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水木「おはよう 夜姫」
煙草を吸いながら 寝起きの私に声を掛けた
夜姫「おはよう…ございます」
寝起きのせいか 少し眠たい
私は、虚ろな目で水木様を見た
夜姫「…今日も、お仕事なのですね 頑張って下さい」
これで5021回目の「いってらっしゃいませ」
此処まで続くと流石に驚く
水木「…ん それじゃ行ってくるな」
水木様は、軽く返事をして地下室の扉を閉めた
夜姫「……人間は、大変な物ですね」
人のことなど言えないけれど
夜姫「…」
この時間帯は、基本読書をしている
少しでも知識を付けるためだ
今 私が読んでいる本は、太宰治という作家が描いた「人間失格」
風の噂によると この本を描いたあと 作家は、妻と心中したらしい
静寂に支配された部屋で 一枚一枚 紙を捲っていく
重めで闇が深い話だが 何処か切ない気がする
夜姫「……文学者は……実に興味深い」
ゲゲ郎「ほう…何を読んでおるんじゃ?」
夜姫「ッ…! ……(気配を感じ取れなかった…)」
ゲゲ郎「…?」
夜姫「……人間の文学者が執筆致した 『人間失格』という とても興味深い小説で御座います」
ゲゲ郎「ほぅ…小説…と…な?」
ゲゲ郎様は、私の主様であり 鬼太郎様の父上様……
力の差は、圧倒的だ
ゲゲ郎「お主も…小説を読むのじゃな」
夜姫「はい…社会勉強と言う形で読ませていただいております」
ゲゲ郎「社会勉強…」
夜姫「…? 何か不満でしたか?」
ゲゲ郎「…いや ……流石じゃのう 夜姫 儂は、全く 社会勉強などせんからの」
ゲゲ郎様の思考は、私でも読み取れない
そう……それだけ謎なのだ
夜姫「褒めて下さり 感謝致します」
ゲゲ郎「…じゃが…のぅ」
ゲゲ郎様が 目を細め 視線を此方に向ける
何か…癪に触ってしまったのだろうか
心臓が 煩いほど鼓動を打つ
ゲゲ郎「…お主は、社会に出んとも 暮らしていける」
ゆらりと立ち 扉の方へと歩みを進め
此方を振り返ってから 再度口を開いた
ゲゲ郎「それだけは、肝に銘じよ」
夜姫「…承知致しました」
殺気だった目
……そうだ あの時もあの目をしてらっしゃった
嗚呼…あの日からどれほど月が立ったのだろう
『十年前』
丁度 ゲゲ郎様の奥様 岩子様が亡くなられた日
私は、自分の虚しさを悔やんだ
夜姫「何故…ッ 私は…私は…ッ!」
近くにあった岩に拳を何度も何度も打ち付けた
手が傷つこうが 血飛沫が飛ぼうが
何も気にしなかった
全ては、自分の弱さだと恥じた
その日からは、私は決めた
『次 誰かを死なせれば 自害しよう』と…
死ぬ事は怖くなかった
寧ろ 大歓迎だった
私は、幾度の壁を乗り越え続けた
それと同時に 鬼太郎様は、すくすくと育って行った
皆様の異常な束縛と同時に……
丑三つ時
丁度 私が茶を呑んで一息ついていた頃
鬼太郎様が瞼を擦りながら 座敷にいらした
夜姫「…おや 鬼太郎様 こんな夜更けに
どうされましたか?」
口角を少しあげ 鬼太郎様の方へ向き直ると
鬼太郎 「少し気になった事がありまして」
と瞼を擦るのを辞め 此方へ目線を向けた
鬼太郎「…夜姫さんは、なんで 自分を犠牲にしてでも周りの人間を助けるんですか?」
予想外の質問に
私は、持っていた茶を落としてしまった
畳に染み込んでゆく まだ暖かい茶
一粒だけ汗を流し 口を開いた
夜姫「なんでって………よく分からないんですけど……身体が勝手に動いてしまうんですよね」
偽りの言葉
これは、本心じゃない
そう…嘘だ
そう…本音を伝えることなんて私は出来ない
例え…主様達でも……
でも それが歯車が狂い始める言葉になってしまった
この日は、非常に天気が良く
私は 素振りをしていた
「…はっ……はっ…」
小鳥のさえずり
川のせせらぎ
微風の音が
非常に気持ち良かった
ゲゲ郎「…ほぅ…素振りをしておるのか…」
はっと我に返り 背後を向くと 顎に指をのせ
興味深そうに此方を見ている
主様が立っていた
夜姫「はい 」
私は、木刀を後ろに隠しながら 主様を見た
すると 以前とは変わった所があった
夜姫「(以前よりも 妖力が上がっている… ?)」
ゲゲ郎様は、幽霊族の元末裔
だけれど この妖力の多さは
私との差が開き過ぎている
ゲゲ郎「…夜姫……? 」
夜姫「ぇ……ぁ なんでしょうか…?」
ゲゲ郎「…少し腑抜けのような顔をしていたのでな…つい 」
くすりと笑い 少し小馬鹿にしたような口調でそう言う
夜姫「腑抜け…ですと……?! 私がそんな顔…する筈…ッ!」
顔がとても熱い
恐らく 恥ずかしかったのだろう
鬼太郎「思い切りしていましたよ 夜姫さん」
夜姫「な…ッ! 鬼太郎様まで…」
ゲゲ郎「特訓をするのは良いが…疲れが出ておるんじゃないかの?」
夜姫「(疲れ……?…そうなのでしょうか…?)」
夜姫「…そうですね では 少し大蛇滝の方で身を癒してまいります」
鬼太郎「きっとそれが一番の最適解ですね」
ゲゲ郎「うむ……そうじゃのう」
大蛇滝は、よく他の妖怪も通う ゲゲゲの森
有名な場所だ
人間界での単語を使用して言えば
〖温泉〗とでも言うのだろう
だけれど…沢山の妖怪が来るせいか
払い屋などが目を付けやすい
最善の注意を払って行かなければならない
トイレの花子さん「ぁ……久しぶり 夜姫」
夜姫「お久しぶりで御座います 花子さんも大蛇滝の温泉へ?」
トイレの花子さん「うん…! 最近肩が少し重くて」
夜姫「ふふふっ…そうなのですね 大蛇滝の湯は肩凝りにも効きますし 薬妙の湯とも呼ばれていますので 丁度良かったですね」
トイレの花子さん「そうだね…!」
大蛇滝の湯は 少し濁った緑色であり
…混浴だ
それが一番駄目なのだ
混浴は……駄目なのだ
だけれど……変な事をしてくる妖怪は殆ど居らず 警戒さえしておけば良いだろう
そんな甘い考えが後に 大きな災難へと変わる事を
私はまだ知らなかっただろう