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真奈にはああ言われたけど、私のことで余計な心配かけたくない。柊君には、仕事以外では、いつも笑っててほしいから。
穏やかな柊君の笑顔に、私は何度癒されたかわからない。あの笑顔を私のせいで曇らせたくはなかった。
そうだ――
もし佐藤君が来たら、部屋に鍵をかければいいだけ。相手にしなければ、きっと諦める。
大学時代、自由気ままに女の子と付き合って、好きなように遊んで、私は傷つけられた。そんな人だってわかってたら絶対に付き合ったりしなかった。
なのに今さら私に何を相談したいっていうの?
本当、勝手過ぎるよ……
嫌だ、さっきから佐藤君の怖い顔が思い出されて、体の震えが止まらない。
早くマンションにたどり着きたい。
もし、今、すぐ横に柊君がいてくれたら……
そんな思いが頭をよぎる。
私、本当は柊君に頼りたい。
頼って、「怖い」って、自分の気持ちをちゃんと伝えたい。
大好きな人に守ってもらいたい――
その時、携帯が鳴り、ビクッとして肩がキュッとなった。
画面には「柊君」の文字。
その名前を見てすごくホッとして、急いで着信ボタンを押した。
『柚葉?』
「柊君……」
『どうした? 声が変だけど、何かあった?』
「ううん、何もないよ。それより……柊君は? 仕事中でしょ?」
『取引先の人に会ってて、今、少しだけ時間が空いたんだ。そしたら急に、柚葉の声が聞きたくなって……』
聞き慣れた柊君の優しい声。
この声、すごく安心できる。
「ありがとう、嬉しい。私もちょうど声聞きたいなって思ってたから……」
思っていたことをつい言葉にしてしまった。
『そっか。ちょっと今抱えてる仕事がいろいろあって。でも、柚葉の声聞いたから頑張れるよ。真奈ちゃんと会ってたんだよね? ごめんね』
「……ううん、もう別れたから、全然大丈夫。柊君、お仕事……頑張ってね」
たまらなく不安なくせに、強がってしまう自分が虚しい。
本当にダメだな、私。
自分の気持ちをちゃんと言えないなんて……
どうしてこんな女を柊君は選んでくれたんだろう。
電話を切った瞬間、ふと、柊君と付き合い始めた頃のことが頭に浮かんだ。
~1月3日~
『柊君と付き合って1ヶ月が過ぎた。こうして日記をつけるようになってからもう1ヶ月。毎日、すごく幸せ。このままこの幸せがずっと続けばいいなって思う。今日、柊君が、柚葉の存在自体が俺の生き甲斐だって言ってくれて、ものすごく嬉しかった』
お正月の3日目、その日はかなり寒い日だった。
白い息を吐きながら、駅から柊君のマンションまで、2人でゆっくり歩道を歩いた。
分厚い手袋をはめた私の手を柊君が優しく握ってくれて、それだけで自然に笑みがこぼれた。
何気ない幸せって、こういうことをいうんだろうなって思った。
『柚葉、付き合い出してから1ヶ月になるけど、僕と一緒にいて退屈じゃない?』