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中編です!
お品書き
l・zm×shp
l・学パロ
朝の教室は、まだ少しだけ他人行儀やった。
新学期が始まって三日目。
クラス替えにもようやく慣れてきたけど、教室に入るたび、去年とは違う机の並びを見るのは妙な感じがする。
窓際の席に鞄を置いて、椅子を引く。
まだ誰も来てへん。
静かな教室でスマホを眺めていると、廊下から聞き慣れた声がした。
「ショッピ、おはよ」
顔を上げる。
「……おはようございます」
教室の入り口に立っていたのは、ゾムさんやった。
「なんや、眠そうやな」
「寝起きなんで」
「それは見たら分かるわ」
そう言って笑いながら、ゾムさんが俺の机まで歩いてくる。
別に珍しいことじゃない。
去年から、朝に会えばこうやって話す。
たまに一緒に教室まで来ることもあるし、昼休みに顔を合わせることもある。
俺にとっては、いつものことや。
……ただ。
「そういやショッピ、二年なったんやな」
「そうですね」
「早いなあ」
「ゾムさんは三年ですけど」
「せやな」
ゾムさんが笑う。
その笑い方も、去年と何も変わらない。
変わったのは、たぶん俺のほうや。
去年までは、ゾムさんが三年生になるなんて、ちゃんと考えたこともなかった。
進級する人間は、いつか卒業する。
そんな当たり前のことくらい分かってた。
ただ、一年しか違わないのに。
今年だけは、その一年がやけに遠く感じた。
「……ショッピ?」
「はい?」
「またぼーっとしてる」
「してないです」
「してるって」
「してません」
ゾムさんが、楽しそうに笑う。
俺は少しだけ目を逸らした。
朝から、調子が狂う。
ほんまに、いつも通りやのに。
@罷餓🐾_higa
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Ca non.
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昼休みになると、教室の前の廊下が一気に騒がしくなった。
当を持って席を立とうとしたところで、スマホが震える。
『中庭おる』
ゾムさんからやった。
わざわざ連絡してくるほどのことでもないのに。
『今行きます』
短く返して、教室を出る。
中庭に行くと、ベンチに座ってパンを食べているゾムさんがいた。
「遅いやん」
「昼休み始まって五分ですけど」
「俺にとっては長い五分やった」
「知りません」
隣に座る。
ゾムさんが買ったばかりらしいパンを眺めながら、俺も弁当を開いた。
「ショッピ、今年クラスどうなん?」
「普通です」
「友達できた?」
「去年からのやつもおるんで」
「そっか」
それだけ言って、ゾムさんはパンをかじった。
会話が途切れる。
でも、気まずくはない。
こういう沈黙にも、もう慣れていた。
風が吹いて、桜の花びらが一枚だけベンチに落ちる。
ゾムさんがそれを指で摘まんだ。
「もう桜散り始めてんな」
「まだ咲いたばっかじゃないですか」
「でも三年やからな。時間過ぎるの早いねん」
「……そうですか」
また、その話。
胸の奥が、ほんの少しだけざわつく。
「受験とか、大変そうですね」
「まあなあ。夏くらいから本格的にやらなあかんやろな」
「じゃあ、今までみたいに遊べんくなりますね」
言ってから、失敗したと思った。
ゾムさんがこっちを見る。
「……ショッピ、寂しいん?」
「は?」
「いや」
ゾムさんは笑って、前を向いた。
「なんでもない」
「なんなんですか、それ」
「別に」
それ以上は何も言わなかった。
俺も聞かなかった。
聞いたら、何かが変わってしまいそうな気がした。
放課後、教室に忘れたノートを取りに戻ると、ゾムさんがまだ廊下にいた。
「お、ショッピ」
「何してるんですか」
「先生に頼まれてプリント運んでた」
「三年生なのに雑用させられてるんですね」
「後輩に言われたないわ」
そう言いながら、ゾムさんがプリントの束を俺に渡してくる。
「持って」
「なんで俺が」
「後輩やから」
「横暴やな」
「はいはい」
二人で職員室まで歩く。
階段を降りながら、ゾムさんがふと口を開いた。
「ショッピ」
「はい」
「来年、お前が三年になるんやな」
「……そうですね」
「なんか変な感じするわ」
「俺もです」
それ以上、言葉が続かなかった。
来年。
その頃には、ゾムさんはこの学校にはいない。
俺が三年になっても、ゾムさんはもうここにいない。
当たり前のことやのに。
考えるだけで、妙に息苦しくなった。
「まあ」
ゾムさんが階段を二段飛ばしで降りながら言う。
「まだ一年あるしな」
「……一年しか、ないですよ」
思わず口から出た。
ゾムさんが振り返る。
「ショッピ?」
「……なんでもないです」
先に階段を降りる。
後ろからゾムさんがついてくる。
足音が近い。
それだけで、少し安心した。
帰り道、校門を出たところでゾムさんと別れた。
「じゃ、また明日」
「はい。また明日」
ゾムさんが手を上げる。
俺も軽く手を上げ返す。
いつもの別れ方。
明日も会う。
明後日も、その次の日も。
そう思っていた。
でも、その「いつも」が一年後にはなくなる。
家に帰ってからも、そんなことばかり考えていた。
別に、ゾムさんが卒業したって、会おうと思えば会える。
学校が違うだけ。
一歳しか違わないんやから、連絡を取ることだってできる。
それなのに。
なんでこんなに嫌なんやろう。
ベッドに寝転がって、スマホを見る。
通知は何もない。
自分から連絡するほどの用事もない。
スマホを伏せる。
また手に取る。
結局、何もない画面を眺める。
「……何してんねやろ、俺」
小さく呟いた。
ゾムさんのことを考える。
朝、教室まで来てくれたこと。
昼休みに呼んでくれたこと。
帰り道に一緒に歩いたこと。
どれも、去年からずっと続いている。
たぶん、今年も続く。
そう思っていた。
けれど。
ふと、昼間の言葉を思い出す。
『まだ一年あるしな』
一年。
長いようで、きっと短い。
その一年が終わったら、俺たちは今みたいに会えなくなる。
そのとき、自分がどう思うのか。
まだ分からない。
……分からないことにしておきたかった。
春の夜は、少しだけ寒かった。
窓の外で、風に煽られた桜の花びらがひとつ、暗闇に消えていく。
俺はそれをぼんやり眺めながら、目を閉じた。
明日になれば、また会える。
今は、それで十分や。
そう思った。
それで十分やと、思うことにした。
2026-10-03
コメント
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**はる。です!** めっちゃわかる……「まだ一年ある」と「一年しかない」の温度差、ショッピの視点だからこそ痛いほど伝わってきた。朝の教室で「調子が狂う」って内心で呟くところとか、帰ってからスマホを伏せたりまた手に取ったりする仕草まですごくリアルで、胸がぎゅっとなる。 関西弁のやり取りも自然で心地いいのに、その奥にある「いつもが続かないかも」っていう焦りが切なくて泣ける。まだ第1話なのにこんなに引き込まれるのずるいですよ……続きめっちゃ気になる!