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塔のような廃墟に立ち並ぶ、巨大な機械たち。
そこに刻まれた無数の傷跡……
それは歴史の痕跡か……。
あるいは、ただの夢の跡なのか……。
壊れてしまったモノたちは、 永遠に動くことはない。
時の流れとともに朽ち果て、 やがて塵となり消えてしまう運命だ。
残されたわずかな記憶と共に。……だが、それでも私は思うのだ。
たとえ全てが失われようとも、 確かに存在していたのだということを。
かつてあったはずの世界の姿を。
失われたものは、決して失われてはいないのだ。
ここに在り続ける限り、それはずっと変わらない。
だからといって、どうなるわけでもないのだがね。……これはまた、珍しい客人が来たものだ。
よければお茶くらい出させてもらうぞ。
それにしても、お前さんたちはよく来るねぇ。
そいつは何よりだよ。
さあ、ゆっくりしてってくれよ。
ここはあんたが思っているよりずっと退屈なんだ。
別に話してくれなくてもいいぜ。
時間はたっぷりあるし、どうせすぐに忘れちまう。
俺はただ、ここでぼんやりするのが好きなだけだよ。
ここにいる連中だって、似たようなもんだと思うけどね。
まあ、あいつらはあんたと違って、自分じゃ動けないし喋れないんだけどさ。……えっ? 俺が誰かって? そりゃあもちろん、あんたと同じ客だよ。
ここに来た奴なら誰でも知ってることじゃないか。
それに、ここに来る前に会ったばけものは……
何をしていたんだろう? あれは何だったんだろうか……? こんなところにまで入りこんできて……
一体何をしようとしているのかな……? さっきからずっと見ているけれど……
あそこにいるのは、やっぱりあの人なんだよね……。…………。……。
「また来たのかい?」
背後からの突然の声に驚いて振り返ると、 いつの間にか、そこには少年がいた。
彼は微笑を浮かべながら、静かにこちらへ歩いてくる。
「君たちは本当によく似てるね」
それは聞き覚えのある声だったが、 彼が目の前にいることが信じられなかった。
私は彼に駆け寄り、その手をとる。
彼の姿はよく見ると透けて見えるし、 触れたところで体温など感じられないのだが、 それでもしっかりと手を握り締めずにはいられなかった。
私の反応を見て、彼は苦笑しながら言った。
「まだ、ぼくのことを思い出してくれないのかい?」
その言葉を聞いて、思わず涙が出そうになった。……やっと会えたのだと思ったからだ。
「ごめんなさい……」
私が謝ると、彼は悲しげに首を振った。
「いいんだよ。仕方がないことだからね。……ところで君は今、どこにいるんだい? どうしてぼくの手を握ってるの? もしかして、幽霊になって会いに来てくれたとか? だとしたら嬉しいけど……残念ながら違うみたいだね」
「ああ、ごめんよ。君を責めてるわけじゃないんだ。ただちょっとだけ驚いただけでさ。……えっ? それはどう言う意味だい?」
「君の言ってることがよくわからないんだけど……」
「あぁ、そういうことか。つまり君は、ここに来る前のことを思い出せないって言いたいんだろう? うん、わかるよ。実はぼくもよくそうなることがあるんだよね。別に病気じゃなくて、記憶喪失みたいな感じかな。それで、自分がどこから来たかも覚えていられないし、自分の名前もわからない。家族の顔も友達の顔も、顔どころか姿形だって思い出せないんだよ」
「そっか、それは辛いね。えっ、どうして自分が生まれたのかも忘れちゃうのかい?」
「ああそうだ。だから、君みたいにちゃんとした名前を持っていても、結局は自分の生まれた理由なんてわかんないままさ」