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◆ ヒカルの胸の奥にある“父”という存在
月日が経ち
小学4年生になったヒカルは、好奇心旺盛で、負けん気が強く、どこかロジンに似ていた。
けれど最近、彼女の中に“もうひとつの感情”が芽生えていた。
それは—
「お父さんのこと、もっと知りたい」という想い。
授業で「家族の歴史をしらべよう」という課題が出たのがきっかけだった。
クラスの友達は、戦時中の祖父母の話や、親の学生時代の写真などを調べていたが、
ヒカルのノートは真っ白だった。
家に帰って、ロジンに勇気を振り絞って聞いた。
ヒカル「ねぇママ…パパのこと、教えて?」
ロジンの手が止まる。
長い年月が経っても、カイの名前を聞くと胸がぎゅっと締めつけられた。
しかし逃げずに、ロジンは娘を膝に抱き寄せた。
ロジン「パパはね…とても強くて優しい人だったのよ。ママの大切な、大切な人」
ヒカル「それだけじゃ分かんないよ。どんな仕事してたの? どこに住んでたの? なんでいなくなったの?」
ロジンは目を伏せた。
ロジン「いつか全部話すわ。でも…今はまだ早いかな。」
ヒカルは、その“今はまだ”に、少しだけ寂しさを覚えた。
◆ ヒカル、独自調査を始める
翌週。
ヒカルは放課後、図書室で必死にパソコンをいじっていた。
「自衛隊•特殊部隊」「日本•傭兵」
そんな検索を繰り返しては、難しい漢字を首をひねりながら読んでいた。
偶然、校門前の巡回に来ていた白石がヒカルを見つける。
白石「おや、ヒカルちゃん。帰りが遅いね、宿題の居残りとか?」
ヒカルはちょっと
だけためらった後、小声で言った。
ヒカル「違うよ…パパのこと、調べてるの」
白石の胸に、じんと熱いものが広がった。
白石「…そうなの?。何か手伝う?」
「うん!」
ヒカルは満面の笑みを見せた。
白石は仕事の合間に、こっそりヒカルの“調査活動”に付き合うようになった。
◆ 調査の中で育まれる奇妙な絆
放課後の校門前、交番の休憩室、学校の校庭の隅。
二人は少しずつ調査を進め、カイの名前の手がかりを探していた。
自衛隊の公式記録には載っていない。
特殊部隊の存在を示す文献もはっきりしない。
ヒカル「なんで…? パパって、実は忍者だったの?」
白石「忍者…ではないと思うけどね」
白石が笑って答える。
ヒカル「じゃあ、スパイ?」
白石は苦笑した。
白石「うーん…君のパパは、たぶん“表に名前が残らない仕事”をしていたんだろうね」
ヒカルは眉をひそめた。
ヒカル「表にのらないなら、消されたってこと?」
思いがけない言葉に、白石は息を呑んだ。
小学生の想像力は侮れない。
白石「…パパを知られることが、誰かを危険にさらすってこともあるんだ」
ヒカル「じゃあ……ママを守るために?」
白石「そうかもしれないね」
ヒカルは少し考えてから、小さくうなずいた。
運命の“1枚の写真
ある日。
ロジンが整理していたカイの遺品の中から、ロジンは偶然一枚の写真を見つけた。
迷彩服姿で、仲間と肩を組んで笑うカイ。
その表情は、今までのどの写真よりも自然で、幸せそうだった。
ロジンは、その写真をそっと、ヒカルのランドセルにしまった。
ロジンは、ヒカルが独自に調査していることを知っていたからだ。
◆◇◆
放課後、交番の裏手。
ヒカルは白石に写真を差し出した。
ヒカル「これ…パパ。ママの大事な写真なの」
白石は受け取り、何気なく目を落とした。
瞬間、
白石の手が震えた。
白石「え!?」
写真の中の男は、確かに“自分”だった。
いや、自分ではないはずなのに、自分と同じ顔をしている。
目の形。笑い方。立ち姿。
まるで鏡を見ているようだった。
白石「…俺、なのか? いや—違う。だけど、これは…。」
写真を見つめる白石の顔から、血の気が引いていく。
ヒカルは不安そうに聞いた。
ヒカル「白石さん…どうしたの?」
白石は答えられなかった。
胸の奥が強く締め付けられ、声が出なかった。
(こんなことが…あるわけがない。まさか兄弟? いや、生き別れの…腹違いの…)
自分でも整理できない。
白石「ヒカルちゃん…これは。」
その時だった。
交番の無線が鳴り響く。
『至急、至急、強盗事件発生。出動願います』
白石は写真を震える手でヒカルに返し、深く息を吸った。
白石「ヒカルちゃん…この話は、必ずまたしよう。絶対に」
そして
走り去っていった。
ヒカルはその背中を見つめながら、確信した。
「白石さんは…パパと何か関係してるのでは?」
少女の小さな胸に、父への謎と新たな希望が芽生えた。
◆ 白石の胸に生まれた不安
カイの写真を見たあの日から、白石の心はざわつき続けていた。
仕事中も、食事をしていても、ふとした瞬間にあの写真のことを思い出してしまう。
これは、本当に偶然の一致なのか?
それとも、もっと決定的な何かがあるのか?
白石には、自分の過去の中で唯一“空白になっている時間”があった。
物心つく前、3歳までの記憶がほとんどない。
両親に聞いてもいつも同じ答えしか返ってこなかった。
「小さいころ少し体が弱くてね。入退院を繰り返していたんだよ」
しかし、それ以上は決して語らない。
幼いころのアルバムにも、3歳以前の写真だけが不自然に欠けていた。
あのときから白石の胸には、消えない違和感があった。
◆ 封印された戸籍
ある日、白石は決意して実家を訪れた。
リビングのテーブル越しに座る父母。
普段は穏やかな家庭だが、白石は初めて“警察官ではなく息子”として覚悟を持って口を開いた。
白石「俺、出生記録を調べたいんだ。どうして俺には3歳までの記録がない?」
父母の顔から血の気が引いた。
母「な、何を言ってるの?」
白石「頼む。嘘はもう聞きたくない」
静かな沈黙。
その後、父が低い声でつぶやいた。
父「あの日のことを、話す時が
いずれ来るとは思っていたよ」
母は震えながら涙を浮かべた。
母「あなたに、本当のことを言わなきゃいけない時が来たのね。」
父「凌、お前はな。」
父「養子なんだ」
白石は、胸が締めつけられ、言葉を失った。
◆ 封印が解かれた日
両親は、震える声で語り始めた。
父母がまだ若い頃、北海道の駐屯地近くに住んでいた。
ある冬の日、雪の中で二人は“迷子のように泣く赤ん坊”を見つけたという。
赤ん坊は、薄い毛布一枚に包まれ、凍えかけていた。
近くに車が横転しており、その中には重傷を負った若い女性がいた。
女性は最後の力を振り絞り、夫婦の手を握りこう言った。
「この子を……お願いします…。
夫は、連れて行かれました
追われています。
この子だけは、守って。」
そう言って、息を引き取った。
父母は通報したが、その女性の身元を示すものはなく、車両のナンバーも偽造されていた。
警察も自衛隊も、長期間調査をしたが“夫”と名乗られた男性は結局
見つからなかった。
当時の父母は新婚で子どもに恵まれず。
この赤ん坊を引き取り、実の子として育てる決意をした。
白石「じゃあ俺は、見知らぬ人間の子どもだったってことですよね?」
父は首を振った。
父「違う。お前は俺たちの息子だよ。誰が産んだかなんて関係ない」
母「でも、あなたの本当の家族に関わる
何かが、誰かが
いつか現れる気がしてたの」
白石の背中に冷たい汗が流れた。
◆ 血”を調べる
翌日、白石はロジンとヒカルに正直に話す決意をした。
交番の奥にある談話室で、白石は二人を前に静かに語った。
白石「俺、カイさんと何かしら“血縁関係”がある可能性があります」
ロジンは目を見開く。
ロジン「そんなどうして?」
白石は、出生の経緯をすべて話した。
ロジンは最後まで黙って聞いていたが、
ヒカルは涙ぐみながら、写真を白石に見せる。
ヒカル「だったら、お父さんと白石さんは家族だよっ!」
白石「まだ確定じゃない。でも知りたいんだ。俺のルーツを」
ロジンは拳を握りしめた。
胸の奥に、複雑な感情が渦巻く。
白石がカイの“血の兄弟”かもしれない。
それは、カイとのつながりが途切れていなかったということ。
ロジンの目に涙がにじむ。
ロジン「調べましょう。カイと、あなたの関係を」
白石「ヒカルちゃんにも、迷惑はかけない。俺と
カイさんの遺品のDNAを調べれば分かる。」
帰宅後…。
ロジンは震える手で、カイの遺品の中の歯ブラシを取り出した。
ロジン「これなら…DNAが残ってる」
ヒカル「わたしは、怖くないよ。だって本当のこと、知りたいから」
そして
専門機関へDNA鑑定を依頼することを決めたのであった。
◆結果
数週間後。
研究機関から封筒が届いた。
白石、ロジン、ヒカル。
三人は交番の奥、静かな室内で封筒を囲む。
白石が震える手で封を切り、紙を取り出した。
—沈黙。
ロジン「どうなの?」
白石はゆっくりと顔を上げた。
白石は、震える声で言った。
白石「俺とカイさんのDNA
一致率…99.87%。
…俺たちは、兄弟です。」
ロジンは口元を押さえて涙があふれた。
ヒカル「やっぱり!! 白石さんは、お父さんの家族なんだ!」
白石は涙をこぼしながら、二人を抱きしめた。
白石「ありがとう……本当に……ありがとう。
俺に…家族を、真実を
教えくれて。」
◆ DNA結果の後
白石とカイの血縁が判明してから数日。
ロジン、ヒカル、白石は、それぞれ胸に抱えた思いを整理しきれずにいた。
また、白石にはひとつ、どうしても気になることがあった。
あの北海道で拾われた日。
自分を託した女性は「夫は連れていかれた」と言った。
では、兄であるカイはどこへ連れて行かれたのか?
誰が、何の目的で?
白石の心の奥底に、ずっと暗い影が潜んでいた。
◆ 隼人からの電話
その日の夜。
白石のスマホが震えた。
発信者は—
隼人(はやと)。
「兄貴、ちょっと話がある。数日後、千葉に帰る。会えないか?」
航空自衛隊のパイロットである隼人は、今は北海道の千歳にいる。
久しぶりの連絡に、白石は胸にざわめきを覚えた。
白石「どうした? 声が変だぞ風邪ひいたか?」
隼人「兄貴…生まれた時のこと、どこまで覚えてる?」
白石は息をのんだ。
隼人「俺、調べたんだ。俺の出自を。
そこで…兄貴の名前が出てきた。
だけど…そこにもう一人いる。
“海人(かいと)”って名前が」
白石の血の気がさーっと引く。
隼人「兄貴…俺たち
三人兄弟なんじゃないか?」
白石はスマホを握り締めた。
胸が熱くなり、言葉が出ない。
◆ 隼人の帰還
三日後。千葉の郊外の駅。
白石は改札の前で隼人を待っていた。
颯爽と歩く姿はまさに
自衛官らしい。
しかし、その鋭い目の奥に、迷いがあった。
白石「隼人…」
隼人「久しぶりだね、兄貴!!」
二人は固く抱き合った。
隼人の成長した腕は強く、しかし震えていた。
◆ 三人兄弟の秘密に迫る
近くの喫茶店で、隼人はファイルを広げた。
隼人「この“海人(かいと)”。これが
兄貴のDNAで一致した“カイさん”じゃないかと思う。」
白石「なるほど。だから写真の顔がほとんど
同じなのか」
隼人は頷く。
隼人「両親が俺たちに話さなかったのには理由がある。
俺
自衛隊の調査官に協力してもらって、古い資料を探したんだ。
するとさ。」
隼人は、一枚の古びた書類を差し出した。
『自衛隊内部資料(非公開)
海人・日向
極秘任務部隊候補者』
白石「自衛隊に? カイさんが?」
隼人「俺たちの実の父親は、元々自衛隊の特殊作戦群の隊員だった みたいだ。
その父が
敵対勢力に狙われ、家族ごと危険にさらされた。
そこで親父は家族を守るため、俺たち兄弟を別々の養家に預けた。
親父は作戦中に失踪、母は事故死…。
そして
海人=カイ兄さんだけが、父の後を追うように特殊部隊へ。」
白石は頭を抱えた。
白石「じゃあ……カイさんは、ずっと俺たちの家族を守ろうとして?」
隼人「そうだと思う。
兄さんだけは事情を知っていた可能性が高い」
白石は涙をこらえる事が出来なかった。
◆ ロジンとヒカル
その夜。
ロジンの家で、白石と隼人はロジンとヒカルに“真実”を伝えた。
ロジンは震える声で言った。
ロジン「カイ
貴方は、ずっと孤独だったんだね…。」
白石「兄だったカイさんは、俺たち弟二人を守って
戦い続け…
最後は……ロジンさんとヒカルちゃんを守った」
ヒカルは白石と隼人を見比べて呟いた。
ヒカル「じゃあ…
白石さんも隼人さんも……お父さんの弟?」
白石「ああ。ヒカルちゃんにとっては…叔父さんになる」
ヒカルは目を輝かせた。
ヒカル「やった! お父さんの家族がこんなにいたんだ!」
ロジンは涙をこらえながら微笑んだ。
白石はロジンを見て、深く頭を下げた。
白石「ロジンさん…兄さんの代わりには絶対になれない。
でも
僕は……あなたたち
家族を守りたい」
隼人も静かに頷く。
隼人「兄貴が守った家族だ。俺達も全力で守る。
それが
長男であるカイ兄さんへの
誇りだ。」
ロジンの目から涙がこぼれた。
ヒカルは三人を見て手を合わせ、言った。
ヒカル「じゃあ今日から、わたしには—
白石おじちゃんと、隼人おじちゃんがいるんだね!」
白石「って!!
…おじちゃんはちょっと……」
隼人「まあまあ、兄貴もヒカルちゃんも。」
みんなが笑った。
その笑顔の中心に、確かに
カイの面影が生きていた。