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 二十分が経過した。両チームともいまだ無得点だった。ヴァルサのボール支配率は非常に高く、シュートも何本も浴びせていた。だが、暁たちの身を挺したプレーによって、ぎりぎりで防がれてばかりだった。

 ヴァルサがフリーキックを取った。キッカーは天馬だった。両手持ちしたボールを下ろし、とんっと地面に据えた。やがてゆっくりと下がり、静止する。

 笛が鳴った。天馬、おもむろに駆け、右足で捉えた。横回転のボールは人の壁を越え、左下に鋭く落ちながらゴールに向かう。

 キーパー跳躍。左手に当てた。カンッ! ボールはクロスバーに当たり、壁のほうへと跳ねていく。

 駆け寄った暁が腿で止めた。しかしヴァルサは、レオン含めて三人が詰める。

 暁、後方に倒れ込みつつ右足を振り抜いた。暁が足の甲で捉えたボールは、大きな弧の軌道でヴァルサ陣地へと飛来する。

(オーバーヘッドキック! 開始早々のダイビング・ヘッドといい、アクロバティックだな、遼河! ……それにしても、一点が遠い。嫌な雰囲気が漂ってきてる)

 神白が危惧を強めていると、ボールが落ちてきた。落下点では、ヴァルサ6番とヴィライア8番がポジション争いを始める。

 競り勝った8番が頭で触れた。ボールはもう一度弧を描き、ヴァルサディフェンスまで到達する。

「李!」神白が反射的に叫ぶと、センターバック、フリーの状態の李が反応。左足を出して止めようとする。

 だがトラップしたボールは、神白の想定より前に行った。(やばい!)身構える神白の視線の先で、零れたボールを奪取すべく敵9番が走り寄る。

 先に9番が触れた。李は滑り込んだ。スライディングが右足首にかかり、9番は倒れた。ピピーッ! 高らかに笛が鳴り、主審が李へと走ってくる。

 胸元に手をやり、主審はカードを取り出した。色は黄色。イエロー・カード。もう一枚貰えば退場である。

 失意の表情を浮かべつつ、李はとぼとぼとゴール方向へ歩き始めた。

「李! 気にするな! 次だ、次!」神白は即座に励ましの声をかけた。李は顔を上げ、小さく頷いた。

 

 

 ファールの反則により、ヴィライアのフリーキックになった。場所はゴール正面、ペナルティーエリアのわずか外だった。

「アリウム! もっと右だ! 隙間を作るな!」神白は中腰で構えつつ、守備陣に指示を飛ばす。視線の先ではヴァルサの壁を中心に、両チームの面々が動き回っている。

 蹴るのは暁だ。ボールを一度、額の高さまで持っていき、しばらくしてから置いた。

 暁は、大股で後ろへと歩いていった。立ち止まると、すうっと綺麗な仁王立ちの姿勢になる。集中を高めるためのルーティーンだった。

 ホイッスルが鳴り響き、暁は動き始めた。やがて、ドンッ! 鈍い音とともにボールが飛んでくる。

 神白は目を凝らし、(ブレ球!)即断して右上に跳んだ。

 ボールがゴール右隅を襲う。触れられそうなコースだ。神白は確信する。

 しかし、ボールは不自然に落ちた。無回転シュートだった。

 指は掠ったが勢いは止められない。ボールは神白の後方に行き、ネットを揺らした。

 次の瞬間、暁が咆哮した。ヴィライアのメンバーは、歓喜の表情で次々と暁に駆け寄っていく。

(くそっ! 読めたのに防げなかった!)神白が悔やんでいると、「イツキ! 項垂れるな! 良い反応だったぞ!」とベンチのゴドイから大声が飛んできた。

 神白はゴドイのいるベンチに視線を向けた。皆、面持ちは重いが、諦めた風な者は当然いない。

 ふうっと息を吐き、神白は再び集中を高め始めた。試合はまだ一時間以上あり、逆転の望みを捨てるにはあまりにも早かった。

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