テラーノベル
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――その時、教室の入口に、静かなざわめきが走った。
校長と数名の教師を従え、王宮の紋章をつけた女官たちが立っていたのだ。
先頭にいるのは、上級女官の風格を漂わせた中年女性だった。
「レオン王子殿下」
穏やかな声だった。
だが、その声を聞いた瞬間、レオンの笑顔がわずかに凍りついた。
「……僕に何か?」
「王妃様の名代として参りました。殿下には、校長先生と共に学院内をご案内いただきたいのです」
「今、文化祭の最中なんだけど?」
「ええ。だからこそ、殿下にお願いしたいのですわ。王妃様も、義理のご子息である殿下を大変気にかけておいでです」
女官は優しく微笑む。
けれど、その目は一切笑っていなかった。
「近頃は、ウィステリア伯爵令嬢と親しくなさっているとか。殿下のご交友関係にも、王妃様は心を砕いておられますの」
「……」
レオンの指先が、わずかに強張った。
***
レオンの脳裏に、城の離れへ追いやられてから何度も見た光景がよぎった。
スープの底で、きらりと光っていたガラス片。
王妃付きの侍女が笑顔で差し出したパンを、ひと口食べた直後に走った、喉を焼くような痛み。
そして、別の侍女が餌を与えた翌朝、鳥籠の中で冷たくなっていた小鳥。
***
「……殿下、どうかなさいましたか?」
教師の声で、レオンはハッと我に返った。
そして、いつもの笑みを貼り付けた。
「分かった。案内するよ」
レオンは私へ視線を向けた。
「バイオレッタ、少し席を外すね」
「ええ。こちらは大丈夫よ」
「……本当に?」
「もちろん。私を誰だと思っているのよ?」
レオンは小さく笑った。
「頼もしいね」
けれど、去り際の彼の笑みは、いつもの王子スマイルとは少し違っていた。
王宮の女官たちに囲まれ、レオンは校長と共に教室を出ていく。
(……嫌な空気ね。今のレオンの顔、何だったのかしら)
胸の奥に、ざらりとした小さな違和感が残った。
だが、店内はすぐに慌ただしくなる。
「次は、餌やり体験のお時間です!」
司会の生徒の声に、客席がぱっと明るくなった。
コットン・キャンディ・シープたちの前に、星形や花形に焼かれた、餌やり体験用のおやつクッキーが並べられる。
「まあ、私もあげてもよろしいんですの?」
リリアンヌが興味津々で身を乗り出した。
「ええ。手のひらに一枚乗せて、口元へ近づけてください」
フローラが説明する。
「指まで噛まれないように気をつけてくださいねっ」
「分かりましたわ!」
リリアンヌは嬉しそうにクッキーを手に取った。
その横で、数人の客も同じように餌やりを始める。
「めぇ」
羊たちは大人しく、ぽりぽりとクッキーを食べていた。
けれど――。
「きゅ……?」
ルピが、小さく鳴いた。
「ルピ?」
ルピは、クッキーを食べているコットン・キャンディ・シープをじっと見つめていた。
「どうしたのよ、ルピ?」
私が尋ねた、その瞬間だった。
一匹の羊の瞳が、不気味に赤く光った。
「……え?」
続いて、二匹目。三匹目。
「め、めぇぇぇぇ……っ!!」
羊たちのふわふわした毛が、内側から押し広げられるように膨れ上がっていく。
「な、なんですの……!?」
リリアンヌが固まった。
愛らしいはずのコットン・キャンディ・シープが、風船のように巨大化していく。
そして――。教室中に、悲鳴が響いた。
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