薄暗い路地をひたひたと歩く音が響く。時折水溜りを踏んだかのような水の音が鳴る。
「まだまだ、足りない…」
不意に男が呟く。何処か焦ったような表情をしながら早歩きで路地裏から立ち去っていく。去り行く男の手には
“鍵”が握られていた。
無機質な電話の音が昼下がりの探偵社に響く。徹夜明けのおかげで非常に眠い。このまま居留守でも使ってやろうか。しかし電話を取らないことには音は鳴り止まない。渋々電話を取る。
「こちら武装探偵社、式部です。依頼ですか?苦情ですか?」
最近治が心中にいろんな人を誘いすぎている気がする。苦情だったら一週間仕事を全部なすりつけよう。
一呼吸の沈黙の末、相手が話し始める。
「雄英高校の校長を務めております、根津と申します。依頼を頼んでもよろしいでしょうか。」
雄英高校…ああ、ヒーローの卵が通う特別な高校だったか。あそこにはNo.1ヒーロー、オイル舞妓?が教師にいたはず。ウチに頼む依頼なんて余程のことなのだろうか。
現在この社会は通称『ヒーロー飽和社会』と呼ばれている。異能力者の数は全体の人口の一割にも満たないとされ、知名度は低い。
しかし一部の人間は存在を知っており、”個性”よりも強い能力、少ない反動で異能を使えることから今まで偉い人の言えないような依頼をしてきた。
基本荒仕事とも言えるウチにヒーローの学校が一体…?
「…まずは依頼内容をお聞かせください。」
「実は、ヴィランがウチに通う生徒に個性を掛けられまして…そのかけられた個性というのが心を閉ざす、と言う個性なのです。そのせいか犯人の特定もできず、学校生活にも支障を及ぼしています。我々の力では犯人の特定は難しい。そこで御社に依頼を頼みに来ました。」
心を閉ざす…ねえ。
「…了承しました。犯人の特定ですね。期限は「あ、すみません。犯人の特定ではなく、護衛をお頼みしたいのです。」……え?」
「犯人はうちのヒーロー達で特定し次第捕獲します。ウチは御社の社員様達よりも力は劣ると思いますが、全力を尽くし特定をします。然し犯人の個性は非常に危険。そこでうちの生徒、主にヒーロー科を護衛していただきたいのです。」
えええ…ご、護衛…5、6は年が離れている子供の護衛…え、気まずい。
じゃなくてそれよりも…
「おかしいですね。」
「…と言いますと?」
「妙なんです。何故その生徒が個性がかかっていると判断できたのか。心を閉ざす個性だと何故判断できたのか。その生徒は心を閉ざしているのでしょう?聞くに聞けないと思うのですが。」
「…」
「そして護衛先の所、ヒーロー科と仰りましたよね?何故ですか?犯人は無差別に個性をかけているかもしれないのに。真逆ヒーローになる子供以外は見捨てるご算段で?」
一応だけど探偵だからね!このぐらいの違和感気付けないでどーするっ!
「流石…ですね。そのとおりです。生徒が倒れていた路地裏にはメモが残されていました。その内容というのが___」
「はあ…なるほど。お引き受けしましょう。期限と仕事内容を教えてください。」
「はい、期限は_________________」
「てことで私、犯人が捕まるまで無期限の護衛任務になっちゃいました!」
「「「「「ええええええ?!」」」」」
おお…真逆そんなに驚いてくれるとは…
「羅紫がいなくなったら私は誰に心中のお誘いをすればっ…」
いや誘うなよ
「えー!羅紫がいなかったら誰が僕の駄菓子を買いに行くの?!」
自分で買ってくださいよ。
「羅紫さんが教えてくれないと僕、報告書が書けません…」
可愛いな。
「そうですか…寂しいですけど頑張ってくださいね!応援してます!」
けんじきゅんもくそ可愛いな。
「まあ、その、何だ、頑張ってこいよ。」
国木田くんが一番可愛い。
「一部変な抗議の声も聞こえましたが…ありがとうございます。がんばるね!」
校長によると早速明後日から任務が始まるらしい。高校の場所は静岡でヨコハマからは少し遠く、帰れるのは週末になるだろう。高校へは童顔と低身長を生かし生徒として護衛するらしく、交流を通して鍛え上げてくれとのこと。抜かりないなあ。
取り敢えずいるものを揃えないと。
そう思い、近くのショッピングセンターで揃えることにした。
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