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芥川は絶対女体化したら貧乳だと思う。(大声
ポートマフィアの薄暗い洗面所。芥川龍之介(♀)は、鏡の前で自分の身体を検分していた。 任務で汚れ、着替えのために脱ぎ捨てられた黒い外套。その下に隠された身体は、驚くほど線が細く、しなやかだ。しかし、彼女の視線は一点に釘付けになり、やがて苦々しく歪んだ。
「……やはり、微塵も変わらぬな」
指先でそっと、胸元の緩やかな傾斜をなぞる。 彼女が心から敬愛する太宰治(♀)は、女性としても完成された美しさを持っていた。中也(♂)が「おい、その薄着で出歩くんじゃねぇっつってんだろ!」と吠えながら、自分の上着を乱暴に、けれど慈しむように彼女の肩にかける光景を、芥川は何度も見てきた。
太宰の持つ、あのたおやかな肉体。それがあれば、自分も少しはあの人の視界に「価値あるもの」として映ったのだろうか。 芥川は、己の胸元にあるはずの「女性らしさ」の欠落を、そのまま自身の「能力の不足」であるかのように感じていた。
「……っ、ふん。下らぬ」
自嘲気味に吐き捨て、シャツのボタンを上まで留める。 その時だった。
「……えっ、芥川。今、何か悩み事してた?」
「――――ッ!?」
背後から響いた、場違いなほど明るく、けれどどこか粘り気のある声。 振り返るよりも速く、羅生門が黒い獣となって背後の空間を切り裂いた。しかし、侵入者――中島敦は、慣れた手つきでそれを回避し、事もなげに芥川の至近距離まで踏み込んでくる。
「貴様……! ここをどこだと思っている。死にたいのか、人虎!」
「あはは、ごめんごめん。でも、君が鏡の前ですごく悲しそうな顔をしてたから。……もしかして、また『それ』を気にしてるの?」
敦の視線が、芥川が今しがたボタンで隠した「胸元」へと向けられる。 芥川の顔が一瞬で真っ赤に染まった。怒りと羞恥で、肩が小刻みに震える。
「……死ね。今すぐ死ね。貴様に、僕の何がわかる……!」
「わかるよ。君は太宰さんみたいになりたいんでしょ? でもね、芥川。それは大きな間違いなんだ」
敦は一歩、また一歩と距離を詰め、芥川を壁際へと追い詰めた。 普段の彼からは想像もつかないような、威圧的な、けれど甘い「虎」の気配。
「いい? 君のその、一切の無駄がないライン。それがどれだけ僕を安心させるか、君にはわからないだろうね」
「……何、を……」
「肉がついているっていうことは、それだけ僕との間に『壁』があるってことだ。でも君は違う。抱きしめれば、君の骨の鳴る音が聞こえる。指を立てれば、すぐそこに君の鼓動を感じる。……遮るものが、何もないんだ」
敦の手が、芥川の頬をそっと撫でる。その指先は熱く、獲物を確認する獣の熱量を帯びていた。
「もし君に余計なものがついてしまったら、僕は君の心臓の音を、今より遠くに感じてしまうかもしれない。……そんなの、耐えられないよ」
「き、貴様……本気で言っているのか……」
「本気だよ。だから、君は今のままでいい。……いや、今のままがいいんだ。君のその平坦で、潔白な、僕だけの聖域を壊さないで」
敦の瞳の奥に、暗い独占欲が渦巻いているのを芥川は見た。 この男は、自分の欠点だと思っている部分を「都合のいい器」として愛しているのだ。逃げ場を失わせ、自分の中に閉じ込めるための、完璧な形として。
「……変態め。やはり貴様は、狂っている」
「そうだね。君のことに関しては、もうずっと前から狂ってるよ。……さあ、変な悩みはもう終わり。帰りに、君のために選んだ『特別なサプリメント』を渡すね。……君の美しさを、そのまま固定するためのやつ」
「……いらぬと言っているッ!」
芥川の罵声を、敦は幸せそうな微笑みで受け流す。 憧れの背中(太宰)には一生届かないかもしれない。けれど、目の前の獣(敦)は、彼女の欠落を「美」と呼び、それを檻にして彼女を閉じ込めようとしている。
芥川は、嫌悪しながらも、自分を逃さない敦の腕の強さに、無意識のうちに抗うことを忘れてしまっていた。
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