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最近の司くんは変だ。
いつもなら常に声を張り上げているのではないか、と思うくらい大きな声のはずの彼は最近静かだ。普通の人なら気づかないくらいの変化だが、一年中ほぼ毎日一緒にいる僕からすると、そんな些細な変化ですら違和感を持ってしまう。その原因はなんだろうと考えても思いつかない。演出も文句なくつけさせてくれるし、なんなら追加のアイデアもくれるくらいだ。対人関係も問題なさそうだし、彼がそうなってしまっている原因がなかなかわからないのだ。彼は周りには心配をかけたくなくて自分のことをよく隠す。だから今回も、どうしたのか、と聞いても寝不足と言って答えをはぐらかされてしまうのだ。やはり本当に、ただの寝不足なのだろうか。今日はワンダーステージにて、本番に向けての練習がある。それに影響を及ぼさないといいな、なんてのんきな考えをしながらフェニックスワンダーランドへと向かった。
~練習にて~
N「~~?」
E「~~!」
T「……」
N「次、司のセリフじゃない?」
T「あぁ、そうだな、すまない。もう一回いいか?」
N「次から気を付けてよ?」
T「あぁ。」
R「司くん、ここはこういう動きに変更しただろう?」
T「すまない、ここは少し複雑だからちゃんと覚えられていなかった。次からは気を付ける。」
やっぱり元気ない気がする。いつもなら間違えないはずのところも間違えていて、普段よりミスが多い。
こういうとき、普通なら心配の言葉をかけるだろう。しかし、自分も徹夜などして疲れていたこと、そして本番も近かったことからいつもよりもきつく怒ってしまった。
R「司くん、君、やる気あるのかい?」
T「っえ、」
R「あんなに元気なのに、動きにキレがないし、失敗もいつもよりもしてるじゃないか。」
R「もう本番まであと少ししかないから、気を引きしめてほしい。」
N「類!ちょっと、言い過ぎじゃない…?」
R「でも、寧々もそう思うだろう?」
N「それ…は、」
E「でも、もしかしたら司くん、疲れちゃってたのかもっ」
R「今日はもう練習は終わりにしよう。このままやってもお互い集中できないだろう。」
T「すま…ん」
泣きそうな彼を背に更衣室へ向かった。
更衣室についた瞬間、一気に後悔が押し寄せてきた。頑張っている彼にかける言葉ではなかったと感じた。いつもなら一緒に帰るが今日はそんな気分になれず、先に帰った。本当はすぐに謝りたかったが、合わせる顔がないと感じ、できなかった。
メールで謝ろうと、家に帰り、スマホを開くと珍しい人からメールが来ていた。
それは司くんの妹の咲希さんからだった。
どうやら練習が終わったから帰ると連絡を受けてから大分時間がたっているのにいっこうに帰ってくる気配がないそうだ。だから、まだ僕たちといるのかを確認したくて連絡したらしい。僕たちはとっくに解散したこと、そして、自分が一度ワンダーステージあたりを確認してみると送り、会話を終えた。
電話などをしなかったのは繋がらないとさっき教えてもらったからだ。一応セカイにいるかもしれないということも考え、セカイは寧々に見てもらうことにした。
ワンダーステージにつくとやはり誰もいなかった。更衣室や医務室にいるのかもしれない、と思い、まずはステージから近い更衣室を見に行った。すると微かに物音がするような気がしたため、急いで開けるとそこには苦しそうに倒れている司くんがいた。
R「ッ!」
R「司くん!?聞こえるかい!?」
R「まずい、呼吸が浅い。」
きっと過呼吸を起こしているのだろう。でも人を看病することをあまり経験したことがなかったため、自分も内心とても焦っていた。何より理由がわからないため、声をかけることしかできなかった。
R「司くん、大丈夫だよ。僕がいる。落ち着いて、僕に合わせてゆっくり呼吸しようね。」
なるべく怖がらせないように、優しく、子供をあやすように声をかけた。
R「すー、はー、すー、はー。」
T「すー、すはースッすー、はっ、はー」
R「そう、上手だよ。もう少しで楽になれるからね。すー、はー、すー、はー」
だんだん呼吸も落ち着き、しばらくすると疲れて眠ってしまった。このままここにいる訳にはいかないため、咲希さんに連絡をいれ、司くんを僕の家で看病することにした。寧々にも見つかったと報告すると、
N「グレープフルーツのジュースね」
と言いながらもとても安心したように見えた。