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お待たせしましたー
♡500↑ありがとうございます。
頑張りまーす!
ではどぞ〜
──一週間、何も連絡はなかった。
ユウのスマホは静かだった。電話も、インスタのDMも、LINEも。
慣れているはずだった。そもそもカズキは、頻繁に連絡をくれるような人間じゃなかった。
だけど、今までと違うのは、
“次がない”という確信だけだった。
ソファに座り、ぼんやりとテレビの画面を見つめる。
いつもなら、週末にカズキがやってきて、勝手に冷蔵庫を開けたり、酒を持ってきたり。
そんな些細な生活音が、今はただ、空っぽだ。
──別れよう。
自分の口からそう出たわけではない、けれどカズキはおの雰囲気で察して何でもなさそうに、むしろ丁度いいとでも言うように、その言葉を紡いだ。
別れたくなかったわけじゃない。
でも、本当に離れるなんて、考えていなかった。
“本当は引き止めてほしかったんだよ”
そんなことを思っても、もう遅い。
あの人は、笑って、あっさり出ていった。
ユウが本気で好きだった男は、最後まで冷たかった。
数日後、共通の友人に偶然会った。
「ユウ、カズキとは?」
その問いに、一瞬だけ返事をためらった。
「……別れたよ」
「……あー。あいつ、相変わらず女と飲み歩いてるっぽいけど…… 、膝が崩れそうになるほど安堵した。
頭の中に流れるのは、ひとつだけ。
「……会いたい」
もう一度、ちゃんと会って、全部話したい。
逃げずに、向き合って、あいつに伝えたい。
ユウがいないと、自分はもう──何ひとつ、まともじゃいられない。いいの?」
「……いいよ。そういう人だったし」
「でもさ……お前のこと、ほんとは好きだったと思うよ?」
「ないよ、そんなの」
ユウは笑ってごまかした。
──愛されてたなんて、思えなかった。
抱かれても、何度名前を呼ばれても。
あの人の瞳の奥には、自分の影なんて映っていなかった。
カズキの部屋にはもう行かない。
彼の好きな煙草の匂いも、使っていた香水も、遠いものになっていた。
それなのに、ふとした瞬間に蘇ってくる。
例えば、コンビニの棚に並ぶカフェオレを見ると、
「ユウって甘党すぎ、可愛いけど」
と笑った声が頭にこだまする。
例えば、雨の音を聞くと、
「濡れたお前、ちょっと色っぽい」と悪びれもなく言った表情が蘇る。
忘れたいのに、心が拒絶している。
「好きだった」じゃなくて、まだ「好き」なまま。
けれど、それを言ったって意味はない。
カズキは、ユウがいなくなっても、きっと平気だ。
“何も変わらない”
それが、一番残酷だった。
一方で──
カズキもまた、妙な違和感を抱えていた。
部屋は静かだ。
誰も勝手に洗濯してくれないし、朝起こしてくれる声もしない。
女と飲みに出かけても、どこかで冷めている自分がいた。
「……なんだ、これ」
寝転んだベッドの上で、カズキは天井を見上げた。
ユウが座っていたソファ。
ユウが笑ってくれたキッチン。
ユウが泣きそうな顔で縋ってきた、ベッドの中。
その全部が、もう手元にない。
「……別に、いてもいなくても変わんねーだろ」
そう言い聞かせても、胸の中のざらつきは拭えなかった。
夜、ふとスマホを開く。
LINEをスクロールする。
「了解」
最後のメッセージが表示されたまま、返事を返していない。
既読がつかないままの未送信の文章を見つける。
『ユウ、今どこ?』
『まだあの部屋いる?』
『ちょっと……会いてえかも』
カズキはそれを、指先で全部消した。
「……バカか、俺は」
けれどその手は、どこか震えていた。
気づけば、スマホの画面ばかり見ている。
新しい通知はない。
着信履歴にも、LINEにも、あの名前はない。
──ユウ。
思い返すと、あいつは本当に手がかからない男だった。
文句を言わない。拗ねない。泣いても、すぐに「ごめん」と引っ込めて、黙る。
だからこそ、雑に扱いやすかった。
他の女と飲んでいても、「あいつなら待ってるだろ」って、どこかで思ってた。
「……マジで、いねえのか」
ソファに寝転び、カズキは天井を睨む。
冷蔵庫の中には、ユウの好きなカフェオレがまだ一本残っていた。
ユウが来るたび、冷やしておいたもの。
今は、ただ冷たく残っているだけだった。
「あの子とは終わったの?」
バーのカウンター。隣に座った女が、細い指でグラスを転がす。
「……ああ。別れたよ」
「なんか意外。あんなに懐かれてたのに」
「別に、俺が好きだったわけじゃないし」
軽口のつもりで吐いた言葉が、自分で吐いた言葉のくせに、思いのほか胸に刺さる。
何を言っても、あの柔らかい声が脳裏に浮かんでくる。
『カズキが笑ってると、ちょっと安心する』
『俺のこと、ちゃんと見てる?』
『……嫌いになれたら楽なのにな』
どれも、あの部屋の片隅で聞こえた、ユウの声。
自分は、どれひとつ正面から受け取ろうとしなかった。
だから、もう全部遅い。
……はずだった。
午前二時。
カズキはふらりと足を動かし、気づけばユウの部屋の前に立っていた。
鍵は、返していない。
ポケットの中で、ひんやりと重みを感じるそれを、出すことはなかった。
ただ、インターホンも鳴らさず、扉の前に立ち尽くす。
──会いたい。
そんな感情が、自分の中にあったことに驚く。
ただのセフレ。都合のいい男。
そう思っていたはずなのに。
今、何をしているだろう。
誰かと一緒にいるのか。
笑っているのか。
泣いているのか。
……自分以外の男と、キスしてないか?
その瞬間、喉の奥がきゅ、と詰まった。
「……くそ」
感情があふれていく。
あんなにも無関心を気取っていたのに。
今になって、ようやく気づく。
あいつがいないと、何も埋まらない。
ユウの作る味噌汁の味。
寝起きの不機嫌そうな顔。
寂しそうに笑う横顔。
全部、全部、欲しかった。
──もう遅いなんて、冗談じゃねえ。
翌日。
カズキは会社の昼休みに、スマホを開いた。
LINEの一番上に残っている、ユウとのスレッド。
何週間も前の「了解」のまま、止まっている。
メッセージを打つ指が、わずかに震える。
> 「まだ、あの部屋にいる?」
送信。
数分、既読はつかない。
落ち着かないまま仕事に戻ろうとした瞬間、ポン、と通知が鳴った。
──既読。
そして、返信。
> 「うん。いるよ」
その一言だけで、膝が崩れそうになるほど安堵した。
頭の中に流れるのは、ひとつだけ。
「……会いたい」
もう一度、ちゃんと会って、全部話したい。
逃げずに、向き合って、あいつに伝えたい。
ユウがいないと、自分はもう──何ひとつ、まともじゃいられない。
はい今回はここまで!
久しぶりに長めに書けた気がする…🤔
次回→♡500
ばいばーい