほんの一瞬、
彼は苦しげに笑い─
自分の銃を下ろした。
仲介人
「黒狼の方が…地獄だったな。」
そのまま膝をつき、
完全に抵抗を放棄した。
仲介人は拘束され、
これで
黒狼の軍は実質“壊滅”した。
次に待つのは─
黒狼本人との決戦。
● 黒狼の影
ロジンが静かに言う。
「財団…補給ルート…
そして黒狼……
全部つながってる。」
アザル
「黒狼はどこに?」
カイは無線の最後の記録を分析し、
低く答えた。
「この先にある『古い要塞跡』だ。
あいつは…俺のことを知っているらしい。」
シラン
「まさか、カイ…アンタ。」
ロジンは震える声で尋ねる。
「カイ…黒狼と、何があったの?」
カイは短く息を吐いた。
「全部、話す時が来たようだな。」
黒狼との決着。
そして、カイの過去の核心。
物語は、次のステージへ向かう。
カイと黒狼 二人を分けた最悪の任務
● 風のない夜、カイの告白が始まる
山のふもとにあるキャンプ。
焚き火の炎が揺れ、薄い煙が夜空へ消えていく。
仲間たちが去った後、
ロジンだけがカイの隣に残った。
カイは、火を見つめたまま言った。
「黒狼と俺は…昔、同じ部隊にいた。」
ロジンは息をのむ。
「え…!?」
カイ
「俺たちは“影部隊”と呼ばれた非公式チームでな。
政府にも軍にも記録が残らない、裏の任務ばかりだった。」
ロジン
「黒狼も…?」
カイ
「ああ。
あれは、本名じゃない。
“黒狼”はコードネームだ。」
焚き火がぱち、と弾けた。
● 影部隊の誕生 ― カイと黒狼の友情
静かな砂漠の基地だった。
黒狼は無口だったが、
武器の扱いと戦術眼は異常なほど鋭かった。
そして不思議なことに─
黒狼は、いつもカイの側にいた。
カイの声が少しだけ柔らかくなる。
「任務が終われば、二人でバカ話もした。
あいつは冷たいように見えて…仲間に情の深い男だった。」
ロジンは、ただ黙って聞く。
「俺は、あいつを実の弟みたいに思ってた。」
だがその関係はある日、
最悪の任務で終わりを告げる。
● 禁じられた任務 ― 補給ルートの殲滅
カイ
「問題は“財団”だった。」
財団─
政府の裏で武器や燃料を送り、
戦争を長引かせる影の組織。
影部隊は、財団の補給ルートを潰す命令を受けた。
だが─そこにいたのは敵兵ではなく、
なにも知らない民間の運び屋と家族だった。
ロジン
「そんな…それって…。」
カイは拳を強く握る。
「任務の情報が嘘だった。
財団が自分のルートを守るため、俺たちを騙したんだ。」
影部隊は板挟みになった。
命令通り壊滅させるのか、
それとも命令を拒否して
処罰されるのか。
● 分かれる二人の道 ― 裏切りの瞬間
あの時、黒狼は震えながら叫んだ。
「カイ!
命令に従え!
これを失敗すれば、俺たちは処分される!」
カイは首を振った。
「罪のない人を殺したら…どうなるかわかるだろ!!」
黒狼
「お前は自分の考えに酔ってるだけだ!」
言い争いは一瞬だった。
隊長が撃たれ、部隊は混乱し、
黒狼は─命令を選んだ。
運び屋たちは逃げ出し、
カイが必死で守ろうとしたその時、
黒狼の銃が火を噴いた。
一人の少女が倒れた。
ロジンの顔が青ざめる。
「黒狼が…?」
カイは目を閉じる。
「あれが決定的だった。
俺は黒狼を殴り倒し、任務を拒否して脱走した。」
黒狼はそれ以来、影部隊を離れ、
名前も捨てて独自の武装組織を作った。
そして今─
かつての仲間だったカイを執拗に追い続けている。
● 追う者と追われる者
ロジン
「黒狼は…あなたが裏切ったと思ってるの?」
カイ
「ああ。
“任務を放棄し、仲間を引き裂いた 裏切り者”。
黒狼は俺をそう呼ぶ。」
ロジンは胸が締めつけられた。
カイは続ける。
「あいつは今でも軍を信じてる。
命令が正しいと信じている。
だから俺を殺して、自分の正しさを証明しようとしている。」
ロジン
「カイ。」
ほんの少しだけ、カイの表情が揺れる。
「けどな…
本当は黒狼も気づいているんだろう。
財団に利用されていただけだって。」
ロジン
「気づいたら…黒狼はどうなるの?」
カイ
「壊れるだろう、受け入れ難い現実だからな。兵士にとって、命令は絶対だ。
NOはないからな。」
静寂。
ロジンはそっとカイの手を握った。
「だから、あなたが止めるんだね。」
カイはうなずく。
「黒狼は…奴は俺が終わらせる。」
焚き火が消えかけ、
夜はさらに深くなる。
二人の距離 ― 戦火の中で育つ想い
● 夜明け前、ロジンは眠れなかった
カイの告白を聞いたあと、
ロジンはしばらく焚き火の赤い光を見つめていた。
黒狼。
影部隊。
財団。
そしてカイの苦しみ。
その重さを受け止めた胸が、静かに痛んだ。
ロジン(心の中)
「カイは、ずっと一人で…こんなものを抱えて来たのか?」
視線を横に向けると、
カイは腕を組んだまま、夜空を見ていた。
眠っていない。
警戒しているのではなく──
悩んでいる背中だった。
ロジンは小さく息を吸い、
そっと声をかける。
「カイ…眠れないの?」
カイは少し肩を動かし、
振り向かずに答えた。
「こういうのには慣れてる。心配するな。」
その言葉は、
“感情の距離”を守るためのクセのようだった。
● ロジンの勇気 ―「あなたは一人じゃない」
ロジンは立ち上がり、
カイの隣に静かに座った。
夜風が吹き、
二人の影が近づく。
ロジン
「カイ。
あなたは強いけれど…
本当はずっと、誰よりも傷ついていたんだね。」
カイ
「そんなことは―」
ロジン(遮って)
「ある。
あなたが自分で気づいていないだけ。」
カイは言葉を失った。
ロジンはゆっくり、
そっとカイの手に指先を触れさせる。
握るのではなく、
触れるだけ。
彼女の文化や戦場の緊張を考えれば、
それだけで十分すぎる“親密さ”だった。
カイは驚いたように手を見る。
ロジン
「あなたが抱えてきたもの…
私にも、少し分けてほしい。」
カイ
「ロジン…」
ロジン
「戦いだって、苦しみだって、全部。
一緒に背負える。」
そして、ほんの少しだけ、
ロジンの指に自分の指を重ねた。
握らない。
それでも十分すぎる答えだった。
二人の手は、震えながら触れ合っていた。
● 壊れた心と、不器用な温もり
ロジン
「ねぇ…カイ。
あなたの過去を聞いて、私は怖くなんかない。」
カイ
「俺は、自分の罪を隠すつもりはない。」
ロジン
「隠してなんかいないよ。
全部話してくれたじゃない。」
カイの表情が、
わずかに崩れる。
ロジンはそっと、
彼の肩に頭を預けた。
カイ
「ロジン?」
ロジン
「別に特別な意味じゃない。
ただ…こうしていたいだけ。」
だが、ロジンの温度が、
あまりに人間的で、必死で、
そして優しかった。
カイはぎこちなく肩を動かし、
ロジンが倒れないよう支える。
二人は寄り添ったまま、
夜明けまで一言も声を発さなかった。
だが沈黙は、
“距離が縮まった証”でもあった。
● 朝日 ― 二人の間に、まだ言葉にできない想い
東の空が明るくなりはじめる。
夜が終わるその瞬間、
ロジンが小さく呟いた。
「カイ…あなたに生きていてほしい。」
カイはゆっくり返す。
「ロジン…キミには死んでほしくない。」
視線が交わる。
どちらも照れくさくて、
すぐに目をそらした。
だが、
その想いは確実に相手へ届いていた。
「黒狼の声 ― 夜を切り裂く無線通信」
● 朝靄の中、異常な沈黙
朝日が昇りきる前、
野営地点の空気は妙に張りつめていた。
アザルが耳をすませ、言う。
「静かすぎる。
敵が撤退したあととは、違う。」
ホシュワンも静かに頷く。
「黒狼が動き出す…そんな感じがするぜ。」
ロジンは、隣のカイを盗み見る。
カイの表情にはいつになく緊張があった。
そのとき。
―ジ……ジ……ッ……
通信機が微かに震えた。
シラン
「ねぇ、今の、聞こえた?」
皆が一斉に視線を向ける。
ザザ……ッ……
通信を遮るノイズのすき間から、
かすかに声が漏れた。
『……カ……イ……』
ロジン
「っ……!」
アザル
「まさか…黒狼?」
カイは静かに通信機を手に取った。
ノイズが消え、
次の瞬間──
『久しぶりだな、相棒』
その声は低く、静かで、
どこか懐かしさ
さえ含んでいた。
仲間たちが息を飲む。
● 黒狼の声 ― 過去の影と今の戦い
カイ
「黒狼。
俺を追ってここまで来たのか。」
黒狼
『追った?
違うなぁ、カイ。
お前が“逃げ続けている”だけだ』
ロジンが眉を寄せた。
黒狼
『罪の自覚があるから、俺から逃げる。
そうだろう?違うか?』
カイは沈黙する。
ロジンは思わず口を開きかけたが、アザルが腕で制した。
黒狼
『お前が背中を向けなければ…
こうはならなかった。
仲間も、部隊も、全部な』
カイ
「命令が間違っていた。それだけだ。」
黒狼の声が一段と低くなる。
『命令が“正しいかどうか”で選ぶものじゃない。
“従うかどうか”だ。
それが軍人だ。
忘れたのか?』
カイ
「忘れちゃぁいない。
だが、俺はもう軍人じゃない。」
黒狼
『だから裏切り者なんだよ、カイ』*
ザザッ…とノイズが走る。
ロジンの拳が強く握られる。
黒狼の執着 ― その裏にある崩れかけた心
黒狼の息が、微かに乱れた。
『お前を殺さなきゃ、俺は進めない。
俺は、全部“正しい”と思ってやってきた…その証が、お前だ』
カイ
「黒狼、お前も気づいてるんだろ。
財団に利用されてるだけだって。」
黒狼
『黙れ!!』
通信の向こうで、
机を叩くような音が響く。
黒狼
『カイ、お前が裏切ったから…
俺は、“自分の正しさ”を証明しなきゃならなくなったんだ』
ロジンはカイを見る。
カイの目に痛みが浮かんでいた。
● 黒狼の最後の通告
黒狼
『カイ…
これから俺は、お前たちの村に侵攻する。
逃げてもいい。
だが、お前とは必ず決着をつける』
アザル
「ふざけるな!」
ホシュワン
「黒狼、やめろ!」
黒狼
『邪魔をするなら、村中まとめて片付けるだけだ』
そして──
黒狼
『準備をしておけ。
“影部隊の最後の任務”を終わらせるためにな』
通信は静かに切れた。
● 沈黙のあとに ― 戦う理由が変わる
誰も口を開かなかった。
ロジンはゆっくりカイへ近づき、微かに震えた声で言う。
「カイ…あなたを殺すために、黒狼は動いてる。」
カイ
「分かってる。」
ロジン
「でも…私はあなたを失わない。」
シランが前に出る。
「私たちも同じよ。
黒狼は、全員で止める。」
アザル
*「あの男を倒さないと…村も、この戦いも終わらないわ。」*
カイは仲間たちの顔を一人ひとり見る。
静かに、深く息を吸う。
「黒狼は俺が止める。
だが、ひとりじゃない。
お前たちがいるなら、戦える。」
ロジンの目が優しくゆれる。
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