テラーノベル
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※独白
※言葉なし
※彼の胸中
side:wki
元貴から、ひと目会った瞬間この人だって思ったんだよね、と言われた時、胸がざわっとした。
自分が誰より元貴の近くにいると思っているのに、その元貴が、ひと目会った瞬間、と形容したのは彼だけ。
4つ歳上の、藤澤涼架。彼だけだ。
それが単純に面白くなかった。あの時の俺の中で。
だから、最初の印象は最悪だった。
徐々に音楽を通じてお互いに必要だと思えるようになっていったし、スキンシップも増えたけど、どこか上辺だけというか、仕事だけというか。
居心地の悪さは微かにあったけれど、なにより元貴が彼をとても大事にしていたから、それでいいか。と思っていた節がある。
涼ちゃんとルームシェアして、と元貴に言われた時は、なんで?と思った。なんで俺?住むなら、元貴と涼ちゃんじゃないの?と。
休止、別れ、色々あって、気を紛らわそうにも流行病によって行動も制限されて。
元貴も、涼ちゃんも、もちろん自分も。かなり精神的に辛い時だったけれど、大事にしてる涼ちゃんが心配なら、元貴が一緒に住むのが正解じゃないのかと。
『若井には、もっとよく涼ちゃんを知って欲しい』
それが、元貴からの返答。
元貴が真っ直ぐな目をしていたから、わかった。と承諾した。
共同生活を始めて、数日はよそよそしさがあったけれど、慣れるのはすぐだった。
とにかく、涼ちゃんは感情表現が豊かで。
すぐに感動したり悲しくなって泣くし、よく分からない漫才ネタで爆笑する。
家には俺しかいないからかもしれないけど、ねえねえ、と話しかけてくることが増えて、自然と藤澤涼架という人を知っていった。
ふわふわした笑顔で笑う。
下唇を噛んで泣く。
少し頬を膨らませて怒る。
ものすごく小さな、些細な癖みたいな仕草。
けれど。
なんだか、ぐっと近づいたような感じなのに、薄い、見えるか見えないかのヴェールが目の前にあるような感覚。どの表情にも、触れそうなのに触れない、最後の壁があるような。
感情も表情も言葉も豊かなのに、どこか線を一本引かれてるような、そんな違和感があった。
バンド活動の中では気付きもしなかった。多分、知ろうともしていなかった。
そして、だから元貴は彼を大事にしていたんだと、ようやく気づいた。
それが何なのかを掴みたくて、涼ちゃんとの距離を詰めたいと思った。
初めて、自分から、彼をきちんと知りたいと。
元貴が言っていたのは、こういうことだったのかなって。
自分から歩み寄ると、そのヴェールの存在が如実に現れた。知ろうとすれば、すぐにわかることだった。
涼ちゃん自身が、自分の深い部分にまで人に近づかれることを拒否している。無意識に。
涼ちゃん自身ですら気付いていないようなヴェールの向こう側に、元貴がいる。
ああ、そういうことか。と思った。
一目会った瞬間。元貴は本能ですべてを悟って、囚われて、涼ちゃんに恋をしたんだな。
俺は、涼ちゃんがそういう少し陰があるんだってことを知るだけできっと、良かったんだと思う。
けど、元貴が知ってる、涼ちゃんのすべてを知りたいと思うところまで、いつの間にか気持ちが来てしまっていた。
これは、完全に沼だ。
気づいた時にはもう手遅れ。
胸がざわっとする。
初めて元貴が涼ちゃんを連れてきた時に、涼ちゃんに対して感じた。あのざわつきと、似ている。
少しだけ違うのは、ざわつきの矛先は涼ちゃんではなくて元貴に向いていて、これが完全に嫉妬だということ。
その嫉妬の感情がどういう意味を持っているか分からないほど子どもではなくて。
俺は、涼ちゃんのことが、好きなんだ。
異性に感じるそれとして?
多分、そう。
今更好きになったって遅い。涼ちゃんの隣には元貴がいるのに。
すぐ傍にいて他愛もない話をして笑いあえるのに、ここにはいない元貴の存在が涼ちゃんの傍に、俺よりも涼ちゃんの近くにあるような気がして。
物理的に触れる距離にいるのは俺なのに、精神的に涼ちゃんの心に触れられるのは、俺じゃない。
勝算なんてないじゃん。元貴ほどの才能だって俺にはない。勝てない。
なのに、涼ちゃんに触れたい。
そんな気持ちを何か月も抑えて、押さえて燻ぶらせて、抑制しすぎたのかもしれない。
お酒の力が悪い方向に働いて、ふと、暗闇に佇む涼ちゃんが視界に映って、思わず手を伸ばしてしまった。
掴まえて、引き寄せて、抱き締めて。いかないで、と甘えて呟いて。
触れた。
でも、体に触れても、心には触れられない。
そこでようやく、迂闊だった。手を伸ばしてしまった。と思ったけれど、もう戻れなかった。
元貴のものなのに。奪うこともできない。元貴だって大切な人だから、そんな度胸もないのに。捨てられない思いは、燻ぶりすぎて抑えすぎて、どろどろになってしまった。
でもまだ大丈夫。お酒のせいにできる。酔っていることにして今日はこのまま寝てしまおう。と思った。
…思ったところで、かわいいなぁ、と涼ちゃんが呟いた声が腕の中から聞こえた。
瞬間的に、なんとも言えない感情が沸いた。
ものすごく、子ども扱いされているような、揶揄されているような。
元貴のことは、きっと子ども扱いしないでしょ?俺はこれでも、涼ちゃんが好きなんだよ。
人の気も知らないで。少しだけムッとしてしまった。
自覚も無い、想いを伝えてすらいない相手に、そんなことを思っても仕方が無いのに。
色んな感情が混ざりあって抑えられなかった。
勝手に元貴のもなんだと思っている。元貴はそういった想いは口にして伝えていく人だから。
元貴からの好意を涼ちゃんは受け入れたの?
ねえ、もときとは、心も重ねて、セックスした?
アルコールの所為か、俺が卑屈になっている所為か。
聞けもしないことを、思ってしまった。聞けない代わりに出た言葉が、おれのこときらい?だった。
ずるい問いかけだと思う。
涼ちゃんは、俺のことを、嫌いだって言わない。そんなことはわかってる。
涼ちゃんの心に触れられる元貴は、心も体も受け入れてもらったのかな。
ねえ、俺は?
俺も、元貴と同じとこに立ちたい。
一回だけで、いいから。涼ちゃんの深くにまで、俺を入らせてよ。
初めて、涼ちゃんを知りたい。と思ってから、時間をかけて、大事に大事に、信頼関係とか絆とかを築き上げてきたのに。
それを、ほんの少し胸を焼いた感情に負けて、自分で投げ出してしまった。
心に触れてから初めて、体に触れられるかどうか。なのに。心に触れられていないのに、体にだけでも触れたいと思ってしまった。
やり方も順番も大間違いだと脳裏を一瞬過ぎったのに、いやだ、やめて、と必死で抵抗する涼ちゃんを、無理矢理、暴いてしまったんだ。
つづく
間が空いてしまった。
言いたいことが上手く表現できず
書いては書き直すを繰り返して爆発するかと思った。
毎度の事ながら、長々と説明的な文章ばかりで読みにくかろうと思います。
いいねやフォロー、コメントもいただけるようになって、本当にありがとうございます。
励みになります。感謝。
コメント
5件
💙、ちゃんと💛ちゃんの事好きなんですね!良かった〜でも不器用すぎる🤣 でもそんなとこも💙ぽいな〜と思っちゃいました🤭
クズ井…いや若井さん笑 やっぱり追い詰められていたんですね。1度違和感が気になってしまっては沼、しかも親友はその中に入れているのかもしれないと思うと色んな感情が渦巻くんだろうなと。薄いヴェールがある気がするのはわかる気がすると思いました… 本人無自覚で、信頼し合えるようになったと思っていたのと壁を感じるすれ違いで取り返しのつかない歪な関係になってしまった2人が今後どうなるのか次回も凄く楽しみです!