テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
『蓮見れん』
それから、数日が経った。
みすずは、少しずつ家の中でできることを増やしていた。
朝ご飯を作る。
洗濯をする。
部屋を掃除する。
最初は、なぎに言われなければ何もしなかった。
けれど最近は。
「今日、俺がやる」
そう言うことも増えてきた。
なぎは、それを嬉しそうに見ていた。
「みすず、卵取って」
「分かった」
そんな穏やかな毎日。
まるで。
普通の恋人同士みたいだった。
――けれど。
みすずは知っている。
ここから出られないことを。
玄関の鍵を握っているのは、なぎだということを。
自分がここにいる理由も。
なぎが自分を連れてきたことも。
全部、忘れてはいない。
ただ。
それでも。
なぎと一緒にいる時間が、嫌いになれなくなっていた。
そんなある日の午後。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
みすずが顔を上げる。
「……誰?」
なぎの表情が変わった。
「……れん」
「れん?」
「うん」
なぎはすぐに玄関へ向かった。
みすずは少し離れた場所から、その様子を見ていた。
ガチャ。
鍵が開く。
「久しぶりだな、なぎ」
低い声。
玄関に立っていたのは、黒髪の青年だった。
蓮見れん。
なぎと同じくらいの年齢に見える。
穏やかな顔をしている。
けれど。
目だけが、笑っていなかった。
「……何しに来た」
なぎの声も、いつもの優しさとは違う。
「冷たいな」
「用件は?」
れんは家の中へ視線を向ける。
そして。
みすずと目が合った。
「……ああ」
れんの目が細くなる。
「やっぱり、いるんだな」
みすずの身体が固まる。
「……誰?」
なぎが間に入る。
「関係ない」
「関係ない?」
れんが笑う。
「俺には大いに関係あるよ」
「帰れ」
「嫌だね」
二人の間に、張り詰めた空気が流れる。
みすずには、何が起きているのか分からない。
ただ。
れんが自分を見る目が、少しだけおかしい。
まるで。
自分のことを知っているような。
「……みすず」
れんが名前を呼んだ。
「なんで、俺の名前を……」
「なぎから聞いた」
「……そう」
れんは少しだけ笑った。
「なら、話は早い」
「れん」
なぎが低い声で止める。
「みすずには何も言うな」
「どうして?」
「関係ないから」
「違うだろ」
れんの声が冷たくなる。
「こいつは、お前に連れてこられたんだろ」
みすずの目が見開かれる。
「……え?」
なぎが黙る。
その沈黙だけで。
みすずには分かった。
「なぎ……?」
「みすず」
「……本当なの?」
なぎは答えない。
れんが代わりに言った。
「本当だよ」
「……」
「こいつがお前をここに連れてきた」
みすずの顔から血の気が引く。
分かっていたはずだった。
自分は自由にここへ来たわけじゃない。
なぎに連れてこられた。
それなのに。
改めて誰かに言葉にされると。
胸が痛かった。
「れん」
なぎが言う。
「もう帰れ」
「帰らない」
「……」
「お前が何をしようとしてるのか、俺は知ってる」
れんはなぎを睨んだ。
「みすずを自分のものにしたいんだろ」
「違う」
「じゃあ何だ?」
「……好きなんだ」
その言葉に。
みすずの胸が大きく跳ねた。
けれど。
れんは笑わなかった。
「それを理由に監禁するのか?」
「……」
「外にも出さない」
「……」
「逃げられないようにして」
れんは一歩、なぎへ近づく。
「それで愛してるって言うのか?」
なぎの拳が、ぎゅっと握られる。
「……お前には関係ない」
「あるよ」
れんは静かに答えた。
「俺は、お前を止めに来たんだから」
みすずは二人を見つめる。
なぎとれん。
昔からの知り合いなのかもしれない。
でも。
今の二人は。
完全に敵同士だった。
「みすず」
れんが振り返る。
「俺は、お前の味方だとは言わない」
「……え?」
「俺はなぎを止めたいだけだ」
れんは真っ直ぐみすずを見る。
「だから、お前が俺を信用する必要はない」
そして。
「ただ――」
一瞬だけ、声が柔らかくなる。
「逃げたいと思ったときは、俺に言え」
なぎの表情が変わった。
「れん」
「何?」
「余計なことするな」
「だったら、お前がみすずを自由にすればいい」
「……」
沈黙。
みすずは二人の間に立っていた。
怖い。
けれど。
初めてだった。
この場所から出るという選択肢を。
誰かが、自分の前に置いてくれたのは。
れんは玄関へ向かった。
そして、扉を開ける前に振り返る。
「じゃあな、みすず」
「……うん」
「また来る」
なぎが睨む。
「来るな」
れんは少し笑った。
「それは無理だな」
扉が閉まる。
静かになった部屋。
みすずは、なぎを見る。
「……なぎ」
「……何?」
「れんって」
少し迷ってから。
「……本当に敵なの?」
なぎは答えなかった。
ただ。
みすずの手を、いつもより強く握った。
その手から。
小さな震えが伝わってきた。
みすずは初めて気づいた。
――なぎも。
れんのことを、怖がっている。
コメント
1件
うわぁ……第9話、一気に空気変わったね😳💦 れん登場で、今までの“優しい監禁”が完全に違う色に見えてきた…。なぎの「好き」が純粋なのか執着なのか、ますます分からなくなったよ。 最後の「なぎもれんを怖がってる」って一文、めっちゃ刺さった…。みすずの気持ち、どう動くんだろ…続きが気になりすぎる!!🥺💕