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芝生の青い香りを感じながら、蒼波様はベンチと机があるという、あずま小屋へと向かわれた。そこで私達はリストランテの|料理人《シェフ》の方が作ってくれた、洋風お弁当を広げた。
中身はコロッケにカツレツ、ビフテキ。お魚のフライや蒸し野菜などがびっしり。おにぎりは洋風炊き込みご飯に、梅やおかかもあった。
こんな豪勢なお弁当初めてで、お弁当の芳醇な香りだけでうっとりしてしまっている間に、蒼波様とクリス様はテキパキと正確な動きで、あっと言う間に口に運んでしまう。
私もこの速さを習得しなければ、軍人の妻として務まらないと思い、お二人に倣ってみたが危うく喉に、ご飯を詰ませる結果になってしまった。
けふけふと咽せると、隣に居た蒼波様が苦笑しながら水筒のお茶を差し出してくれた。
「真那、無理はしなくていい。俺たちはどうもゆっくり食べることは出来ない性分でな。真那の分まで食べることはしないから」
「あ、ありがとうございます。こふっ」
貰ったお茶をゆっくりと喉に流し込み、息を整える。すると向かいの席で、おにぎりを一口でパクリと食べたクリス様も苦笑した。
「僕たちはこれでもゆっくりと食事している方なんだけどね。ただ弁当が美味いから、つい早く食べてしまう」
お茶をもう一口飲むと、隣の蒼波様がまた苦笑した。
「俺たちはな、記念行事の特別食や創立記念日や年末年始。長期間の任務などがあるときは特別食が振る舞われる。それは肉や魚や酒など様々だけども、普段の食事に比べてご馳走だから、つい大事にゆっくりと食べようとすると、先輩が『嫌いなら食べてやろう』と、盗られてしまう」
「そうそう。懐かしい思い出だ。でも海軍ではアイスクリームやラムネ、シャーベットが日常的に作られていて、士官や乗組員に振る舞われてたから、それだけで海軍に希望するヤツがいたな」
「アイスクリームにラムネが日常的になんて素敵です。それは本当に豪勢ですね」
甘いお菓子を想像して、ふふっと笑みが溢れてしまう。
「あぁ。弟も無邪気に毎日アイスクリームを食べたいから、海軍がいいと言っていたっけ」
ガス灯の灯りが優しく蒼波様の笑みを包む。
「ふふっ。私も弟さんと気が合うかも──」
そこまで口に出してハッとした。
蒼波様は一番最初に出会ったときに『亡き弟』と言っていた。その弟さんはあの森で蒼波様が襲撃された要因にも何か、関わってるらしいのは私でも把握していた。
それを軽やかな口調で言ってしまったと、心臓がキュッと縮みあがりそうになる瞬間。
蒼波様の「真那」と私の名を呼ぶ優しい声が聞こえた。
その声には『気にするな』と言う言葉も含まれているように感じて、蒼波様を上目使いで見た。
「さてと……腹も膨れて丁度よい頃合いだ。俺の家のこと、森で襲撃にあったことを話そうと思う。なに、真那は弁当を摘みながら俺の話を聞いてくれ。クリスはいつも通り、適当に横槍を入れてくれたらいい」
クリス様は重箱のリンゴを摘みながら「|Yes, my lord《仰せのままに》」と、軽く返事をされた。
蒼波様は首元で硬く結ばれていた、ネクタイをシュッと解いた。
お二人の行動に背筋を伸ばして聞かなくてもいい、と言うのは分かった。
それでも血に塗れ、地面に伏した蒼波様の記憶はいまだに新しい。
そこに至った理由を今から聞くのだから、やはり緊張してしまう。
軽く息を整え、芝生の夜気をまとった香りをたっぷりと肺にいれる。
そして、水筒の杯を机に置いて拳をキュッと握り締めて耳を澄ました。
蒼波様はゆっくりと過去の海を泳ぐように、私に教えてくれた。
蒼波家は代々戦争で武勲を立ててきたが、大正時代になると民主主義的、自由主義的な思想や運動が高まり、いずれ戦争は起こらなくなる可能性があると察した。
そのとき蒼波家は男爵の爵位を既に持っていたが、永遠に家名で糊口を凌げる訳もない。
そこで蒼波一族が考えたのは、潤沢な資金を用いた傾きかけた実業家達の支援だった。借金を肩代わりして援助をし、再建のあかつきには利益を得る。
筆頭株主に踊り出るなど、武勲以外の稼ぎ方を進めたのだ。
その中の一つには──政略結婚があった。
第一次世界大戦後、激しい経済の乱高下により、各地で不当な土地買収が社会問題化した。
そんな時、とある地主が持つ広大な一等地が国に強制回収されそうになったところを、財政界にも顔が利く蒼波家が助けに入った。
消してその見返りというわけではないが、地主の娘と蒼波家長男との結婚を求めた──
「それが俺の父と母だ」
そこで初めて、蒼波様は皮肉気に笑った。
「それは……」
返す言葉が見つからなくて口籠ると、私の手にクリス様がポンとおにぎりを置いた。思わずクリス様を見る。
「母親の一族からしたら、蒼波家のお家乗っ取りだね。それはそうと、真那はもっと食べるべきだ」
「おにぎりをありがとうございます。しかし、乗っ取りだなんて、それは」
言いすぎでは? と言おうと思ったら、次は蒼波様が私の前におかずが詰まったお重を差し出した。
コメント
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お疲れさま〜第31話読んだよ🌸 洋風お弁当、めっちゃ豪華でいいな…! コロッケにビフテキ、しかもアイスクリームやラムネが海軍で日常食だったエピソード、なんだかロマン感じる😭💕 真那ちゃんが早食い覚えようとしてむせるシーン、ちょっと可愛いくて笑っちゃった…(ごめん!) でもそこから蒼波様の家族の話に切り替わる流れ、一気に空気変わったね。弟さんや政略結婚の話、重い過去が少しずつ見えてきて切ない…。次、続きすごく気になるよ…!