テラーノベル
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その夜。九条の部屋では、ちょっとした作戦会議が行われていた。
テーブルの真ん中に置かれた山盛りのポテトフライをつまみながらの作業は、学生時代仲間と共にファミレスを占拠して勉強していた頃を思い起こさせ、九条は懐かしさを覚えていた。
その周りに広げられていたのは、ギルドの依頼用紙。その数に辟易としつつも、皆が一丸となり入念に目を通していたのだ。
「中々良さそうな依頼はないなぁ」
「プラチナに割り振られる仕事って初めて見たけど、どれもやっぱり高額ね」
目的に合う依頼を探しながらも、溜息と共に素直な感想を漏らすシャーリー。プラチナ専用の依頼は掲示板に張り出されることはない。プラチナを指定している時点で、指名依頼と大差がないからだ。
その時、一番近くにいるプラチナプレート冒険者に直接依頼されることが多く、それは担当を通して知らされる。
「えーっと、侯爵様の家の警護任務に、伯爵令嬢の話し相手? なにこれ……。バカなんじゃないの? こんなんで金貨二百枚なんて、ある所にはあるのね……」
シルバープレート冒険者の年収が、伯爵令嬢とのお喋り一回で稼げてしまう。愚痴の一つも言いたくもなるというものだ。
確かに仕事内容としては、比較的安易な物が多い。それを楽と取るか苦と取るかは受ける者次第だが、|金の鬣《きんのたてがみ》のような凶悪な魔物の討伐依頼などを想像していた九条からすれば、拍子抜けする依頼ばかりだ。
「少しでもお近づきになりたいという貴族は多いですからね。コネクションを作るという意味では、その内容はなんでもいいんでしょう。悔しければプラチナになればいいのです」
その待遇の差に納得のいってなさそうなシャーリーを横目に、呆れたように苦言を呈するシャロン。
「真面目に探してくれよ」
「大丈夫。ちゃんと探してるってば」
九条が探している依頼は、出来るだけ遠くへの遠征が必要なもので、九条が受けても、不自然には見えないもの。
そこに、シャーリーとシャロンをパーティメンバーとして連れ出す計画だ。
ノーマンの謝罪を受け入れる代わりに、シャロンの異動を要求する。だが、それは不自然であってはならない。
ノーマンはシャーリーを手放したくない。シャロンの異動がその布石だと感づかれないようにするため、敢えて共に旅をし、九条がシャロンを気に入ったように見せかければ、出来るだけ波風を立てずに自然と異動を要求できると考えた。
まずはシャロンの異動を優先させる。その後、シャーリーがホームを変更すれば完璧だ。
「この依頼なんかどう? お兄ちゃん」
「どれどれ……」
ミアから渡された依頼は、|死霊術師《ネクロマンサー》限定の依頼。報酬は金貨百枚とプラチナ限定じゃない割には高額であるが、その仕事内容は一切書かれていなかった。
代わりに書かれていたのは、適性試験必須の項目。
「適性試験? あの水晶みたいなやつに手で触るやつか?」
「それは適性鑑定。そうじゃなくて、依頼者側が冒険者に出す試験の事で、それに合格して初めて依頼を受けることが出来るの。お兄ちゃんの|死霊術師《ネクロマンサー》としての実力を見極めてから、依頼を頼めるか決めたいってことだよ?」
「俺が品定めされるって事か?」
「そうそう。お兄ちゃんなら大丈夫だと思うけど……。プラチナの|死霊術師《ネクロマンサー》なんてお兄ちゃんしかいないし、多分相手もビックリするよ? 超お得だし、もしかしたら試験もしないかも」
「だが、内容がわからないのはどうもなぁ……」
「多分降霊じゃないかな? たまにいるんだよね。死んだ人とお話ししたいって人」
「あぁ、そうか……。その気持ちはわからなくもないな……」
元の世界にもイタコという降霊術の専門家がいたくらいだ。死に分かれた大切な人ともう一度言葉を交わせるのならば、藁にでもすがりたいと考える人もいるだろう。
「でも大体失敗するよ? だから試験が前提なんだと思う」
「難しいことなのか?」
「お兄ちゃんなら簡単かもしれないけど、他の人はそうじゃないもん。先祖の霊を呼び出して、隠し財産の在処を聞き出してほしいなんて普通無理だよ?」
「前言撤回だ。その気持ちはわからん……」
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#ラブコメ
奏多
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金貨を百枚も払うのだから、相当大事な人だったのだろうと思っていた九条であったが、私利私欲のためならクソ喰らえである。
(ちょっとでも真面目に考えた俺がバカだった……)
この依頼が必ずしもそうであるとは限らないが、そんな理由で呼び出された霊が気の毒だと感じるのは、恐らく九条だけなのだろう。
(彼女に呼び出されて意気揚々と会いに行ったら、通帳と印鑑を寄こせと言われたらどう思うのか……)
たとえ降霊に成功したとしても、そんな事言われたら機嫌を損ねて帰ってしまうのは当然。霊は生前の記憶を保管しておく記録媒体ではないのだ。
(ブルー|霊《レイ》……という|死霊術師《ネクロマンサー》ジョークを思いついたが、披露するのは止めておこう……。見えない奴には魂が青白い事なんて知らないだろうし、そもそもこの世界にブルーレイディスクは存在しないしな……)
元の世界であれば、大ウケ間違いなしである。
「依頼主のところが空欄なのは?」
「匿名オプションだよ。依頼する冒険者以外に名前を知られたくないときにつけるサービスなの。適性試験もオプションだし、冒険者の指名とか性別指定とか期限延長なんかも出来るよ?」
「意外と融通が利くんだな……」
「有料だけどね」
「カネとんのかよ……」
「もちろん!」
「ちなみに俺を指名するといくらくらい掛かるんだ?」
「うーん……。プラチナ限定依頼が金貨五十枚でそこに個人指名料となると……。時価かな?」
「時価!?」
「その人の忙しさとかで変動するから……。お兄ちゃんなら多分金貨三百枚位。忙しくはないんだけど、お仕事やりたがらないから高いよ?」
それだけ九条に仕事をさせるのが難しいと考えられている。
九条は、我ながらに複雑な心境だと眉をひそめた。
「ぼったくりすぎじゃね?」
「時代に合ったニーズに応えるのは商売の基本だから!」
「……まさかミアの口からニーズって言葉が出て来るとは思わなかったよ……」
そこで九条は閃いた。裏を返せば、仕事をしなければしないほど指名依頼料は跳ね上がるということ。誰も払えない額まで到達すれば、自分への依頼はなくなるのではないだろうかと。
いるのかいないのかわからない幽霊部員的な位置取りを目指すのもアリかもしれないとほくそ笑む九条。
しかし、その考えは読まれていたようで、ミアにはしっかりと釘を刺された。
「ダメだよ? 限度額は決まってるから」
「……さいですか……」
九条が考えるほど甘くはなかった。アレックスでさえフィリップにポンと金貨千枚を払うくらいなのだから、シャーリーの言う通りある所にはあるのだ。
そんな九条とミアのやり取りを微笑ましく見ていたシャーリーとシャロンも、それぞれ見つけた依頼を差し出した。
「九条、これはどう?」
シャーリーから受け取った依頼用紙に目を走らせる九条。
「ふむ。ギルドからのダンジョン調査依頼か……。悪くないな」
シャーリーらしい選択だ。ギルドに恩を売ることも出来るし、ダンジョンであればシャーリーを連れ出す口実としては申し分ない。
(ミアからギルドがダンジョンハートを調査しているとは聞いていたが、恐らくそれは大分過去の話だろう。冒険者プレートがダンジョンハートから作られているのだとしたら調査は既に進んでいるはず……)
ギルド側がそれを隠しているというのは気になる所ではあるが、それはエルザに調べるなと念を押されている。
『ギルドの方が甘くない……』
カガリがそれを否定しなかった。忠告は素直に聞いておくべきである。
ギルドも怪しいが、ネクロガルドも本来の目的がわからない以上、深入りするべきではない。
「ん? これもミアから渡された依頼と同じブラムエストって所だが、どこだ?」
「ノーピークスからずーっと西の方。ここからだと一ヵ月くらいは掛かるかも」
「往復で二ヵ月か……。丁度いいと言えば丁度いいが……どちらを受けるかだな……」
「九条様。楽なものを選ばれるのでしたら、お二人の物よりこちらの方がよろしいのでは?」
言われてシャロンから差し出された依頼を手に取る九条。その内容はギルド間の輸送任務。運ぶ物は書状のみ。
盗難を考慮し、その護衛としてゴールドの冒険者であれば四人以上のパーティ推奨だが、プラチナなら一人で受けることが可能な依頼。
国内四カ所のギルドを回り、その後スタッグへと帰還すればいいだけ。期間は移動速度次第だが、恐らくこちらも二ヵ月程度で報酬は金貨百枚。
「襲われない限り争いが起こる心配もないでしょうし、比較的安易な部類に入るとは思いますが……」
覗き込むように九条の表情を窺うシャロンであったが、九条にはこれを受けることが出来ない理由があった。
「残念だが、却下です」
「なぜです?」
(確かに仕事内容は楽だ。馬車に揺られて街から街へと旅するだけでいいのだから……)
だが、シャロンは一つ重要な事を見落としていたのである。書状を届けなければいけない場所。その一つにノースヴェッジと書かれていたのだ。
「寒いからやだ」
「……は?」
そこはミスト領の北に位置するノーザンマウンテンを超えた先にある場所。極寒の地だ。
この時期にそんな場所に足を踏み入れるなんて、死にに行くようなものである。
「寒くて死んじゃうだろ?」
「いや……、大げさすぎますよ。さすがに死にはしないかと……」
そんなやりとりをニヤニヤと見つめるミアとシャーリーは、何か言いたそうである。
「なんですか!? 言いたいことがあるならはっきり言ってください」
「シャロンは、まだまだ九条がわかってないなぁ……」
「――ッ!?」
ミアは担当だし、シャーリーも九条との付き合いは長い。少なくともシャロンよりは……。
だが、なぜそんなことでマウントを取られなければならないのかと、シャロンは若干憤りを覚えた。
悔しくはない。……悔しくはないが、シャロンの顔は無意識に引きつり、エルフ特有の白い肌が、綺麗な赤みを帯びていた。
コメント
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第296話読んだよ! 九条たちが作戦会議してるシーン、なんか学生時代のファミレス勉強会みたいで懐かしい感じがした(笑) 適性試験付きの依頼、匿名オプション、時価の指名料…この辺の世界観の細かい設定が好きだわ。 そして「ブルーレイ」ジョーク、分かる人には分かるやつでちょっと笑った。 何より「寒いからやだ」で却下する九条、マジでブレないなーって安心した(笑) シャロンがムッとしてるのも可愛かった👍