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「僕と付き合わない?」
藤澤から妙なLINEがあった。
急にどうしたんだ。
俺はすぐには返信しなかった。藤澤が、他の人に送るつもりのメッセージを、俺に誤って送ってしまったのだと思ったからだ。もう既読をつけてしまったが、変にいじらないほうがいいだろう。
まさか自分じゃない、と俺は自分に言い聞かせた。ベッドにもぐる。しばらく寝よう。
それにしても藤澤の意外な一面を見たと思う。あんな風に、自分から告白をするような男だっただろうか。
ピロリン、と通知音が鳴った。目は閉じかかっていたにも関わらず、俺の手はすぐにスマホにまっすぐ伸びた。可愛らしい犬のアイコンが目にとまり、藤澤だ、それを判断できるくらいには冷静だった。
「既読スルー!?」
「今忙しいだけかな?」
「ごめん、嫌だった?」
文面からして焦りが伝わってくる。俺はすぐに既読をつけてしまったことを悔やんだ。
とりあえずこう送る。
「おい! 送り先間違えてね?笑」
「俺じゃないだろ」
すると、俺に負けない速さで既読がついた。画面上に少し沈黙が走る。
「間違えてないよ」
ん?
ベッドから起き上がり、もう一度確認する。
「本気で好きなんだ」
こいつ何を言っている。何を……
俺はゆっくりと深呼吸した。そうでもしなきゃ頭がおかしくなりそうだった。
まさに何とも言えぬ感情だった。不思議に思ったし、うれしいとも思ったし、恥ずかしいとも思ったし、正直なところ、ほんの少しだけ、気持ち悪いとも思った。けれど俺は、明らかに、藤澤の言葉に心を動かされた。
「そうか」とだけ、まずは送る。
その次の言葉を送ろうとした矢先、先手をつかれた。
「なんちゃってー!!笑笑ドッキリ大成功(*‘▽’)」
は、とも、あ、ともとれないあいまいな吐息がもれた。
「今日何の日でしょうー?」
弾かれたように、カレンダーを見る。
4月1日。
この野郎……
「エイプリルフールです!! 騙された? もしかして」
「ふざけんなよ笑 んなわけねーだろ」
「だよねえ」
これまた可愛い鳥のスタンプが送られてくる。俺はメッセージを何文字か打ち、すべて消し、また何か書いて、結局はまた一文字ずるすべて消した。何も送れなかった。送る資格のある言葉など思いつかなかった。
藤澤はそれで会話を終了させたつもりらしかった。ただ黄色い鳥のスタンプが笑っている。何も送られてこない、俺が何か送らないと動かない画面をただ見つめ、ふと手の震えに気づく。
無性に腹が立って、スマホを床に投げつけた。鈍い音が響いた。
藤澤はエイプリルフールじゃない日にこのメッセージを誰に送るのか、その疑問だけが俺の頭を支配して離さなかった。