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学園祭準備期間。
校舎はいつもより騒がしく、紙とペンキの匂いが廊下に残っていた。
れんは舞台班。
りりかは装飾班。
同じ校舎にいるのに、なぜか距離だけが遠い。
放課後、廊下ですれ違った瞬間、れんは足を止めた。
「今日も別班か」
低く落とした声に、りりかが振り向く。
「そうだねー。装飾終わんなくてさ!」
いつも通りの笑顔。
それが、れんの胸をざわつかせた。
「……無理しないでね」
「大丈夫だよー! してない!! 」
即答。
迷いも、間もない。
その速さが、れんは気に入らなかった。
「最近、他のやつと一緒にいる時間の方が長い」
「んー学園祭だから仕方ないよ」
「分かってる」
れんは一歩だけ距離を詰める。
触れない。
けれど、視線は逸らさない。
「分かってるけど、嫌だ」
りりかの指が一瞬だけ動いた。
「ねぇれん、顔」
「何」
「嫉妬してる顔」
れんは否定しない。
「してる正直。」
廊下の奥から、誰かの笑い声が聞こえる。
りりかは少し目を伏せた。
「嫌なら、嫌って言えばいいのに」
「言ってるよ」
低く、迷いのない声。
「他のやつと一緒にいる時間が長いの、嫌だ」
りりかは少しだけ目を細めて、くすっと笑う。
「知ってる」
「……」
「れんらしいね笑」
からかうようで、でも甘い声。
「でもれんは、離れろなんて言わないでしょ?」
図星だった。
れんは小さく息を吐く。
「言わない」
「でしょ」
りりかは一歩近づき、声を落とす。
「私ねれんの言わないくせに、
ちゃんと独占してくる所好き」
「……」
「奪わないところも、譲らないところも」
れんの視線が揺れる。
「それでいいの?」
「当たり前じゃん?」
即答だった。
「私、れんのそういう所も全部大好きだから」
少し照れたように、でもはっきり言う。
「むしろ、その方が安心する」
れんは何も言えなくなる。
りりかはさらに一歩近づく。
触れない距離。
でも、心は完全に寄り添っていた。
「俺のだって思うだけ」
「うん」
柔らかく、嬉しそうに。
「私もね、れんのこと自分のだと思ってるよ」
れんの口元が、抑えきれず緩む。
「……厄介彼女」
「でしょ?笑」
りりかは楽しそうに笑う。
「だから離れてあげない」
「俺も」
二人はそこで一度、足を止める。
触れなくても、十分だった。
やがて、別々の方向へ歩き出す。
距離はできる。
けれど、りりかの足取りは軽く、れんの胸は静かに満たされていた。
学園祭当日。
朝から校舎は騒がしかった。
呼び込みの声が廊下に響き、紙装飾が揺れる。
甘い匂いと、人の熱気。
れんは舞台班の控室にいた。
台本はもう閉じてある。
段取りも、照明も、全部頭に入っている。
それでも落ち着かない。
同じ校舎にいるはずなのに、見えない。
それだけで、胸の奥がざわつく。
「れん、もうすぐだぞ」
「ああ」
短く返す。
視線は無意識に出口を追っていた。
——
舞台前。
袖に立つと、空気が変わる。
照明の熱。
客席のざわめき。
「5分前!」
声が飛ぶ。
その瞬間、視界の端に白が映った。
装飾班の通路。
壁の確認をしている、りりか。
真剣な横顔。
集中した目。
ふと、視線が重なる。
りりかが、ほんの少しだけ笑った。
それだけで、れんの心臓が落ち着く。
——
本番。
照明が入る。
舞台が始まる。
れんは役に集中する。
声を張り、動き、台詞を繋ぐ。
客席のどこかに、りりかがいる。
それだけは、はっきり分かっていた。
見てくれている。
れんにとってそれが支えだった。
——
舞台終了。
拍手。
幕が下りる。
「お疲れ!」
声をかけられても、れんは軽く頷くだけだった。
荷物を置いて、すぐに外へ出る。
——
校舎裏。
少しだけ静かな場所。
先にいたのは、りりかだった。
「れん」
呼ばれて、足が止まる。
「ちゃんと見てたよ!舞台 」
「……どうだった」
「かっこよかった」
即答。
迷いも照れもない。
「声も、立ち方も。全部」
れんは小さく息を吐く。
「それならいいや」
「それだけ?」
「十分」
りりかが一歩近づく。
距離を詰めるのに、躊躇がない。
「私さ」
「うん」
「れんが他の人に見られるの、あんまり好きじゃない。」
れんの視線が鋭くなる。
「嫉妬?」
「うん」
即答。
「でも止めたりはしないよ!!」
「……どうして」
「れんが頑張ってるの、邪魔したくない」
その言葉に、れんの胸が締まる。
「俺は」
「うん?」
「普通に嫌だった」
「知ってる笑笑」
りりかは笑う。
「顔に出てた」
「え、まじ俺顔に出してた?」
「出てたよ笑」
断言。
「でも、それも好き」
れんは言葉を失う。
「ね! 」
りりかが、袖を軽く引く。
「学園祭、まだ終わってないよ? 」
「だからさ」
「一緒に、回ろ?」
「いいの?」
「もちろんです♩」
人混みの方へ歩き出す。
肩が触れる。
指が、ほんの少し重なる。
触れなくてもいい。
でも、離れる理由もなかった。
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