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今日は身内だけでの近況報告の日。大森さんはソロ仕事、藤澤さんは午前オフだがまだ来ていない。
若「もう、また既読つかない」
『なにかありました?』
若「涼ちゃん、連絡取れない」
『移動中では?』
若「仕事これからじゃん」
『たしかに』
若「最近多いんだよね、連絡の返事遅いの。 元貴ほどではないけど、比較的返事早いのに」
『ほぉ?』
若「それにマネさんは知らないかもだけど、音合わせの時とかも、結構ギリギリに来ることもあって、やっぱりなんか変だよ」
『前に言ってたやつ?』
若「寝坊して、とか言うけど集まりが夕方からの時もあったし。その割に疲れ取れてるようにもみえなくて。」
『うん』
若「それに本当に寝坊してるなら、マネージャーが起こしたりして助けてあげたらいいのに、なんかしてないっぽいし。そもそもそんなに涼ちゃん寝坊とかするタイプじゃないじゃん。元貴も違和感は感じてるんだけど、自分の仕事の都合もあって話できてないからたまに機嫌悪い」
『言われてみれば、最近新人に連絡してもすぐに出ないこと多かったかも。折り返し待ちのことが多かったですね』
若「やっぱ変だよね!?モヤモヤするな〜」
『…何もないといいんですけど』
その後も集合時間のはずが誰もまだ来ない。大森さんサイドからは少し遅れる旨の連絡が来たが藤澤さんからは連絡なし。新人に連絡するが、折り返しすらない。
若「おっそ!新人くんからの連絡もないの?」
『うん、ずっと通話中になってる』
若「そんなに掛からないことある!?」
『うーん、』
もう一回新人にかけようとしたそのとき、
新「すみませんっっ!遅れました!」
『お疲れ、時間過ぎてるぞ』
新「本当にすみません!ちょっと電話してたら時間見れてなくて」
若「…ねぇ、涼ちゃんは?」
『トイレとか行ってるのか?』
新「え、まだ来てないんですか?」
若「一緒に来たんじゃないの?」
新「いや、今日は別で…」
若「前に涼ちゃんが少し遅れた時、元貴になるべく迎えに行くよう言われてたじゃん」
新「そうなんですけど、今日はちょっと難しくて。…押してるのかな、終わってるはずなんだけど(小声)」
『ん?今日藤澤さんはこれからのはずだろ?』
新「いや、あの、その…」
『なんだ、はっきり言え』
バンッッッ!!
煮え切らない態度におかしいと思い、再度問い詰めようとした時、扉がすごい勢いで開いた。
大「ちょっと!新人いる!?」
開けたのは大森さんで、普段なかなか見ることはないほどの怒った顔をしている。
若「うわっ!びっくりした!!
どうしたんだよ、元貴!」
大「おまえ!ふざけんなよ!!」
若井さんからの問いかけも無視し、固まったまま見ている新人を見つけると殴りかかるんじゃないかという勢いで近づくため、慌てて制止する。
『大森さん、落ち着いて!なにがあったんです?』
大「こいつ、俺に内緒で涼ちゃんに仕事入れてた!」
『!?』
若「はぁ!?なにそれ!?」
大「しかも一つじゃない!少なくとも三つくらいは入れただろ!」
『そんなこと…』
若「確かなの?」
大「前に一緒に仕事したスタッフさんに会った時、この間藤澤さんと仕事しましたって言われて。確かに、その時涼ちゃんにバラエティ入ってたからそれかと思ったんだけど、その後も違うスタッフさんに同じようなこと言われて」
新「……。」
大「収録したっていう日のスケジュール見たら涼ちゃん休みの日だった。他にも夕方からリハの日の午前中だったり、しかも、俺とか若井もそれぞれ仕事してて連絡取れなさそうな日。俺たちにバレたらやばいって認識あったんだろ」
新「……。」
大「涼ちゃんが無理しない範囲で調整してるって言ったのに。涼ちゃんにはキーボードの演奏だけじゃなくて、ライブとか番組収録のときのアレンジも任せてんの。今回の新曲だってキーボードだけじゃなくて、フルートの要素もあるから譜面起こしも大変なのに、」
新「でも、藤澤さんこなしてるじゃないですか!確かに少し疲れてるかもしれないけど、いつも笑顔で仕事してます!それはつまり、もう少しソロ仕事入れても大丈夫ってことでしょう!」
大「こなしてないよ。」
新「え…?」
大「こなしてない、全然大丈夫じゃないよ。」
新「は…?」
大「確かに譜面起こしとか間に合って、お前的には大丈夫に見えるかもしれないけど、それは涼ちゃんが寝る時間を削って、しんどいのを我慢して、お前から隠してるからだ。実際疲れが溜まってるからかビジュ的にはまだ理想まで到達してない。」
新「そんなこと…」
大「涼ちゃんは隠す天才なんだ。一度隠すと決めたら徹底して隠す。付き合いの長い俺たちでも気づかないくらい、自分の感情を押し殺す。だから、そうならないように周りが助けてあげないと。自分からしんどいと言えない涼ちゃんが無理をしないように、見ていてあげないといけなかったのに!」
新「……。」
大「サポートする側のお前が涼ちゃんを追い詰めてるんだよ!!」
興奮して涙目になる大森さんを若井さんが肩を抱き、宥める。
若「落ち着け、元貴。それで、涼ちゃんは?」
大「…今日はバラエティのロケらしくて、それに1人で行ってるって。前に一緒に仕事したヘアメイクさんがいるっぽくて、チーフにどんなコンセプトなら許されるかって連絡きたから、チーフがそのまま迎えに行ってる」
『お前、1人で行かせたのか!』
新「…別件ので電話があるとのことで、1人で行ってもらいました」
『お前、仕事舐めてるのかよ!こんなに忙しいのに、送迎なしで1人で行かせるなんて、藤澤さんの気が休まらないだろ!」
新「す、すみませ…」
ガチャ
チ「悪い、遅くなった」
藤「お疲れ様です…」
若「涼ちゃん!!」
大「大丈夫!?」
扉を開けたチーフマネージャーの後ろから藤澤さんがやってくる。元来の柔らかく中性的な雰囲気は保たれ確かに綺麗ではあるが、いつもより肌艶や髪艶が悪く、メイクも少し濃く、身内なら一発で分かるほどに疲れていた。
藤「遅れてごめんなさい…」
若「そんなの全然いいから!はやく座って!」
大「お疲れさま。仕事やってきたんでしょ。分かってるから大丈夫だよ。」
チ「ついでに先方に話、聞いてきた。お前、また仕事がきてから返事してなかったんだろ。断りの連絡もなかったから、そのまま進めていいと判断させていただきましたってさ。他の案件も似たようなもんらしいな」
大「前と一緒じゃん」
チ「ソロの仕事は元貴に話を通すっていうのが絶対的ルールだ。それはミセスの世界観を守るために必要なことであるし、お前が入る時にも、マネージャーになる時にも言ったよな?」
新「はい…」
チ「それを守れないやつにマネージャーは任せられない。もしかしたら1番初めは本当にただのミスかもしれないが、以降のは違うだろ。連絡がつかなかったのも、バレないように敢えてなんだろうしな。」
「それは…!」
チ「まぁどっちにしたって、チームのルールを守れないやつにマネージャーは任せられない。
社長に報告してお前はマネージャーを降りてもらう」
新「そんな…俺は藤澤さんのことを想って!」
若「…ねえ、さっきから涼ちゃんのためって言うけど、本当にそれは涼ちゃんのためなの?涼ちゃんの気持ち聞く気あった?しんどくないかって見てくれてた?」
大「涼ちゃんの気持ちを無視する人に、これ以上大事な涼ちゃんのこと任せられないよ」
藤「若井、元貴、いいよ。…僕も仕事入ったのが嬉しくて何も言えなかったし、新人くんのせいだけじゃない」
大「涼ちゃん!」
新「…藤澤さん、しんどかったんですか?」
藤「…ごめん。少しだけ、ね」
新「…それはっ!本当に、すみませんでした。」
その後その場ですぐにチーフから社長に報告。
藤澤さんのことを想ってとは言え、当の本人に無理をさせ、大切なタレントを管理できなかったとして新人はマネージャー業を下ろされた。
それから新しいマネージャーが決まるまでは、とりあえず俺が藤澤さんの担当もすることになり、とりあえずビジュがイメージに追いつくようにと本人や大森さん、若井さんと相談しながら仕事の調整をした。
ーーーーーーーーー
今日はとある番組収録の日。
スタジオでのリハ後、自分の運転で
3人仲良くテレビ局まで移動中。
若「もう、本当に今回は全部新曲発表前だったから収録したの放送できるしよかったけどさ!新曲発表の後だったらコンセプトのこととかややこしくて大変なことなってたよ!てか、涼ちゃんも俺たちに相談してくれたらよかったのに!気づかなかったの?」
藤「またその話?だから、2回目の時とかも1回目の時みたいに断るの忘れてたって言われたから、またか〜とは思ったけどもう時間的に断れないし、やるしかなかったんだって!放送日は発表前ってわかってたしね。」
若「そうかもしれないけど!」
藤「そのあとも大森さんに許可もらってます、とかスケジュールに反映されていないだけですって言われたら、気になるところもあったけどそうなんですかってなったんだもん。2人とも他のマネさんともそんなに会わなかったから、確認できなかったしさ。」
大「違和感覚えたらすぐに連絡しろ!」
藤「実際仕事がきたのは嬉しかったし」
若「そうだろうけど…」
藤「流石に譜面起こししようとした日に地方ロケ入りましたは大変だった。次の日が合わせの日だったから詰めておきたいのにキーボード持っていくことできないし。空き時間にずっとデモ聴いて、家帰って練習してたら気づいたら朝だった。ソファ座ったら少し寝ちゃって起きたら出る時間過ぎてて焦っちゃった」
大「寝坊した時もやっぱりそうだったんだ。比較的朝に強い涼ちゃんが寝坊するなんて変だと思った」
藤「うまく隠せてるかと思ったし、実際スタッフさんには何も言われなかったけど。やっぱ2人には気づかれてたね」
大「当たり前!」
若「俺らを騙そうなんて百万年早い!」
藤「騙そうなんてしてないよ、自分の頑張り時なのかなって思ってたの」
大「頑張ろうとしてくれるのは嬉しいけど、ちょっとズレてるんだよ」
藤「まぁまぁ。でも、ほんとありがとね。
心配かけてごめんなさい」
若「心配するのは当たり前だよ。俺たちは涼ちゃんが大切だもん」
藤「…ありがと。僕も2人が大切だよ」
大「…ねぇ、涼ちゃん」
藤「ん?」
大「本当に頑張ったと思うし、心配かけないようにしてたのもよく分かった。それで、涼ちゃんは?しんどかった?辛かった?もう苦しくない?」
藤「元貴…」
大「僕たちしかいないからさ。
涼ちゃんの気持ちを教えて?」
藤「…本当にね、嬉しかったんだよ?2人が少しずつソロでの仕事が増えてきて、自分は何をミセスに還元できるんだろうと思ってたから、単発とはいえ、色々仕事が入ったっていうのは嬉しかった。すごいスケジュールだとは思ったけど、自分に需要があるんだと思ったら頑張れた。…でもね、ちょっとだけ苦しかった。自分は遅れてるのかなって。自分は寝る間も惜しんで、走り続けないといけない立場なんだって思い知らされてるような気がして。2人にはまだまだ追いつけないんだって」
若「涼ちゃん…」
藤「あと、少し寂しかった」
大「寂しい?」
藤「結構現場に1人で行くことも多くて、その後に新人くんと合流するんだけど、新人くんすぐに仕事の話をしてきてね。それは別にいいんだけど、「お疲れさまです」とか「今日もお願いします」とかそういう挨拶がなくて、少しだけ寂しかった。労りの言葉が欲しいってわけじゃないんだけど、なんだか、ちょっとね。
挨拶って大事だなって思ったね」
若「本当に猪突猛進というか、必死だったんだね。基本もできてなかったなんて」
大「挨拶は大事だよ、それだけで笑顔になれるときもあるしね」
藤「ね。だから次についてくれる人は挨拶がしっかりできる人だと嬉しいな」
若「そうだね」
大「…そうだ!次からは涼ちゃんはその路線でいこう!挨拶できない人は許さない、みたいな」
若「いいね!それで、新しいマネさんはまず皆涼ちゃんに審査されて選ばれる、みたいにしようぜ!」
大「涼ちゃんは優しいだけじゃないぞってとこ、見せていかないと!」
藤「ちょっと!どうしてそうなるの!本人置いて話進めていかないでよ!僕そこまでのこと言ってないし!」
大「涼ちゃんが優しいのなんて周知の事実だもん。実際優しいし、それ前提で今回のことがあったのかもしれないじゃん。だったら根本から崩してかないと!裏があって、めちゃくちゃ厳しいから簡単に近づかないでねって」
藤「それ、僕に対する営業妨害じゃん」
若「一目会えば嘘なんてすぐに気づくし大丈夫でしょ。ファンの人も俺らのおふざけだって思ってくれるよ」
『なら僕も審査されないといけないですか?笑』
藤「もうマネさんまで!乗らなくていいから!」
大「そうだよ!だからしっかり挨拶するんだよ!」
『肝に銘じます(笑)』
藤「もーーー!」
「『(笑)』」
ーーーーーーーーーー
程なくして、いままでのみんなに優しい涼ちゃんとはまた違った、人に厳しく自分に甘い藤澤涼架が誕生した。
大「涼ちゃん、1番怖いですから。
自分のミスはいいんですもんね。
若井のミスは?」
藤「自分のミスは仕方ない。他の人のミスはありえない」
若「ひっど!!笑」
大「最低だ!笑」
『…ノリノリじゃないですか笑』
そんな風に忠実にキャラクターを演じてくれてる中で、少しだけ彼の本音が混じっているのは僕たち近しい人間だけが知っている秘密です。
藤「挨拶できない人は嫌いです」
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自分に想像以上に厳しいんだろなと思いつつ、でも挨拶できない人が嫌いそうなのは本当だろうなって思って。
うまく本音を言えないお兄さんを幼馴染の後々組は気持ちを汲み取って、発散できるようにしてるんじゃないかなとか思ったり、しちゃったんです。