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閉館間際の水族館でデートする2人の話
「以上で撮影終了になります!」
カメラマンさんの明るい声が、周囲に響き渡る。
空間には、ありがとうございましたーと挨拶が飛び交う。
水族館を貸し切って、雑誌の写真とと短い動画の撮影。
普段はスタジオで撮影することが多いから、こんなのは滅多になくて、柄にもなく少しソワソワとしていた。
スタッフさんたちが片付けを始める中、俺はいつも通りマネージャーの後ろに着いていく。
すると後ろからぐいっと腕を引かれた。
相手は、予想するまでもなく恋人だった。
「仁人さ、この後空いてる?」
「なんで?メシ?」
「それもいいけどさ、………」
いつもよりソワソワしているのは俺だけでは無いのかもしれない。
期待を孕んだその目がなんだか放っておけなくて…というのは口実で、その提案に胸が高なったのを感じたので、二つ返事で了承した。
漫画かと突っ込みたくなるほどにパッと笑顔を見せた勇斗は、そのまま自分のマネージャーの元へ向かい、そのままスタッフの元に行き、輝きを増して俺の元に帰ってきた。
スタッフさんの声が遠のく。
貸切とはいえ、閉館時間まで少しあるから見てきてもいいかと許可を貰ってきてくれた。
照明も減って、暗い海底に迷い込んだような、そんな気分。
昼間は太陽の光が床に水面を作り、一面が水中のように感じられたが、夜の水族館というのは全く光を感じなかった。
小さな水槽に閉じ込められた魚たちを覗く度に、エサかエサかと寄ってくる。
幾つもある水槽にひとつひとつ挨拶を済ませていると、ふと横に気配を感じる。
いや、それはもちろん勇斗なのだけど……
「何撮ってんだよ」
「クマノミ似合うね」
「それ喜んでいいの?」
一度意識してから気づいたことなのだが、こいつ魚見てるか????
俺ばっかり撮ってない?
カメラは魚の方に向けろよ
…とはいえ、好きな人の視界に映るのは悪くない。
ほれ、もっと見ろ。お前の彼氏を。
なんてポヤポヤした気分で見回っていると、あっという間にこのエリアの魚を見終えてしまった。
仕方なくそのエリアを後にして、また光の少ない廊下を歩く。
順路に沿えば、次はクラゲがいたり、亀がいたり、博物館のような骨が飾られているエリアもあったりしたのだけれど。
この限られた時間で全てを周る訳には行かなかった。
けれど、通り過ぎるはずのエリアに、てちてちと歩くペンギンがいたのは見過ごせなくて。
思わず前を歩く勇斗の裾を引っ張ると、この子達の存在に気づいた勇斗も思わず近寄って言った。
「太智じゃん!」
「どちらかといえばバックダンサーだな」
「俺らのこと?」
「あのペンギン衣装はもういいから」
子猫に声をかけるように、ペンギンにも声をかけながら、時々上手く歩けない子を応援しながら、名残惜しくもそのエリアを後にする。
せっかくなら外で触れ合いたかったな、という気持ちがあったのも見ないフリをして、太智のその曲を口ずさむなどした。
サビの後はリズムが曖昧で、ぐちゃぐちゃになったのを見逃さなかった勇斗に笑われながら、気づけば暗いトンネルを歩いていた。
奥に光が見えて、次は何がいるかな〜と呑気に考える。
そのとき、いきなり左手にひんやりとした感覚を感じた。
「うぇっ!?びっっくりしたぁ……え、珍しくない?」
「今更だけど、まぁ……一応二人きりだし、繋いでくれるかなって」
そういえば、元々勇斗は手を繋ぐのが好きな人だったっけ。
誰かに見られたくないという俺の勝手なプライドで、段々と繋がなくなったけど。
にしても恋人繋ぎって。
「あと」
「ん?」
「仁人怖いかなって」
「えっ、なにが──」
と、暗いトンネルの先に見えたのは巨大な水槽。
ジンベイザメとかいるタイプの…アレ。
「…わお」
思わず握った手に力を入れる。
完全に浮かれていた。
そうだよな。水族館だもんな。
小さい水槽ばっかじゃないわな。
「…ごめん、怖い?」
その問いには、すぐには答えられなかった。
怖いのは事実だし。
でも今ここで怖いといえば、勇斗はきっとすぐに次のエリアに行ってしまう。
それはなんだか、勿体ない気がして。
「…もうちょっと、見る」
そう言うと勇斗は優しく笑った。
そしてそのまま、少し屈んで軽い口ずけをされる。
不思議と、それには驚かなかった。
「リアクション薄くない?」
「だって勇斗バレバレだもん。顔に書いてあったよ」
「まじか。……それはなんか、はずいわ」
その珍しい表情を見たら、この大きな水槽も見渡せるような気がして。
体の奥底でぞわぞわとする感覚を押し込んで、薄目で魚を見る。
太陽のように照らされた照明の前を、小さな魚の群れがぐるぐると回る。
下には大きな魚とエイがいて、時々珍しい模様の魚が視界を横切る。
「…きれい」
「よかった」
その光景を脳のメモリに保存し終えると、タイミングよくマネージャーからそろそろだと連絡が来る。
それが合図かのように、俺らはパッと手を離す。
くっつけていた肩も、少し距離を開けて。
足並みは、俺の方が少し遅くて。
“いつもの俺ら”になったところで出口に向かう。
…あっという間だったな。
海洋は苦手なはずなのに、なぜか今日は怖さをあまり感じなかった。
…また来たいっていったら、迷惑かな。
そもそも、水族館とか人多いしな。
二人で外出とか、あんまり出来ないし。忙しいし。
うん。
切り替え切り替え。
今日は仕事のついでだし。
たまたま。
切り替えろ。
浮かれるな。
水族館なんて、どうせ……
「仁人。次来た時はさ、もっとゆっくり見よ」
その言葉を聞いた時、自分がどんな顔をして、どんな返事をしたのか、もうあまり覚えていない。
次があるんだ。
次も一緒に来れるんだ。
そんなことを考えて胸がいっぱいになったなんて知られたら……
でも、夜の水族館ならそれもバレずに済みそうだった。
音羽🫧@夜型界隈🫠
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コメント
2件
お願いです。 ここの水族館で泳がせてください。でもわたし泳げないので多分そこらへんで溺れてます。 そしたら溺れてる私をみて笑ってください。あなたたちの笑顔で私は救われるのだ…
わあああ!!第1話からもう胸がぎゅーってなったよ😭💕 夜の水族館の雰囲気がめっちゃ綺麗で、暗いトンネルから巨大水槽が現れるシーンは鳥肌ものだったよ!仁人くんの「次があるんだ」って気づくところ、良すぎて何度も読み返した、、、勇斗くんのさりげない優しさも最高だし、最後の「夜の水族館ならバレずに済みそう」ってオチがもうエモすぎるよ!!続きが気になる〜!!✨