「とーちゃーく!」「うぇーい!」
俺と妹は両手を空に向けながら、そう大きく叫んだ。
ここに辿り着くまでの道中、それはもう色々とあった。
だからだろう……今は妹のこのハイテンションに、俺も乗るっきゃねぇーだろ。
いや? 別に現実逃避しかけてるとか、そんなこと一切ないよ? 本当だよ? ウソじゃないよ?
「いやぁ〜、なんだかんだ一週間ぶりに来たけどさ……」
俺は目的地であった目の前の建物をまじまじと見ながら、思わず苦笑いがこぼれ出す。
「復旧作業……早くね?」
一週間前に訪れた時の印象とだいぶ変わったその建物……もとい、看板を掲げた店に対し、俺はそう言わずにはいられなかった。
「さすがは『異世界の鍛冶屋』といったところッスか!」
「多分ですが鍛冶屋は関係ないと思いますよ、ヒナ……」
それもそのはず。一週間前に訪れたこの店は、もう少しで崩壊してもおかしくないほど半壊していた。その上、店の表は魔獣やあの道化師のようなヤツのせいで、瓦礫が散乱していた。
それがなんということでしょう!
新築とはいかなくも、あの半壊状態だったのが嘘のように綺麗に建て直されているではないか!
今ではまるで小さな一軒家のような、立派な店に生まれ変わっているのだ。
「街の連中が張り切っちまってなぁ。まいったぜ」
そう言いって、俺の隣にやってきた大柄の男が苦笑いをする。
「あ、鍛冶屋のオヤジ」
「よう兄ちゃん、元気してたか?」
大柄の男……もとい、目の前の鍛冶屋の店主は『ニッ』と俺たちに笑いかけた。
「どうだい? ケガの調子は?」
「まぁまぁかな。ケガの方は……さっきユーゼンのおっさんに完治させてもらったよ……」
俺はユーゼンとロキのタッグを組んだ荒治療を思い出し、思わず腕をさする。マジで痛かった……。
「そう言えば『街のみんなが張り切ってた』って言ってたけど、この目の前の新築同然の店はどうしたんだ?」
話題を変えたというか、戻したというか……俺は気になって仕方ない、この目の前の光景について質問する。
「『兄ちゃんの特注品を作る』って自慢したら、街中の大工やら魔法使いやらが集まってきてな。工房どころか、一晩で店まで新調されちまったよ……」
「へ、へぇー……」
二人して遠い目をしながら、俺は一週間前のやり取りを思い出した。
▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁
――――――――遡ること一週間前――――――――
「あのぉ〜……借りてたものを、お返しに来ましたぁ〜……」
俺は目の前で仁王立ちに立つ大柄の人物に、恐る恐る『ある物』を差し出す。
『ある物』――――とはなにか。
それは俺と共に闘い、時に俺を守り、某技を全力でやらせていただいた相棒。
何を隠そう、あの『麺棒』である。
たかが麺棒……『ユー、このままパクっちまえよ?』と思われるかもしれない。が、やはり良心的にも常識的にもこのままにしておくことは良くないと思い、返しに来たのだが……。
「俺は店主のカゾ・コージュだ」
……思ってた以上に大柄で強面な店主が現れ、完全に俺は萎縮したのだ。
俺、神崎八尋。何を隠そう、 権力と暴力……そして親父が怖い成人済みのお兄さんだ。
鍛冶屋の店主って言うから、それなりに怖いイメージを想像してたけど……思ってた以上に、大柄で強面な店主で怖い。
「……なぁ、兄ちゃん。一つ、確認しておきてぇことがあるんだが……」
「な、ななな、何なりと……」
――――――やはり緊急だったとはいえ、勝手に持ち出したことに怒ってるのか!?
もし暴力沙汰になったら、片腕を負傷している俺では勝ち目は無い……いや、負傷してなかったとしても俺に勝ち目はハナからない!
一応後ろにはお目付け役、兼セコムのロキがいるが……暴力だけは勘弁してください。
「『この街を一人で救った黒髪の兄ちゃん』ってのは、兄ちゃんのことか?」
「えっと……『一人で救った』かどうかについては語弊というか、噂に尾ひれはひれつきまくってるって言うか……実際ほとんど街を守ったのは後ろにいるフードを被ってる子供で……」
俺は後ろに控えてるロキをチラリと見る。
「それじゃあ兄ちゃんは、あの子供とどういった関係なんだ?」
内心「一つじゃないじゃん!」と泣きそうになったが、ここで泣いたら色々と言われそうなので必死に我慢する。
「ロ……アイツがどう思ってるかは分からないけど……俺はアイツを信頼してるし、本気でアイツに認められて、友達になりたいと思ってるよ」
そう俺が言うと、店主は強面な顔を『ズイッ』と顔を近づける。
「兄ちゃん……それ、本気で言ってるのか?」
「あ、あぁ……『神崎に二言は無い』ってのも、ウチの家訓だからな」
只でさえ強面なのに『ギロッ』とさらに睨まれる。近い怖い、近い怖い、近い怖い、怖い怖い怖いっっつつ!
もう半分泣きかけながら、店主に睨まれ続けて数分。
すると何かを納得したこのように『二ッ』と口の端をあげる。
「おう、ロキ! お前が居るから何かと思ったら……いい兄ちゃん捕まえたじゃねぇか!!」
「うるっせぇー、カゾのおっさん。さっさとバカ兄貴の用件を聞け」
店主とロキの会話についていけず、『ポカン』とする俺を他所に話が進む。
「おっ、そうだな。改めて、俺がこの店……つっても、ほぼ半壊状態なんだが、鍛冶屋の店主のカゾ・コージュだ。気軽にカゾって呼んでくれや」
そう言って、ケガしてる腕とは反対の肩を何度も叩かれる。あの、ケガしてない方に気を使ってもらうの嬉しいけど、めっちゃ響いて痛いっす。痛い痛い……いぃぃいだだだだだだっっつつ!!
「で、なんだっけ? わざわざその棒を返しに来てくれたのか? 店の前に散乱してた武器や防具は、昨晩の内にほとんど持ってかれちまったのに……律儀な兄ちゃんだな!」
店主……改めカゾさんは豪快に笑っているが、全然笑えない。そして俺の住んでた環境と違って、治安の悪さも相まってちょっぴり泣いちゃったのは内緒。
「まぁ、そんな謙虚でバカ正直で……律儀なところがロキのお眼鏡にかなったんだろうがな」
「えー、そう見えるんすか……?」
カゾさんは「そうだよ」と言って俺から相棒……じゃなかった、麺棒を受け取る。
「もし兄ちゃんが横暴なヤツだったら、盗っ人ってことで数発殴って屯所に突き出してたところだった」
「イヤァ、謙虚デバカ正直デ律儀二育テテクレタ親二感謝感激雨アラレチャン」
麺棒を受け取ったカゾさんは隅々まで麺棒を見る。それはそうだろう、大事な商品だからな。
俺も一応キズとかないか確認はしてはいたが……やはり本職が見た方が俺が気づかなかったキズとか見つかるかもしれない。もしコレでキズとかあったら……どうなるんだろ? あれ、ちょっと怖くなってきたな?
一気に不安が押し寄せてきた俺を他所に、カゾさんの表情が険しくなる。
「……なぁ、兄ちゃん。これは提案なんだがよ」
「ななな、なんでしょう?」
「俺がこの棒を仕上げちまってもかまわねぇか?」
「………………はぁ?」
カゾさんの言ってる意味がわからず、俺は間抜けな声を出すしかなかった。
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