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勇者は城の一角に幽閉された。
私は無力です。命を預け合った仲間の窮地にも関わらず、助ける術を持たない。
タクマさんはいつも、どんな時でも、他人を優先していたのに……
私はあの方から沢山のモノを学びました。どうすれば、この御恩を返せますか?
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コンコンッ
「どうぞ」
ガチャ
「失礼します。今、お話をお伺いしても?」
「ええ。王女殿下、勿論ですわ」
私が部屋を訪ねると、聖女様は快く迎えてくれました。
「どうぞ、お掛けになってくださいませ」
そう言うと、テーブルの上のティーセットで、用意していたお茶を淹れてくださいます。
ここまで準備がいいと、疑いようがありません。聖女様は近未来を予知する事が出来る。これは嘘ではないのでしょう。
「この事件は予知出来なかったのでしょうか?」
「はい。この力は万能ではありませんわ。近い将来、それも見たいから視えるといったものでもございません」
なるほど……
嘘か本当かはわかりませんが、疑えばキリがありません。今は確かめられることだけを確かめましょう。
「パレードの後、聖女様はどちらに?」
「私は城の入り口で仲間達と別れ、王都の大聖堂へ向かいました」
「…そこでは何を?」
「神への祈りと報告です。大司教様も横に居られたので、聞いていただければすぐに分かることかと」
確かに。
ですが、大司教様がグルではないと……いえ、この場合は神のお告げとでもいえば、敬虔な教徒である聖女様を使う事は可能でしょう。
でも、何の為に?
「わかりました。後日お伺いしますね。その後はどう過ごされましたか?」
「はい。仲間との待ち合わせまで時間があったので、孤児院に顔を出し、この旅で得られたお金を寄付し、お手伝いをしていましたわ。
お城へ向かったのは、待ち合わせ時間でしたので、勇者タクマさんの部屋へは、仲間達と訪れた一度きりですわ」
……準備もアリバイも完璧ですね。
そもそも物が物ですから、聖女様が盗んだとは考えづらいですか・・・。
「私からも一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「?はい。何でしょう?」
考え事をしていた私に、聖女様が質問をしてきました。
聖女様でも人に教えを乞うことがあるのですね。恐ろしくもありますが、少しドキドキしてきました。何故でしょうか……
「盗まれたとされる神器は、どの様に保管なされていたのでしょう?」
それは……知りたくて当たり前ですね…こちらの不手際で紛失した可能性もあるのですから。
ですが……
「機密事項なのでお答えできません。但し、一つ言えることは、誰でも持ち出せるわけではないと言うこと。
可能なのは、陛下と宰相、そして……言いづらいですが、人外の力を持つあなた方、勇者パーティの面々くらいでしょう」
勇者パーティの皆様は、王都出立前に大聖堂で神の加護を授かっています。
元々お強かった方々です。その力は人の及びつかないところまで昇華されていると聞いています。
私の返答に聖女様が一応の納得を見せたところで、今回の聴取は終わりを迎えました。
「タクマ様……」
ここは城にいくつかある尖塔の一つ。その一つに幽閉されている、勇者タクマ様の元を訪れています。
早く終わってほしい日課ですね。
「ナナリー姫…!言ったはずだ。姫はこの様な所へ来てはダメだと…」
「いえ。何度でも来ます。私達はタクマ様に魔王の魔の手から救われたのです!今度は私が必ずやタクマ様をここから救い出します!」
「ナナリー姫……ありがとう。もう少し頑張れそうだ」
そう言ってタクマ様は力なく微笑みました。
何故誰よりも優しい勇者様が……
私はタクマ様の気を間際らせる為に、世間話をします。これも日課ですね。
「そうか。マリアは相変わらずか」
「はい。聖女様はお綺麗ですから少し萎縮してしまいます。女の私でも、ドキっとする事があります」
聖女様はその名の通り、いつも優しい笑みを浮かべています。美人なのですが、それよりも色気…というのでしょうか、とてもグラマラスな体型で、まるで誘惑しているかの様に錯覚することがあります。
女の私でもそう感じるのです。男の方は大変でしょう。
聖女様自身は『この身は神に捧げたもの』といい、縁談や求婚を全てお断りしているとか。
「ははっ。そうなんだ?確かに聖女は美人だけど、俺は世話ばかり焼かせていたからなぁ。俺からしたらお袋って感じだな」
これは本人には黙っててくれよ?殺されるから……と、タクマ様は笑いながら話してくれました。
良かった…この方が笑ってくれないと、胸が張り裂けてしまいます。