テラーノベル
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かなの小さな背中に、はるは額を寄せたまま、そっと目を閉じた。
だけど、何かがこみ上げてくる。胸の奥が熱くて、苦しくて、言葉が出ない。
しばらくして、かなが振り返ろうとしたその時――
「……ごめんね……わたし、今……泣いてる……」
かすれた声で、はるが言った。
かなの瞳が驚きに揺れる。あの完璧で冷静で、誰よりも強く見えた生徒会長――はるが、自分のために涙を流している。
その涙に触れた瞬間、かなはもう、何も強がれなかった。
ゆっくり、はるに向き直り、そっとその手を取る。
「……あたし、話すよ。ちゃんと全部。」
静かな声で、かなは語り始めた。
⸻
母親と父親は、かなが小学生の頃に離婚した。
母親の再婚相手は優しく、でも「血の繋がらない子」に対して、どこか線を引いていた。新しい家庭でのかなの立場は、居候のようなもの。義父の連れ子である弟や妹は可愛がられ、母親も次第にその「新しい家族」の側に寄っていった。
かながどんなに笑っても、泣いても、母は「ごめんね」の一言で終わらせた。
家の中には、味方がいなかった。唯一優しかったのは、実の父親。
でも、親権は母親にあったから、なかなか会えず、連絡も限られていた。
そんな日々の中で、かなは心を閉ざしていった。誰も信じられなかった。信じて、裏切られるのが怖かったから。
⸻
話し終えたあと、かなは震える手でスマホを取り出し、登録していた「お父さん」の名前をタップする。
「……来てほしいの。今すぐ……」
電話の向こうの父の声は変わらず優しくて、すぐに「行く」と言ってくれた。
電話を切ると、かなははるに寄りかかるようにして、ぽつりと呟いた。
「……まだ、信じてもいいのかな。誰かを。」
はるは何も言わずに、その手を握り返す。
「信じて。あたしは、絶対にかなの味方だよ。」
涙の後に残った、初めての安らぎが、かなの胸にそっと染み込んでいった。
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