「ふぅん、なるほど。
仲間の……剣の師匠を、ねぇ……」
一通り話をすると、ダグラスさんは考えるように言った。
「ええ。だからこう、できれば錬金術の依頼を通して、何かコネが作れないかな……と思いまして」
「……まぁできなくは無いだろうし、俺にもいくつか心当たりはあるよ。
王族や貴族のお抱えの剣術使い、なんてのはな。でも――」
「でも?」
「アイナさんがそういう人を探してるのってさ、そのお仲間さんは知ってるのか?」
「誰かを師事したいっていう話は本人から聞きましたが、あとは私が勝手に……って感じですね」
「……だよなぁ」
「えーっと……?」
ダグラスさんは頭を掻きながら、何かを言い難そうにしていた。
それでもしばらく考えたあと、言葉を選びながら……といった感じで話を続ける。
「お仲間さんは、アイナさんを守るために強くなりたいんだろう?
そのために師事する人を、アイナさんが探すっていうのは……どうなのかね?
目星が付いたあと、弟子入りするための手伝いをするならともかく」
ダグラスさんの言うことを噛み締めてみる。
確かに……そこまでやるのは過保護というか、口の出し過ぎになるかもしれない。
「……なるほど。
その考えはありませんでした……」
「それで、今日はそのお仲間さんは何をしてるんだ?」
「え? 今日はお屋敷の裏庭で修練してましたね。
多分、性格からしてずっとやってそうですけど……」
「うーん、そうか……。
これは俺の推測だが……というか、もし俺がその立場だったら、だな。
アイナさんを守るために強くならなきゃいけない。でも、現在進行形で守らなきゃいけない。
だから今は、アイナさんの近くにいながら、我流であっても修練を重ねないといけない……なんて、思ってしまいそうだな」
「む……。それって――」
「いわゆる板挟み、ってやつだな。
良く言えば『両立』、悪く言えば『どっち付かず』だ」
「……むぅ。
私は、どうすれば良いでしょう……」
「おいおい、ここは相談所じゃないぞ……。
でもまぁ……一人の男として言わせてもらえば、自分の力で何とかしたいだろうから、時間を少しもらいたくはあるかな」
「時間、ですか」
「もちろん、具体的に『1週間』とか『1か月』とかいう話じゃなくてな……。
自分で考えて、自分で動ける。そんな時間が、他人に遠慮しないくらいには欲しいかな。
そうすれば自分が師事したい人間なんて、自分で見つけられるものさ」
「……そうですね、そういうものかもしれませんね。
はぁ、それにしてもダグラスさんは大人ですねぇ……」
「アイナさんは、まだまだ若いからな。
まぁ若い時間は短いんだ。今の時間をしっかり楽しんでおくんだぞ」
「そういうことを言うと、オジサンって感じがしてきますね」
「ははは、そう言われてもおかしくない年齢だからな。
でも積み重ねた分、若い連中にはいろいろと教えられることもあると思うぞ」
私は今は17歳。元の世界では24歳だった……んだけど、学生から見れば年を食っていたとしても、社会人としてはまだまだひよっこなんだよね。
そう思うと、人生の先輩であるダグラスさんの言葉は自然と心に入ってきた。
「……ありがとうございます。
コネの話は一旦置いておいて、ちょっと本人と相談してみることにします」
「ああ、そうだな。ずっと側にいるってだけが、優しさじゃないからな」
「……さすがに今のは、『良いこと』を言おうとしましたね」
「ははは、バレたか!
やっぱりそういうことを考えると分かっちゃうもんだな!」
ダグラスさんは少し照れたように、大きく笑った。
その様子に私の緊張も少し解れたけど……多分、そこまで見越して言ったのかな?
いやぁ、大人って凄い。カッコイイね。
「さて、それじゃ話を元に戻そうか。さっき持ってきた依頼はどうする?
S-ランク以上の依頼が4件、王族からの依頼が7件……だな」
「そうですね、王族からの依頼は全部いけそうです。
S-ランク以上の依頼は……んー、『賢者の石』の作成と、『秩序の氷』の作成は止めておきましょう。
残りの2つは受けますね」
「おいおいー。
一番受けて欲しかったのが残っちゃったぞ……」
「『賢者の石』は、何回出されても受けませんからね?」
報酬は以前と変わらず、金貨5万枚のまま。
確かにこれを作れれば『安寧の魔石(小)』が5個分稼げるけど……材料がとにかく厳しいんだよね。
『秩序の氷』は初耳だけど、『賢者の石』の材料の1つに『秩序の炎』というものがあったから、恐らくは同格のアイテムだろう。
つまりはやっぱり大変そうだから、今回はご遠慮しておくことにした。
「素材を集めるのもネックだし、作るのが難しいのもネック……。
ここら辺はネックしかないんだよな……」
「材料があれば、私は受けますよ?
錬金術師ギルドで何とか材料を集められないんですか?」
「ふむ……。なるほど、それも1つあるか……。
でも、素材を確保するのに予算が必要だし……、うーん……」
私の提案に、ダグラスさんは考え込んでしまう。
しかし錬金術師をサポートするのが錬金術師ギルドなのであれば、素材集めくらいは何とか対応して欲しいものだ。
「その依頼って、10年以上残ってるんですよね?
そんな依頼を解決することができたら、ダグラスさんの評価も上がってお給料も上がりますよ! ……多分」
「まぁな。でも、俺はプライベートを大切にしたい派なんだよ」
あっけらかんというダグラスさん。
やるとなったら膨大な時間が掛かることになりそうだし、そもそもやらないというのが最も現実的な選択だろう。
「それでは、引き続き依頼の肥やしにしておきましょう」
「ま、国からの依頼だからな。今すぐどうこうっていうことも無いだろうし、そうしておくか。
この依頼は、次の担当者に頑張ってもらうことにしよう」
……次世代へ引き継がれる、面倒くさい仕事。
でも次の担当者も、ダグラスさんみたいに放置しちゃうと思うんだよなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
帰り道、ぼーっとしながら歩いていると、アクセサリ屋さんが目に留まった。
ひと仕事終えたところだし、少し覘いてみようかな?
小さいお店だったので、まずは店員さんに軽く挨拶をする。
ちょっとした雑談をしてからいろいろ見せてもらうと、なかなか私好みのものが並んでいた。
「いかがでしょう。どれも自信作ですよ!」
「え? ここにあるのは全部、自作ですか?」
「はい!」
嬉しそうに言う店員さんに、職人仲間というところで親近感を覚える。
でも、私は替えの利かない2つ……指輪とブレスレットがあるから、今は要らないかなぁ。
ちなみにアクセサリといえば、テレーゼさんの指輪にアーティファクト錬金をしないといけないよね。
そうなると、久し振りにアーティファクト錬金で遊びたくなってくるかも……。
あれって、ランダムで色々な錬金効果が付くから面白いんだよね。
スマホアプリで馴らしたガチャ魂が、満を持して……と顔を出してくる。
今いる仲間には全員にプレゼントしてるし……あ、それならお世話になってるメイドさんたちに、プレゼントするっていうのも良いかもね。
人数は5人いるし、髪の色もみんな違うし……となれば、五属性のナイフみたいな感じで、色違いのアクセサリにしても面白いかも!
「……すいません。
うちにメイドさんが5人いるんですけど、何かプレゼントしたいと思うんです。
見繕うのを手伝って頂けますか?」
「かしこまりました!
お嬢様からプレゼントを頂けるだなんて、メイドさんたちも喜ぶでしょうね!」
……ああ、さすがに私が主人だなんて思わないか。
まぁ特に訂正するところでも無いし、これはこれでスルーしておこう。
「それだと嬉しいんですけどね!
えぇっと、宝石が1粒入っている感じのものが良いんですが……宝石はそれぞれ、別のものにしたいんです」
「そうすると特注になりますが……」
「あ、いえ。私は錬金術師なので、石の部分はアーティファクト錬金で置換しようかな、と」
「なるほど、錬金術師の方でしたか!
でしたら宝石部分はイミテーションのものがよろしいですね」
イミテーション……つまり模造品。
ルビーだったら赤いガラス玉、みたいな感じだ。
「はい、そういうものもありますか?」
「もちろんです。それはそれで、需要があるんですよ!」
模造品は安く作ることができるし、なるほどこれは商売上手だ。
「種類としては、イヤリングかネックレス辺りでしょうか。
指輪なんかは仕事の邪魔になりそうだし……」
「そうですね。さりげなく見せたいならイヤリングでしょうか。
ネックレスの場合はメイド服との兼ね合いがありますので、デザインを教えて頂けると……」
うーん、私の好みとしてはイヤリングかな。長い髪の隙間からチラリと見える輝き!
……いや、ミュリエルさんはショートカットなんだよね。どうしよう、似合うかな……。
そう言えばメイド服って、基本的には布地ばかりで作られているんだよね。
金属部分はあまり無いっていうか……でもまぁ、そりゃそうだよね。いろいろと作業をするための服でもあるんだから。
「あ、もしかして髪留めなんてのはどうでしょう」
「それも良いですね、常に見える場所に着けられますし……。
ただ、髪の色に近い宝石にしてしまうと、目立たなくなってしまうかもしれません」
「そうすると、イヤリングもですよね」
「でしたらカフスボタンなどはいかがですか? 手元をさりげなく彩ってくれますよ。
控えめなデザインもご用意してありますので」
「おお、なるほど。それは良いかもしれませんね!」
目立ちすぎず、目立たなさすぎず。
それが錬金術で作ったアイテムであるなら、錬金術師のお屋敷のメイドさんらしさは感じられるはず……。
……おお。
いーじゃないですか。いーじゃないですか!
その案を気に入った私は、店員さんお勧めのカフスボタンを5人分買って帰宅した。
カフスボタンで不都合があったら、それはそれで、自分のお店で売ることにしよう。
すぐには売れないかもしれないけど、S+級なら売れ残る心配は無いだろうからね。
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