〓〓〓〓〓〓〓あらすじ〓〓〓〓〓〓〓
ここサンジェルマン王国に召喚されたのは、異世界人の勇者拓馬・斉藤。
世界間を渡る召喚の儀には、多大な犠牲がつきものである。
王国がそのような多大な犠牲を払い、異世界の勇者を召喚したのには、もちろんそれなりの理由があった。
その理由とは、魔王を討ち倒してもらうことに尽きる。
これが成されなければ、サンジェルマン王国だけではなく、この世界が滅びることに。
勇者を召喚した後、魔王討伐隊を結成することになった。
魔王討伐には大軍を送れない。その理由は魔王の張る結界にあった。
結界の中には特別な祝福を持つ者しか入れず、その数は五人まで。
以上の理由で、未だ無傷の国々から精鋭達が、このサンジェルマン王国に集まっていた。
殴り合い、魔法の威力を見せ合い、止血の速さを競い合い、木剣での試合を行ない、残ったのは男女四人。
四人にはそれぞれ『拳聖』『魔女』『聖女』『剣鬼』の称号と共に祝福が与えられ、勇者パーティの一員となった。
魔王へ情報が漏洩する事を恐れた王国上層部は、人類の未来を託した勇者パーティを人知れず、ひっそりと送り出した。
「もう地球には帰れないけど、困っている人達を助けるヒーローになるんだ!そして…あの可愛いお姫様と…」
取らぬ狸の皮算用。
勇者が魔王討伐後の報酬として願ったのは、もちろん地球への帰還。しかし、それは人智の及ぶところではなく、不可能と言われ、勇者は酷く落ち込んでしまう。
そんな勇者を優しさで支えたのは、大陸中の吟遊詩人が歌う絶世の美少女。
少女の名はナナリー・クリファ・サンジェルマン。サンジェルマン王国の第一王女その人であった。
国王に王女との婚姻の約束を取り付けた勇者は、魔王討伐を果たし、無事帰還した。
物語は帰還直後、凱旋パレードから始まる。
〓〓〓〓〓ここまでがあらすじ〓〓〓〓〓
〓〓〓〓〓〓ここからが本編〓〓〓〓〓〓
「報告しますっ!!」
金属鎧を掻き鳴らし、玉座の間に飛び込んできた騎士がそう告げる。
居並ぶ王侯貴族達と勇者パーティの面々は、次の言葉を固唾を呑んで見守っている。
「神器…見つかりましたっ!」
「おおっ…して。犯人は?」
騎士の言葉に国王が問う。
「は、犯人は…勇者…です!」
「馬鹿な…」「う、嘘ですわ…」「マジかよ…」
騎士は犯人が勇者だと告げた。流石に犯人に敬称は拙いと思ったのか、騎士の言葉が詰まる。
国王は国の英雄がなぜ?と唖然とし、未だ婚約者ではないが、心優しく、仲睦まじい様子を以前から見せていた王女も信じられないでいた。
仲間達からも次々に声があがり、自然とその視線は勇者へと集まる。
「嘘だろ?なぁ?」
旅の間に絆を深めた仲間の一人、剣鬼ロードナントが勇者に問う。
「当たり前だろ!何で魔王を倒してこれからって時に、盗みなんて働くんだよ!」
「そうですね。いくら頭の悪いタクマであっても、王女殿下と結婚すれば、ゆくゆくはその神器が自分の物になるとわかっていたはず。
盗む理由がありません」
勇者タクマの声にいち早く同意を示したのは、言葉使いは丁寧でも一々棘のある言葉選びをする魔女アフロディーテだった。
「し、しかし…神器が勇者の私室に隠されていたのも事実です」
このままいけば、責められるのは自分になる。そう感じた騎士が、さらに詳しく説明をした。
「うーむ…」
板挟みに合い、苦慮する国王。そこへ、この国の宰相が提案の声をあげる。
「陛下。勇者殿には申し訳ないですが、一先ず軟禁といった方法もあります」
「な、なにを…」
宰相の提案に王女は驚きを隠せない。この国は救国の英雄にその様な扱いをするのかと。
「…よし。では嫌疑が晴れるまで勇者タクマには不便を掛けるが、その様にしよう」
「おと…陛下っ!」
「黙っておれっ!タクマ。許して欲しい」
「…まぁ、ちゃんと調べてくれるなら」
「それは約束しよう。連れて行け」
国王が下した沙汰に、王女は不満を隠せないでいる。
だが、勇者が同意したことにより、それはなされた。
この国に突如として現れた英雄。その英雄が起こしたとされる窃盗事件には、緘口令が敷かれた。
「陛下!私は未だ勇者様にとっての何者でもありません!
ですので、王族の一人としてお願いがあります!」
勇者が去った玉座の間、そこで王女が国王に訴える。
「…申せ」
「私に、勇者様の嫌疑を晴らす機会を、お与えください」
「っ!!お主が調べると申すか?」
王女は才色兼備揃った王国の宝と言われている。
しかし、その知は少女の領域を大きくは逸脱していない。
だが……
「…良かろう。好きにするがいい」
「はい。ありがとうございます」
国王である前に一人の父親でもある。この判断がどう出るのか、未だ誰にもわからない。
「では、皆様。ここで聞きたいことが二つあります。まず、勇者様の部屋の警護をされていた騎士方。
部屋に入れた人がいたのか、そして、それは誰なのかを、教えてください。
それがわかるまでですが、皆様退室なされないよう、お願いします」
王女の取り調べが、幕を開けた。
うぉおおおっ!!きゃーーっ!!ありがとーーっ!!
街は文字通りお祭り騒ぎとなっている。
それもそのはず、これまで城壁の中で我慢に我慢を重ねていたのだ。
その諸悪の根源である魔王を、勇者パーティが無事に討ち果たした。それを喜ばなくて、何を喜べというのか。
凱旋パレードを終えた勇者一行は、城へと辿り着いていた。
「じゃあ国王様への報告の前に、各々休むとするか」
王都への帰還早々、凱旋パレードをしたのだ。そして、ここまで数え切れない死線を潜りながら、半年を過ごした。目に見えない疲れが溜まっていて当然だろう。
「確か報告は夕方のパーティ後でしたね。私は神への報告を先に済ませておきますわ」
聖母の様な慈しみの笑みを浮かべる聖女マリア。聖女は王城から、王都内の教会へと歩み出した。
その背を見送った四人は、各々用意されている自室へと向かっていく。
そして事件は起きた。
盗まれたのは神器。神器とは、ただの飾りではなく、世界に存在する魔の物からこの国を守る為に、神が王家の祖先に託した秘宝である。
神器が見つかったとはいえ、国を、はたまた世界を揺るがしかねない事件。犯人が見つかるまで、犯人探しが終わることはない。
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