テラーノベル
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やがて小一時間で花斗が起きると、私たちは帰路についた。
帰り道の途中、行きにも通った公園で、花斗が遊びたいと駄々をこねる。
だから、少しだけ寄り道することにした。
公園につくと、花斗はリュックを私に預けて遊具へ走っていく。平日の昼間だからか、他には誰もいない。
私と壱月は、遊具近くのベンチに並んで座った。
花斗はスタスタ階段を登り、滑り台を滑って降りるのを繰り返している。
「お義父さんの話、さ。正直、響いた」
壱月は花斗に視線を向けながら、話し始めた。
「つい勢いであんなことを言ってしまったが、正直……自信はない」
壱月は自嘲するように「へへ」っと笑う。
「私も自信なんてないよ。でも、きっと心構えさえしておけば、いつか来る未来、なんとかなるって」
先のことを心配しても仕方ないと、壱月の肩をバシっと叩いた。
「……そうだな」
「うん、そう。幸せな未来を思い描いてたほうが、絶対楽しいよ」
「幸せな未来、か……」
壱月はそう、ぼそっと呟くように言って、それから私の方を向いた。
「なあ、愛音」
「ん?」
「さっきの婚姻届……出しに行こうか」
「え!?」
今から!?
どれだけ急なの!?
「……俺の幸せな未来には、愛音と花斗がいるんだけど」
照れたように頬を染め、壱月はそう言って後頭部を掻いた。
……ズルい。
だって、私の幸せな未来にだって――。
「私の未来にだって、壱月はいるよ。というか、壱月のいない未来なんて……もう、想像できない」
言いながら恥ずかしくなって、視線を花斗に移した。
何度目かの滑り台を、まだ楽しんでいる。
すると、壱月が急に私の視界に入ってくる。それから、その場で不意にひざまずいた。
「愛音、俺と結婚してください」
それは、突然のプロポーズ。
なのに、壱月の胸ポケットから出てきたのは、キラキラと輝く大粒のダイヤが埋め込まれた指輪だ。
い、いつの間に!?!?
壱月は驚き動けない私の左手を取ると、指輪を薬指にはめる。
そして、そこに優しく口づけた。
それでも、私の体は硬直したままだ。ドクンドクンと、心臓の音がやたら大きく聞こえる。
はっとして、口を開くと、驚きすぎた余韻でどもってしまう。
「ど、どど、どうしたの、指輪!」
そんな私に、壱月は眉をハの字に曲げて微笑んだ。
「何日か前にさ、ショットガンマリッジの話を聞いて、……用意した」
壱月も照れくさくなったのか、急に視線をそらす。けれど、手は繋がれたままだ。
そこからじわんと伝わる彼の体温に胸がいっぱいになり、涙があふれそうになった。
「いつきとママ、て、つないでる!」
花斗のその大声で、我に返る。
私は慌てて、壱月の手を振りほどこうとした。けれど、壱月はそれを離してはくれない。
こちらに駆け寄ってきた花斗は「ぼくも〜」と、繋がれた私たちの手の上に、小さな手を乗せる。
その小さな重みも、とても愛おしい。
ニカッと無邪気に笑う花斗を見たら、こらえていたはずの涙が頬を伝ってしまった。
私たちは、家族だ。
きっと、これから先も、ずっと。
「愛音、花斗に……もう伝えても、構わないか?」
壱月も私と同じことを思ったらしい。
私は壱月に向かって、こくんと頷いた。
「花斗、あのな」
壱月は真剣な眼差しで花斗を見つめた。
「俺、花斗のパパなんだ」
「……え? ほんとう!?」
花斗は目をぱちくりさせた後、その顔を綻ばせて飛び上がった。
「いつき、パパ? パパだ!」
そう言ってぴょんぴょん飛び跳ねる花斗を、壱月は抱き上げる。
「あー、まだか。諸々の手続き、してからだけど」
「そんなの、いずれするんだから、いいんじゃない?」
涙を袖でゴシゴシと拭って、私はそう言った。
「あれ、今からじゃないの?」
「私はまだ婚姻届書いてないし、こういうのは大安吉日がいいの! だから、今日は……」
「ははっ! そうだな」
花斗は壱月の腕の上でも、ピョンピョンと体を上下させる。
壱月は「重いぞ!」と言いながらも楽しそうに笑う。
そんなふたりが、とてもとても愛しい。
そう思える自分が、嬉しい。
――ちゃんと、家族になれたんだ。
私たちはマンションまでの道を、三人で笑い合って歩いた。
コメント
1件
ああもう、やられた! 完全に持っていかれたわ…。 壱月が「俺の幸せな未来には、愛音と花斗がいる」って言ったところ、ずるすぎるでしょ。しかも指輪、前もって用意してたのかよ。不器用で真っ直ぐなプロポーズに泣いた。花斗が「パパだ!」って飛び跳ねるシーンで完全に涙腺決壊したわ。 3人で手を重ねるところ、最高にあったかい。家族っていいなあって心の底から思えた話でした🔥