テラーノベル
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後半です。
続きスタート
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声を出そうにも、震えるだけで言葉にならない。
痛みと孤独――そのすべてを、
誰も共有してくれる人はいない。
そのとき、ふと視界の端に動く影。
「……っ?」
静かに近づいてくるのは、すちだった。
柔らかく、おっとりした雰囲気で、
だが目は真剣そのもの。
一歩一歩、みことのそばに近づく。
「……みこちゃん、こんなところで
何してるの?」
すちは低く優しい声で問いかける。
みことは答えられず、ただ震えるだけ。
すちはそっと膝をつき、みことの背中を
抱き寄せる。
「大丈夫、俺がいるよ。辛かったね……」
その言葉は、痛みに打ちひしがれたみことの胸に、初めてほんの少しだけ温かさを
流し込んだ。
みことはまだ泣き声をあげることもできず、ただその温もりに顔を埋めて、床の冷たさと痛みを耐えるしかなかった。
みことは床に座り込み、痛みでうずくまりながらも小さな声で言った。
「ごめん、…すっちー、、家まで…ちょっと貸してもらえない、?…足が思うように
動かなくてッ」
その言葉を聞いたすちは、優しい表情を
少し引き締め、みことの足元に膝をついた。
「ごめんね、みこちゃん。ちょっと足、
見ていい?」
「…うん」
慎重にみことの足をめくると、
腫れはしているものの骨は折れていない
ことを確認する。
「ん〜、足は折れてなさそう。
結構腫れてるね。立てる?」
みことは首を振る。
「立つことも痛くて…」
すちは小さく頷き、低く柔らかい声で
言った。
「そっか、じゃあちょっと俺の背中、
乗れる?」
「ふぇ?いいの?」
「うん、らんらんじゃなくてごめんね」
みことは少し驚きながらも、安心した表情で頷く。
「いや!すっちーなら安心!…ありがとね」
すちはそっとみことを抱き上げ、
背中に乗せると、ゆっくりと立ち上がった。
「よし、じゃあ無理せず、
ゆっくり家まで行こう」
みことはすちの背中にしがみつきながら、
痛みと不安の混ざった気持ちを少しだけ和らげることができた。
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すちの背中にしがみつきながら、
みことは小さな声でつぶやいた。
「…すっちー、今日は本当に…ありがとう」
すちは少し笑って答える。
「うん、いいんだよ。無理に立とうとしなくていいから。痛いなら痛いって
言っていいんだよ」
「でも…足、痛いのに甘えて…ごめん」
「甘えていいんだって。俺、怒ったり
しないから」
みことは少し考えて、ぽつりと漏らす。
「…すちくんって、なんで…いつも、
みんなのこと見ててくれるんだろう」
すちは少し肩をすくめて照れくさそうに
笑う。
「それは…俺、放っておけない性格
だからかな。こさめちゃんとか、みこちゃんとか、助けられることは助けたいって
いうか…」
「ふふっ…すっちー、優しいね」
「そ、そんなこと言われると照れるな…」
少しの沈黙のあと、みことは小さく背中に
身を預ける。
「…すっちーと一緒にいると、なんだか
落ち着く。怖くても、少し安心できる」
すちは軽く頷き、柔らかく言った。
「うん、そう思ってもらえるなら、
俺も嬉しいよ。今日みたいなこと、
もう起こさせないようにするから」
みことは涙をこらえながらも、すちの背中にしがみつき、静かに安心を感じていた。
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家の玄関前に着くと、みことはふと足を
下ろして立ち止まった。
「…すっちー、本当にありがとう。今日は
助けてくれて、感謝してもしきれないよ」
すちは軽く笑みを浮かべながら
肩をすくめる。
「うん、いいんだよ。俺はただ、放って
おけなかっただけだから」
みことは小さく頷き、少し安心したように
息をつく。
「…ほんと、すっちーがいてくれて
よかった。家まで送ってくれて、
ありがとう」
すちは軽く頭を下げて、静かに言った。
「気にしないで。無事でよかったよ。
じゃあ、俺はそろそろ帰るね」
「うん、気をつけて帰ってね」
みことは玄関のドアを見つめながら、
少し余韻に浸る。
すちは振り返ることなく、
静かに歩いて家の外へ消えていった。
玄関のドアを閉める音が、今日の騒ぎが一段落したことをそっと知らせる。
みことはその場に小さく腰を下ろし、
少しずつ落ち着きを取り戻していった。
玄関の扉を閉めると、家の中はしんと
静まり返っていた。
みことは小さく息をつき、痛む足を引きずるようにリビングまで歩いていく。
棚の奥から救急箱を取り出すと、
テーブルに置いて、自分で包帯や消毒液を
並べていった。
「…はぁ…、っ痛…」
足に触れるたび、強く腫れた場所が鋭い痛みを訴える。
冷たい消毒液が皮膚にしみて、思わず顔を
しかめた。
「……結局、最後まで一人か…」
声に出すと、胸の奥がきゅっと縮む。
吐き気と、鈍い痛みと、誰にも
寄りかかれない心細さ。
震える手で包帯を巻きながら、心のどこかで「らんらん…、助けてほしかったな」
と思っていたけれど言葉にできない。
けれどそれ以上に、
「最初に置き去りにされた」
ことが頭から離れなくて。
「……もう、信じたくないのに」
包帯を巻き終えた足をそっと床に置くと
、ずきりと痛みが走り、涙が滲んだ。
みことはそのままテーブルに突っ伏し、
声を殺して小さく震えていた。
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玄関の鍵ががちゃりと回る音に、
みことの体がびくりと跳ねた。
「……お母さん?」
薄暗いリビングに立つ母親は、
ヒールを脱ぎながらため息をついた。
ふと視線がみことの足に落ちる。
腫れ上がった足、乱れた包帯。
「……あんた、その傷どうしたの?」
問い詰める声には、心配の色なんて
一滴もなく。
ただ苛立ちと軽蔑を滲ませていた。
「ッ……ごめんなさい、ちょっと転んで……」
言いかけた瞬間、母は手を振り払うように
遮った。
「早く直しなさいよ。私の子がこんなに汚くなってたら、私結婚できないじゃない。
ねぇ?どうするの?」
胸を突かれるような言葉に、みことの喉が
詰まった。
「……ごめんなさい……」
「はぁ……もう、また仕事だから行くわね。あんたも私のために働きなさいよ。
ほんと使えない」
母はバッグを取り、冷たく言い放つ。
「……ごめんなさい……」
小さく答える声は震えていたけれど、
母は振り返りもしない。
「耳障りがするから、
あまり喋りかけないで」
その一言だけを残して、扉は閉められた。
再び静寂に取り残された部屋で、
みことはただ俯き、小さく息を殺した。
みことは、閉まった玄関の方をただ呆然と
見つめていた。
やがて視界が滲み、頬を伝う涙に気づいた時には、
もう声を押し殺して泣くしかできなかった。
「……ごめんなさい、ごめんなさい、
ごめんなさい……」
何度も、何度も、壊れたみたいに繰り返す。
その声は部屋の隅に吸い込まれ、
誰にも届かない。
ふと気づけば、片手にはいつの間にか
カッターを握っていた。
震える指先で、冷たい金属が掌に食い込む。
机の上には、散らばった薬のシート。
OD用に隠していたはずのそれが、
今は妙に鮮やかに視界を支配する。
「ごめんなさい……消えれば、もう……」
嗚咽で言葉は途切れ、涙で視界は揺れる。
息をするのも苦しくて、ただ自分を罰する道だけが残されているように思えた。
みことは、刃先を手首に当てた。
だけど、皮膚に冷たい感触が触れた瞬間、
体が強張って動かなくなる。
「……こわい……ッ、”」
涙で視界が歪んで、カッターを握る手が
震える。
深く押し込むことができない。
――そう、いつもそうだ。
思い切れない自分に、また「ごめんなさい」を繰り返す。
視線を机にやれば、散らばる薬のシート。
一度に飲めば楽になるかもしれない、
と何度も考えた。
けれど、思い出すのは前に試した時の、
頭が割れるみたいな痛みだけ。
「また、苦しいだけ……」
薬を手に取ることもできず、
ただ嗚咽を漏らして、床に膝をついた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、
ごめんなさい……」
謝る相手は誰なのかも分からない。
母親か、らんか、すちか、自分自身か。
ただ声を押し殺しながら、泣き続けるしかできなかった。
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気づけば夜が明けた。
カーテンの隙間から射す光に気づいた時、
みことは自分が床に倒れ込んだまま泣き
疲れて眠っていたことに気づく。
体が重い。喉は腫れ上がって痛く、
頭は割れるように重い。
吐き気もある。胃が空っぽなのに、
何度も込み上げてくる。
「ッ、はぁ”~、はぁ……」
体調がひどく悪いのに、
誰も助けてはくれない。
母親は帰っていないし、部屋の静けさが
余計に孤独を際立たせる。
ふらつきながら立ち上がろうとするが、
足に力が入らない。
昨日の暴力で痛んでいる体が、さらに言うことをきかなくなっていた。
手に取ったカッターも、薬も、机の上に
そのまま残っている。
「なんで……生きてるんだろ……」
涙がまた頬を伝う。
泣きすぎて声も出ない、喉は枯れて
掠れている。
苦しい。しぬほど気分が悪い。
それでも、自分から終わらせることすら
できなかった。
ただ、陽が昇ってもなお、みことは一人きりで、暗闇に取り残されていた。
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いや本当に楽しかったです。
またリクエストあれば書いていくんで
気軽にコメントしてください。
後『マフィア』で今結構頑張って
書いているので少し気になればサラーと
見てください!!
コメント
2件
マジ言葉選び天才的過ぎて大尊敬です…っ、!!✨️ リク失礼します…、!! 本編前の📢🍍…みたいなのお願いしたいです!!