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「今までそんな素振り一度も見せたことないくせに・・・」
「そうよね。でもそれはお父さんが別れた時に決めたことだから。樹が甘えずにいつかちゃんと誰かを守れるようにって」
「二人のことだってオレは誤解して・・・。それもちゃんと言ってくれれば・・・」
わかろうとしなかったオレも悪いけど、だけど親父たちがちゃんと言ってくれれば、ここまで・・・。
「それもあなたが本当に大切だと想える人と出会えるまでは、私たちの本当の想いも離れた理由も言わないでおこうって決めたのよ」
「どうして・・?」
「私のためにお父さんと離れたことは事実だし、それであなたには寂しい思いもさせてたのも事実。だけど、それは私たち二人には必要な別れだった。お互いを想い合っていれば、それで私たちは良かったのよ。だけど、小さかったあなたには当然説明してもわからないし、かといってそれなりの年齢になったあなたは、誰かを想う大切さも知らないままでいた。だからいつかあなたが本当にそういう人と出会って理解出来るようになるまでは言わずにいようって」
「そっか・・・。うん。今ならわかるよ、その気持ち・・・。オレも彼女とここまで辿り着くまで同じ経験したから・・・」
ようやく辿り着けた幸せと真実。
だけど、どちらもオレが透子と出会わなければきっと辿り着けなかった。
今素直に二人の言葉が受け止められるのも、隣に透子がいてくれてるから。
どれだけ好きでも離れなきゃいけない選択が存在しているということ。
だけど、離れていてもその想いだけを持ち続けていれば、その幸せもお互いの想いも消えることはない。
離れていても想っていたい人。
一緒にいれるからだとか、離れているからだとか、きっと結果的にどっちでもよくて。
一緒にいても、離れていても、本当に大切で愛しい人ならば、その想いはずっと続いていく。
まさか、親父と母親と同じ道を辿ることになるなんて・・・皮肉な運命だな。
だけど、だからこそ今わかることが出来た両親の想い。
「だが、結局お前を思ってしたことが、私たちと同じような別れを経験させてしまった」
「どうしてそれを・・・?」
「神崎からすべて報告してもらってるよ。お前たちがどれほど想い合ってて、一度別れても、それでも信じ合って今一緒にいると」
「神崎さんが・・・?そっか・・・全部知ってたんだ・・・」
神崎さんには適わないな。
だけど、親父がそれも知っててくれたことに少し嬉しくなる。
ずっとそれを知ってて親父は見守っててくれたってことなんだな・・・。
「だから私たちは嬉しいのよ。樹が本当に愛する人と出会えて自分の幸せを見つけてくれたことが」
そう微笑む母親の笑顔が、優しくて、それでいて嬉しそうで。
「ありがとう母さん。母さんはずっとオレと彼女のこと応援してくれて心配してくれてたのホント感謝してる」
「母親はついつい息子に甘くなるものだから仕方ないわよね。ようやく私も今になってあなたの幸せを応援して支えてあげられるようになったから。これからも力にならせてちょうだい」
「うん。ありがとう」
ずっと見守ってくれて応援していくれていた母親。
ずっとオレを、透子を信じてくれていた人。
そして初めてこんなにも愛情深い両親だったのだと、今ようやく知った。
自分が向き合わなければ、見えてるモノも見えなくて。
だけどきっとその愛情はいろんな場所で至る所で感じることがあった気がする。
自分が素直になればきっとすべて見えていたはずなのに。
そんな当たり前なことが当たり前に出来ていなかった今までの自分。
だけど、これからは透子が隣にいてくれるから。
だから、これからはほんの些細なことも、当たり前のことも、自分では気づけないようなことも、どれだけ大切なことか、どれだけ幸せなことかを気付くことが出来るはず。
「父さん。結婚認めてくれてありがとう」
改めて頭を下げて気持ちを伝える。
「ありがとうございます」
そして透子も。
「あぁ」
たった一言。
それだけの返事だけど、でも今までと違って、なぜか優しく温かく心に響く。
「でもまさか、副社長まで言われるなんて思ってなくてビックリした。まだまだオレはそのポジションにも行けないと思っていたから」
「仕事では私が思っている以上に功績を残してくれてるようだし、母さんとこの新しいブランドの方では、代表として頑張っているんだろ? それなら、そろそろこっちの副社長も任せてみるのもいいかと思ってな」
「まぁ、そっちはまだそこまで大きくない会社だし、オレのやりたいように出来る会社だから」
「なんだ? お前はうちの会社の方では自信ないのか?」
「いや! そうじゃないよ。今のオレだからこそ、その立場にいて出来ることや広がることがあるだろうし」
「今ならお前には支えてくれる人がいるだろう。その人を今度はお前が全力で守らなければならん。そういう存在がいるということは、きっとお前にとって頑張る力になるはずだ」
「そうだね。彼女がいてくれるからこそ、オレはどんなことも頑張れるし、もっと上を目指して頑張れる。きっと彼女はどんな時もオレの力になってくれると思うから」
そう言いながら隣にいる透子を見ながら微笑む。
今こうやって隣にいてくれることが何よりオレの支えになって力になる。
同じようにオレを見ながら、その言葉に応えるように微笑んでくれる透子。
これからはずっと透子がいてくれる。
ずっと一緒に生きて行ける。
「樹。これから頼んだぞ」
「あぁ」
こんな日が来るなんて予想してなかった。
きっとオレはどれだけ頑張っても、親父には認めてもらえることはないのだと思っていた。
そこまで親父がちゃんと考えてくれていたなんて、正直驚いた。
だけど、今のオレをちゃんと見てくれていることが、今のオレをちゃんとわかってくれていることが、ホントに嬉しくて。
きっと昔のオレならそんなポジションも重荷で逃げていただろうけど、でも今は違う。
今は素直にそのポジションを与えてくれたことが嬉しい。
今のオレを認めてくれて、期待してくれていて、その気持ちを裏切りたくないと思う。
どんなことがあっても守って幸せにしたい透子が今は隣にいるから。
これからを期待してくれて任せようとしてくれる親父と、そしてどんな時でもオレを信じて傍で支えてくれる透子を、これからは絶対裏切らないように。
これからは信じてくれる人を大切に出来るように。