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ルクシアの勝利から、わずか数分後。
闘技場の熱は、むしろ高まっていた。
「次の試合、準備でき次第開始する!」
司会の声に、観客席がどよめく。
「え、もう次!?」
「休憩なしなのか?」
「一般の部ってこんなに過酷だったか?」
私は控え区画で、水を受け取っていた。
「……ルクシア」
ユリウスがしゃがみこみ、真剣な目で私を見る。
「少しでも違和感があったら、すぐ言え」
「無理は――」
「するわけないでしょ」
私は、小さく笑った。
「ちゃんと、コントロールできてる」
それは強がりじゃない。
本当だった。
胸の奥で、光と闇は静かに並び、互いを侵さない。
――まるで、最初からそうあるべきだったかのように。
***
「一般の部・第二試合!」
次に現れたのは、風術師と雷術師の二人組。
「……子ども相手でも、手加減はしない」
「むしろ全力で行く」
さっきまでの嘲笑は、もうない。
あるのは、明確な警戒。
試合開始と同時に、暴風と雷光が交錯する。
私は、深く息を吸った。
(まとめて……流す)
光が広がり、闇が支える。
相反する力が、衝突せずに“受け皿”となる。
――暴風は逸れ、雷は地面へと吸い込まれた。
「……は?」
次の瞬間。
私は、一歩、踏み出す。
光が走り、闇が縫い止める。
二人は、同時に膝をついた。
「勝者、ルクシア!」
歓声。
――いや、もはや熱狂だった。
「まただ!」
「連勝……!」
「詠唱なし、制御完璧……!」
観客席の一角。
「……見えたか」
低い声。
騎士団長が、腕を組んで闘技場を見つめていた。
「ええ」
その隣で、学院の高位魔導師が眼鏡越しに目を細める。
「光属性だけでは説明がつきません」
「……もう一つ、別の系統が絡んでいる」
騎士団長の視線が、鋭くなる。
「闇、か?」
その言葉に、空気が一瞬、張り詰めた。
***
三戦目。
四戦目。
誰もが、全力で来る。
それでも――
私は、倒れなかった。
光で守り、
闇で抑え、
決して“壊しすぎない”。
(怒らない)
あの時みたいには、ならない。
――守るために使う。
その想いが、力を安定させていた。
「……信じられない」
「一般の部で、ここまで連勝する子が……」
王族席。
王妃は、そっと胸元に手を当てていた。
「この子……本当に、強くなったのですね」
王は、静かに頷く。
「強さだけではない」
「“理性”がある」
それは、王としての評価だった。
***
だが――
五戦目を終えた、その直後。
私は、ほんの一瞬だけ、足元が揺れた。
(……あ)
それを、見逃す者はいなかった。
「ルクシア!」
ユリウスが立ち上がる。
「今の、見た?」
「疲労が……」
リヒトが、即座に私の前に立つ。
「ここまでだ」
「でも――」
「十分だ」
その声は、強かった。
同時に、闘技場の外から重い足音が響く。
――騎士団。
そして、学院の正式な使者。
「ルクシア殿」
騎士団長が、片膝をつく。
「あなたの魔力と戦闘は、王国の想定を超えています」
「安全確保のため、これ以上の出場は――」
観客席が、ざわめく。
「止めるのか?」
「ここまで来て?」
私は、リヒトを見上げた。
彼は、小さく頷く。
「誇っていい」
「君は、もう証明した」
過保護組が、全力で頷いている。
「……十分すぎる」
「心臓に悪い」
「生きててくれたらそれでいい」
私は、ゆっくりと息を吐いた。
「……わかりました」
そして、闘技場を振り返る。
歓声。
視線。
期待と畏怖。
――英雄を見る目と、異端を見る目。
両方が、そこにあった。
私は、深く一礼する。
その瞬間。
拍手が、嵐のように巻き起こった。
年齢も、立場も関係ない。
ただ一人の魔術師として。
ルクシアは、この日、王都に名を刻んだ。
――そして。
学院と騎士団、王族が動いた今。
彼女の日常は、もう“元”には戻らない。
物語は、次の段階へ進む。
守られる存在から、
世界に影響を与える存在へ。
その第一歩は、確かに踏み出された。