テラーノベル
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わたしに許されたのは、ただ真綿で包むことだけだった。
彼は白い桃だった。
少しつつけば穴を空け、軽く掴めば潰してしまう。齧るだなんてもってのほかだ。薄い皮を剥げば、下から無防備な実が露出するだろう。
水分で覆われた脆い球。滴る汁のべたつきまで鮮やかに想像した。
どのくらい切り込めば二つに割れるだろうか。どれほど叩けば液体に変えられるだろうか。
彼を傷つける方法を幾らでも知っている。
デザートの作り方も。所々腐りかけた部分を取り除いてやればよかった。煮詰めてジャムにしてもよかった。固めてゼリーにしたってよかった。 如何様にもできるという可能性は蠱惑的だった。わたしは憎悪に任せて、危うくナイフを突き刺すところだった。
情動に従って何になる? 仕方のないことばかりなのに。わたしにはもう何の関係もないのだ。触れることを諦めた時点で、わたしは一切の資格を持ち得なかった。
彼は存在が猛毒である。自らの引力で寄せつけ、磁力で跳ね飛ばす惨さを、まとめて許されたがっている。
彼は沈黙を貫き、次こそ正しく処理してくれる誰かを待ち続けるに違いない。
仄かに甘い香りが、静かな森の奥で漂っている。
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