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生物研究者・日向﨑 證の記録
ある日、私の研究室に一人の青年が訪れた。
彼の瞳は、人間のそれとは遠くかけ離れた色をしていた。
以下、彼の名をF氏とする。
F氏は幼少期に目を負傷して以来、視覚に違和感を抱えていたという。
それが決定的なものになったのは、十になる頃だった。
――人が、蟲の姿として見えるようになった。
彼は静かな口調で語った。
誰が、どのような形に見えるか。
その説明は克明で、どこか丁寧すぎた。
「Fさんに映る私は、どのような姿をしているのですか」
研究者としては、問うべきでない問いだった。
それでも私は、口にしてしまった。
「とても、美しく魅力的な蝶の姿をしています」
その言葉に、背筋を冷や汗が伝った。
F氏の手が、私の肩にそっと触れていた。
撫でるというより、形を確かめるような、慎重な手つきだった。
「Fさん、そろそろ――」
私は言葉を続けることができなかった。
目を覚まして最初に目に入ったのは、硝子越しに映るF氏の姿だった。
私は巨大なガラス瓶を模した部屋に閉じ込められていた。
視界の端で、密閉という概念が現実の輪郭を持つ。
呼吸が浅くなる。
脳裏に、かつて読んだ標本製作の記述が、説明もなく蘇った。
――標本は、生きたままでは完成しない。
考えを止めようとした、その瞬間。
果実のような、乾いた匂いが満ち始めた。
私は腕で口を覆った。
意味を理解してしまったこと自体が、既に遅かった。
まずい。
そう思ったところで、意識は途切れた。
・・・
暗い書斎で、青年は何かを愛でるように眺めていた。
彼が見上げた先の壁には、物言わぬ〝蝶〟が飾られている。
それは、とても美しく。
彼の世界においては、正しく完成された姿だっ
た。
人が蟲に見える男・了
文章構成参考,ChatGPT