テラーノベル
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数日後の放課後の教室は、やけに静かだった。
窓から入る風で、カーテンがゆっくり揺れる。
🐬「なあ、まなと」
ノートに視線を落としていた俺は、ペンを止める。
この呼び方。
少しだけ、いつもと違う声。
🐧「なに」
顔を上げると、そうたは珍しく真面目な顔をしていた。
少しだけ、嫌な予感がする。
🐬「相談、いい?」
その一言で、全部察してしまう。
ああ、これだ。
一番来てほしくなかったやつ。
🐧「…いいよ」
逃げる理由なんてない。
むしろ、逃げたら終わる気がした。
🐬「実はさ」
そうたが頭をかく。
🐬「好きなやつ、できたかも」
――やっぱり。
心のどこかで覚悟していたはずなのに、
想像してたよりずっと重くて、息が詰まる。
🐧「へえ」
それしか言えなかった。
🐬「同じクラスの子でさ、よく話すんだけど」
楽しそうに話す横顔。
その全部が、俺には向けられないものだと思うと、
胸の奥がじわじわ痛む。
🐬「どう思う?」
どう思う、って。
そんなの決まってる。
やめろよ、って言いたい。
好きになるなよ、って言いたい。
でも。
🐧「いいんじゃない?」
口から出たのは、全然違う言葉だった。
🐧「優しいし、そうたに合ってると思う」
自分で言ってて、何言ってるんだろうって思う。
🐬「マジ?やっぱそう思う?」
嬉しそうに笑う。
ああ、よかったな。
俺じゃなくて。
🐬「告白しようかなって思ってんだよね」
軽い調子で言うその言葉が、
やけに重く聞こえる。
🐧「そっか」
喉がうまく動かない。
🐬「でもさ、ちょっと怖くて」
珍しく弱い声。
🐬「もしダメだったら、今の関係も終わるじゃん」
――それ、今の俺だよ。
言いそうになって、飲み込む。
🐬「だからさ」
そうたが、少しだけこちらを見る。
🐬「背中押してほしい」
その目は、まっすぐで、昔からずっと知ってる顔で。
だから余計に、逃げられない。
🐧「……そうた」
名前を呼ぶ。
それだけで、何かが壊れそうになる。
🐬「なに?」
期待した目。
信じてる目。
俺が、応援するって、分かってる顔。
🐧「――頑張れよ」
結局、それしか言えなかった。
一番言いたくなかった言葉を、一番最初に言ってしまった。
🐬「サンキュ、まなと!」
ぱっと明るくなる表情。
その顔を見るだけで、全部分かる。
ああ、もう。
俺の入る余地なんて、最初からなかったんだ。
🐬「うまくいったらさ、一番に報告するわ」
嬉しそうに言う。
「聞きたくない」なんて、言えるわけない。
🐧「…うん」
頷くことしかできない。
⸻
帰り道。
いつもと同じ道なのに、少しだけ遠く感じる。
隣にいるのに、遠い。
🐬「緊張してきた」
そうたが笑う。
🐬「今からじゃねーよ」
🐬「だって明日だし」
明日。
その一言で、心臓が強く打つ。
🐬「応援してくれるよな?」
無邪気に言う。
残酷なくらい、まっすぐに。
🐧「してるよ」
声が、少しだけ掠れた気がした。
🐬「ありがとな」
その一言が、やけに優しくて余計に、苦しくなる。
⸻
その夜。
ベッドに横になっても、全然眠れない。
スマホを開いて、閉じて。
連絡を送る理由もないのに、画面を見つめる。
――やめとけよ。
――好きになるなよ。
――俺を見ろよ。
浮かんでは消える言葉。
全部、送れないまま。
🐧「……最悪」
小さく呟く。
こんなに苦しいのに、
やめようと思えない。
どうしようもないくらい、
🐧「好きなんだよな」
誰にも聞こえない声で、そう零した。
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