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まだ桜が僅かに残る立夏。
レナは、温かい布団の中で朝を迎えた。
彼女は重い上半身をゆっくりと持ち上げ、左手で美しい金髪を耳にかける。
そして、右隣のベッドで眠る2歳上の姉・エナの額ににおはようのキスを落とす。
(・・・起きない・・・姉さんはお寝坊ね、先に朝御飯つくっておきましょう。)
レナは自分のベッドのしわを伸ばすと、寝室を出て一階の台所に向かった。
「今日はの朝御飯はフレンチトーストにしましょう。」
台所に立ってレナはそう呟く。
フレンチトーストはエナの大好物。きっと彼女も喜ぶに違いない。
自分のつくったフレンチトーストを美味しそうに食べる姉を思い浮かべ、レナは心を踊らせた。
最近はまともに会話ができなかったので、これを機に仲直りしよう。
鼻歌を歌いながら冷蔵庫をあけると、レナはあることに気づいた。
「_やだ、私ったら・・・。 ちょうど卵を切らしていたところじゃない。」
フレンチトーストを作るのに卵はとても大切な材料の一つ。
それがなかったらフレンチトーストじゃない!
こうしちゃいられない、レナは買い物に必要なものをカバンに詰め込むと家を飛び出した。
「あれ? レナ。」
商店街に向かっている途中、レナは聞き慣れた声に足を止める。
「あら、ハオ。 今日は早いのね。」
「やあレナ。 君こそ、こんな早い時間に買い物かい? めずらしいね。」
声の主は、レナの幼馴染・ハオだった。
ハオはレナの隣の家に住む少年である。 年齢は2つ上で、エナと同級生。
「ええ。 今日はフレンチトーストを作るから卵を買いに。」
「へえ、フレンチトースト。」
大きい目をさらに大きくさせて、ハオは相槌を打つ。
「フレンチトーストか。 それは朝御飯にちょうどいいね。」
「そうでしょう。 姉さんもきっと喜ぶわ。 姉さん、フレンチトーストが大好物だもの。」
「・・・そうなんだ。」
「うん。朝御飯に一緒に食べるの。」
ふふふ、と目を細めてレナは笑う。
ハオは再び目を丸くする。
「お、おい、レナ・・・お前は今何を言ったんだ?」
「? 何をって・・・? 『朝御飯に一緒に食べる』、って言ったのよ。」
「聞き間違いじゃなかった!」
今度は顔を青くするハオ。
がしッ、ハオはレナの細い肩をつかんでいいきかせる。
「レナ、もうそろそろやめようぜ、そんなことをするのは。」
「・・・は?」
眉間にしわを寄せてレナを見つめるハオ。
もともと強面なこともあってか、その気迫は凄まじいものだった。
レナは反射的にハオを突き飛ばして距離を取る。
「痛っ、レ、レナ・・・。 辛いかもしれないけど、もう、エナは・・・エナは・・・ッ」
「・・・ハオ、あなたこそ何を言っているの? 寝言はやめてちょうだい。 迷惑よ。」
尻餅をついているハオを上から睨む。
ハオはこうしておけばもう変に突っかかっては来ないだろう。
「ふん。」
服についたホコリを払うと、レナは商店街に再びあるき出した。
商店街の卵屋で、レナは足を止める。
そのまま店の奥で新聞に読む店長にいつもよりやや大きな声で一声。
「卵、2袋ください」
「はいよー」
店長はどこか面倒くさそうな返事をすると、ゆっくりと椅子から腰をあげ、のろのろとあるきだした。
しばらく経って、店長がレナに2袋分の卵を渡す。
今朝とれたばかりの新鮮な卵だ。
「こんなに食べられる? レナちゃんは今・・・一人暮らしだろう?」
「あら、店長さん。 何を言っているの?」
けろりと答えるレナ。
店長は片眉をあげて「ん?」と声を漏らした。
「私はエナ姉さんと二人暮らしよ。 だから卵は2袋じゃないと足りないわ。」
「は?」
「? どうしたの?」
今度はきょとん、と首をかしげるレナ。
店長はレナの言葉に不信感を抱く。
「っ、、、おいおい、レナちゃん・・・何を言っているんだい? エナちゃんはもう・・・なあ?」
店長の顔を冷や汗が滴る。
レナにはなぜ店長がそんな顔をするのかわけがわからない。
先ほどのハオにも似たような反応をされた。
「はぁ、もういいわ。 店長さんもハオと同じ反応をするのね。」
財布から卵2袋分のお金をだして店長の手に押し付けると、レナは卵を持ってそそくさと帰道をあるき出した。
「ただいまぁ」
家に帰って、レナはすぐに買ってきた卵を冷蔵庫にいれると、二階の寝室に向かった。
すぐにフレンチトーストを作る気分になれなかったのだ。
寝室に入ると、即座に体をベッドの上に投げ出す。
先ほど頑張って伸ばした布団のしわは、すべて元通り。
レナは右隣のベッドに目を向ける。
姉であるエナはまだ眠っていた。
「・・・みんなおかしいわ。 エナ姉さんはこんなに元気なのに・・・」
ゆっくりと手を伸ばし、レナは姉の白い頬をなでる。
予想通り、想像通り、エナの頬は昨日と変わらない感触だった。
そう、昨日と変わらない、骨の感触だった。