テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
継母が朝食をとりに食堂まで来るのは珍しい。私の顔を見ると食事がマズくなるといって、部屋まで一通り運ばせるのが毎朝のことだし、そもそも昼近くまで起きない。だけど、稀に私をなじってストレス解消をするために、朝から食堂にくることがある。
今朝はまさにそれだったわけだ。
私がいないとなれば、また機嫌を悪くするのだけど、食器が投げられたり料理が台無しになることはない。だから、今朝は継母が食堂に姿を見せると聞いて、すぐに退席したのよね。食事をとり始めたばかりだったから、料理長に気を使わせてしまったみたいだ。
「今後は朝食を執務室に運びますか?」
「ダリア、私を早朝からここに軟禁するつもり?」
苦笑しながらも、彼女の心遣いを嬉しく思った。
「まぁ、そのことはまた後で話しましょう。それより、届いたお茶会の誘いへの返事、代筆をお願いしたいの。私の分はお断りでね」
「分かりました。ケリーアデル様へのお誘いは、いかがいたしましょうか」
「お継母様の分は、日にちが早いものから出席のお返事を。日が重なるものは、お伺いを立てます」
「かしこまりました。早急に取り掛かります」
手紙の束をざっと見て、送り主を確認した彼女は小首を傾げた。
「お嬢様、また、ロックハート侯爵家からお誘いが来ています」
「お断りして」
即答する私を見て、ダリアは切れ長の瞳を少し見開いた。そうして、納得できないと言いたげに、手紙へと視線を落とした。
言いたいことが分からないわけでもない。
諸侯の勢力図を考えたら、第三王子エヴァン様の後ろ盾であるロックハート家とは、上手いこと付き合った方が得策といえる。お姉様のためを思えば、関係を構築するに越したことはない。
だけど、そうもいかないのよね。
お姉様のご成婚でロックハート家とレドモンド家の関係は近しいものとなったとはいえ、ロックハート侯爵様とペンロド公爵夫人の仲が改善したわけではない。
もしも、私がロックハート侯爵様と近づくものなら、継母はペンロド公爵夫人に告げ口をするに決まっている。あの人は夫人から特に目をかけられているし、夫人のご機嫌とりのためなら継娘だって簡単に売るだろう。
「本当に、お断りしてよろしいのですか?」
「お茶会は、お継母様が許してくださらないわ」
「ですが、これほどご執心ということは、お嬢様とご令息の縁談をお考えなのではありませんか? 確か、三男様が十六歳になられたはずです」
「まさか! いくらなんでも、それは考え過ぎよ」
何がなんでも私に縁談を結びつけたがるダリアの言葉を笑い飛ばすと、綺麗な眉がわずかにつり上がった。
「そうでしょうか? ミルドレッド様のお立場を考えれば、もう少し交流を持たれた方がよろしいかと」
「……それはそうなんだけど」
珍しく一歩も引かないダリアは、厳しい眼差しを私に向けた。
「いい加減、ご自身の幸せをお考え下さい」
それは、結婚しろってことかしら。
返答に困って押し黙ると、ダリアは小さくため息をついた。
「お嬢様、ご縁談の話がいつまでも来ると思ってはいけませんよ」
「……その言葉、そっくりダリアにお返しするわ」
「私は、一生ヴェルヘルミーナ様をお守りすると誓いましたので」
「結婚しても、私に仕えることは出来るでしょ?」
「お嬢様の助けとなれる縁談であれば、応じましょう」
「そうじゃなくて!」
思わず声を荒げ、すぐに深く息を吐いた。
ダリアは本当に頑固だわ。
「結婚だけが幸せとも限りません。私は、こうしてヴェルヘルミーナ様にお仕えすることが一番の幸せです」
「……だったら、私も、セドリックがこの家に戻るまで、ここを守ることが幸せよ」
「家を守るための後ろ盾を手に入れ、かつ、良き伴侶を得られれば、最善ではありませんか?」
お茶会の誘いが綴られているだろう手紙の束を、扇子のように広げたダリアはにこりと笑った。
コメント
1件
あー、わかるわかる。継母が朝から乱入してくるの、ほんと胃もたれする展開よね……。 でもそこをさらっと回避するヴェルヘルミーナ、賢いわ。ダリアとの押し問答も良かったな。「結婚だけが幸せじゃない」って言い切るところに彼女の覚悟が見えたし、逆にダリアから「自分の幸せ考えて」って言われてムッとするのもリアルだった。家を守りたい VS 結婚で盤石にしたい、っていう二人のスタンスの違いが渋い。ロックハート家との距離感も、読み手に政治的な緊張をちゃんと伝えてくる構成、好きだわ🔥
#溺愛
高瀬船
934
#女性向け
常陸之介寛浩
840
黒猫ている
2,077
#ハッピーエンド
黒猫ている
502