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 カウチソファに腹這いになりながら雑誌を読んでいたウーヴェは、間近で小気味よい音が響いたことに気付き、顔を振り向ける。

 ウーヴェの視線の先では大好物を手にした子どものような顔のリオンが鼻歌交じりに正方形のチョコを割っているところだった。

 そのチョコが好きで仕方が無いと広言して憚らない己の恋人は、職場で上司が隠し持っている同じメーカーのチョコを奪い取ることを日課にしているとも広言していたが、そのチョコはリオンと一緒に暮らすようになったウーヴェがパントリーについつい買い置きするようになっていたもので、今日もまたそこから引っ張り出してきたそれを割り、今まさに食べようと口を開けているが、その様が本当に子どものようで微笑ましさを感じていたウーヴェだったが、その視線に気付いたらしいリオンがチョコを咥えたまま顔を向けてきたため、目を瞬かせる。

「ほーふぇ?」

「だからいつも言っているが、口に何か入れているときに話しても分からないぞ」

 ウーヴェの苦笑交じりの言葉に蒼い目を見開いた後、チョコを咀嚼して飲み込んだらしいリオンが太い笑みを浮かべてウーヴェがいるカウチ部分へと四つん這いになって顔を寄せてくる。

「確かにそうだけどさ、名前ぐらい分かるだろ?」

 確かに己の名前が呼ばれているかどうかぐらいは判断出来るが、だからといってそれを素直に認める気持ちにならないウーヴェは、その通りだがでもダメだと告げて目を細める。

「えー、何だよ、それ。訳わかんねぇ」

 途端、笑み崩れていた頬が不満に膨らみ、ああ、そういう所が端的にリオンを表すものでもあるのだと再認識したウーヴェは、不満を顔だけではなく身体全体で表現し始めたリオンに気付いて吐息を零しつつ起き上がると、正対するように座り込んでくすんだ金髪を掻き上げてなでつけてやる。

「リーオ」

「……んだよ」

「今食べているのは何のチョコだ?」

 この一言で機嫌が一気に直るほど大人ではないが、だからといっていつまでも拗ねている子どもでもないことを教えるように視線を泳がせた後、振り返ってテーブルに置いたチョコの欠片を摘まんでウーヴェに向き直る。

「リーオ?」

「はい、あーん」

 差し出されるチョコの欠片にはナッツの欠片も見えていて、何を食べているのかを教えてくれていたが、自ら味わえと差し出され、食べたい思いと気恥ずかしさを天秤に掛けたウーヴェは、食べてくれないのかと拗ね出しかねない気配と食べる事を疑っていない気持ちを感じ取り、羞恥を押し隠してリオンの指ごとチョコを食べるとくすぐったかったのか肩を竦めて小さく笑う。

「オーヴェ、くすぐってぇ!」

「そうか?」

 チョコをしっかりと食べた後にお礼とイタズラを兼ねてリオンの爪に軽く歯を立てると、小さな笑い声が続けざまに流れだし、不機嫌が上機嫌に取って代わったことを教えてくれる。

「な、チョコ美味かった?」

「ああ」

 久しぶりに食べると美味しいものだなと笑い指の腹を舐めると、リオンの手が今度はウーヴェの頭に回されて軽く引き寄せられる。

 その手に逆らわずに上体を寄せるとチョコの味が残る唇が重ねられ、どちらの口内に残っていたのかが分からない味を感じてしまう。

「……ん……」

「オーヴェ、チョコいつも買っててくれてありがとうな」

 互いの吐息を感じる距離で告げられる謝意にウーヴェが目を閉じてうんと返せば、リオンも同じ顔でうんと返す。

 その後、額と額を軽くふれあわせてどちらからともなく小さく笑い合うと、先程の爆弾へと成長しかねない感情が霧散していく。

 チョコが本当に美味しかったが、そればかりをおやつに食べていると身体に対する影響が大きいからあまり食べ過ぎるなと忠告すると、途端にリオンが身に纏う空気が一変するが、耳元で小さく吼えられたかと思うとさっきは腹這いになっていたソファに背中から押し倒される。

「こらっ!」

「せっかく機嫌良くなったのにさぁ、オーヴェのイジワル!」

「はは、仕方が無いだろ?」

 むくれた顔で見下ろしてくるリオンが可愛くて仕方が無かったが、それを口にすれば本格的にへそを曲げかねないどころか家を飛び出す可能性すらあるため、ウーヴェにだけ出来る方法で機嫌を取ることにする。

 笑いながら仕方が無いと告げてまだ膨れる頬に手を宛がった後、不満に染まるロイヤルブルーの双眸を真っ直ぐに見つめたウーヴェは、何をするつもりか見守るようなリオンに自然と浮かぶ笑みを見せて口を開く。

「リーオ――俺の太陽」

 太陽はいつもいつまでも上空で輝いているがその太陽のようにいつも元気でいて欲しいんだと笑うと、一瞬驚きに蒼い目を瞠った後、ウーヴェが望んでいる顔で破顔一笑する。

「ダンケ、オーヴェ」

「ああ」

 自分を思っての言葉だとは分かっているがそれを口に出してくれるお前が好きだと笑って額を再度重ねてきたため、その言葉を受け入れるように背中に手を回してぽんと叩く。

「人の忠告を素直に聞き入れてくれる恋人で嬉しいな」

「どーだ、賢いだろ?」

「ああ」

 お前は本当に賢いと笑ってリオンの背中を抱いたウーヴェは、耳元で楽しげな笑い声が聞こえてきたことに安堵し、珍しいことにもう少しチョコが食べたいと告げるとリオンが嬉しそうな顔でウーヴェの腕を引いて起こさせる。

「ちょっとだけ食う?」

「ああ」

 リオンの手が再びチョコを割る小気味よい音を立てる様を見守っていたウーヴェは、これもまた再び差し出してくれる手ごと食べる勢いでチョコを食べてその甘さが増していることに気付くと、それを口にすればリオンが更に喜ぶことにも気付いている為、耳元に口を寄せてその思いを伝えると、ウーヴェの予想通りにリオンの顔に今日一番の笑みが浮かび上がるのだった。

 その笑顔に頷き、読書に戻ることを伝えて腹這いになると、ウーヴェの腰を枕代わりにしたリオンが欠伸をしつつもご機嫌の証の鼻歌を歌い始めるのだった。

 テーブルの上には二人の心身を満たしたチョコが、ラッピングの端から二人を見守るようにそっと顔を出しているのだった。




Über das glückliche Leben.

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