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結局、誰一人として引き下がるはずもなく――。 私たちは四人で、王城内にあるフローラの客室へ向かうことになった。
「どうぞ、お姉さま♡」
「あ、ありがとう……」
フローラの部屋の丸テーブルには、色とりどりのケーキや焼き菓子、湯気を立てる香り高い紅茶がずらりと並んでいた。
私の隣には、勝ち誇った顔でぴったり張りつくフローラ。 そして向かい側には――。
「…………」
「…………」
一言もしゃべらず、視線だけで互いをミンチにしそうな勢いで睨み合っているアレクとレオン。
(お願いだから、お茶くらい普通に飲んで……!?)
胃が痛くなりかけた、その時。
「バイオレッタ」
レオンが爽やかに微笑みかけた。
「このタルト、すごく美味しいよ。一口――」
「いっっっ……!?」
レオンの身体が、椅子の上でビクッと跳ね上がった。
「えっ!? レオン、どうしたの?」
「い、いや……なんでもないよ……」
引きつった笑顔で、そっとテーブルの下へ視線を落とすレオン。 その隣では、フローラが優雅極まりない所作で紅茶を口に運んでいた。
「どうかなさいましたか? 次期国王陛下?」
「……なんでもないよ」
額に冷や汗を浮かべるレオン。 しばらくして、今度はアレクが口を開いた。
「バイオレッタ。その茶は淹れたてだ。熱いから気をつけ――」
「……ぐっ」
「アレクまで!? どうしたのよ、二人して!」
「……問題ない」
表情を硬直させるアレク。 その横でフローラは、天使の微笑みを浮かべたままクッキーをサクッと齧っていた。
(…………)
嫌な予感しかしない私は、ちらりとテーブルクロスを持ち上げ、下を覗き込んだ。
アレクの革靴。 レオンの高級ブーツ。 そして――。
フローラのヒールが、二人の足の甲を交互に、グリグリグリッ! と踏みつけていた。
「……フローラ」
「はい、お姉さま♡」
「足をどかしなさい」
「足がどうかしましたか?」
「バッチリ見えてるわよ!!」
するとフローラは、まったく悪びれずに満面の笑みを咲かせた。
「私とお姉さまのかけがえのないティータイムを邪魔する害虫さんたちを、ちょっとお掃除していただけです♡」
「害虫って言わないの!」
「だって……」
フローラが、眉を下げる。
「せっかく久しぶりに、お姉さまと二人きりでお茶できると思ったのに……」
「だからって踏み潰すのは――」
注意しようとした、そのとき。 フローラの大きな瞳が、うるうると潤んだ。
「……お姉さま、ごめんなさい」
(か、可愛い……っ!!)
(はああああっ! 泣き顔上目遣いまで可愛いなんて、私の最推しはやっぱり――神!!)
「……分かったならいいのよ」
私は即座にフローラの頭を撫でた。
「よしよし、いい子ね」
「えへへ、お姉さま〜♡」
(……はっ! また反射で甘やかしてしまった!)
「……くそっ」
アレクが苦々しく呟く。
「えー、それはずるくない?」
レオンまで不満そうに頬杖をつく。
「僕も甘やかしてなでなでしてほしいなあ〜」
ギロッ! フローラがレオンを般若のような眼光で睨みつける。
「…………」
(はあ。まったく……どうしてこうなるのよ)
私は深く息を吐き、紅茶を一口含んだ。
こんなふうに、くだらないことで騒いで、笑い合える時間。 少し前までなら、考えられなかったような日常。
カチャリ。カップをソーサーへ静かに戻した。
「……みんな」
私は背筋を伸ばし、三人をまっすぐに見据えた。
「私――ウィステリア領へ行こうと思うの」
コメント
1件
あら〜、今回も賑やかで楽しいお茶会ですね!フローラちゃんの「害虫は全力で駆除」作戦、思わず笑っちゃいました。テーブルの下でアレク様とレオン様の足をグリグリ踏むなんて、恐ろしいけど可愛い…!バイオレッタさんがつい甘やかしちゃう気持ち、すごく分かります💭 最後の「ウィステリア領へ行こう」という決意表明、物語が動き出しそうな予感で続きが気になりますね。日常の楽しさと、これからの展開のバランスが素敵なエピソードでした🌷