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nmmn注意
ご本人様には関係ありません
nmmnという言葉がわからない方は見ないでください。
脱語脱字あるかもしれないです。
ホラーです。
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「ころんっ、!」
走ってきたであろう彼は、汗を流しながら僕の名前を必死に叫び
手を伸ばしてくる。
『さとみくん、』
僕はその手を掴もうと力を振り絞って手を伸ばす。
だがその願いも叶うはずもなく、手は虚しく宙を切るだけだった。
こうなったのは、数時間前のことだ。
あのときの僕とさとみくんは、まさかこんな事態になるなんて、夢にも思っていなかった。
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僕はさとみくんと一緒に、動画の撮影のため心霊スポットを訪れることになった。
いわゆる“定番”の場所で、ネットでも噂が絶えない、少し名の知れたスポットだ。
目的地は、漫画やアニメに出てきそうな古い墓地だった。
整然と並んでいるはずの墓石はどこか歪んで見え、文字の読めないものも多い。
足を踏み入れた瞬間、肌にまとわりつくような冷たい空気を感じた。
今は夏の夜10時であり、空気はひやりとしていて、
静けさがかえってさらに不安を煽ってくる。
風が吹くたびに木々がざわめき、その音さえも何かの気配のように思えてしまため、
心霊スポットだと、嫌でも意識させられる場所だった。
僕は怖さで少し手が震えていて、
一歩を踏み出すだけなのに、無意識に足へ力が入ってしまう。
平静を装おうとしても、心臓の音がやけに大きく聞こえて、
この場所にいること自体が間違いなんじゃないかと思えてきた。
そもそも、どうして僕たちがこんな撮影をしなければならないのか。
考えれば考えるほど、その理由が頭をよぎる。
るぅとくんと莉犬くんは、新しいペア曲のレコーディングで忙しく、
スケジュール的にとても撮影に参加できる状況じゃなかった。
ジェルくんはジェルくんで、「遠井さん」という個人チャンネルの撮影が入っていて、
こちらも手が空いていない。
なーくんはというと、現在は社長としての仕事に専念するため、活動を休止している。
そのため、今回の撮影には最初から参加できない状態だった。
そうして消去法のように残ったのが、
その日たまたま大きな予定のなかった、僕とさとみくんだった。
「二人なら大丈夫だろう」
そんな軽い判断で、この役目を任されたのだ。
正直、今になって思う。
本当に、僕たち二人でよかったのだろうか、と。
僕がそんなことを考え込んでいて、なかなか最初の一歩を踏み出せずにいると、
隣にいたさとみくんが、わざとらしく僕の方を覗き込んできた。
「あれぇ〜?ころんさん、もしかしてびびってるんですかぁ?」
ふざけた調子で、からかうようにそう言ってくる。
その声に、心臓が一瞬だけ跳ねたのが自分でも分かった。
そんな彼に、僕は思わずムキになってしまい、
『はぁ? 別にびびってないですけどっ!』
と、少し強めの口調で言い返した。
自分でも分かるくらい必死な声だったけれど、今さら引くわけにもいかない。
けれど、目の前のさとみくんはというと、
そんな僕の反応を楽しむかのように、口角をぐっと上げて笑っている。
からかう気満々のその表情が、正直言ってものすごくうざったらしかった。
——絶対、分かってて言ってる。
そう思うと、余計に悔しくなってくるのだった。
僕は悔しさを紛らわすように、
ぎゅっと力が入ってしまう足で、一歩、また一歩と心霊スポットの中へ踏み入れていった。
足元の砂利が小さく音を立てるたびに、胸の奥がひくりと揺れる。
心霊スポットと聞いて、もっと恐ろしい光景を想像していた。
何かが現れたり、背後から気配を感じたり——
そんなことを覚悟していたのに、実際に入ってみると、拍子抜けするほど静かだった。
聞こえてくるのは、
遠くで響くフクロウの鳴き声と、
途切れることなく吹き続ける冷たい夜風の音くらいだ。
風が肌を撫でるたび、ひやりとするけれど、それだけだった。
『なんだ、案外大したことないじゃん』
そう思いながら、
さとみくんもどうせ平気だろうと、何気なく視線を右へずらしてみる。
——けれどそこにいたさとみくんの表情は、
さっきまでの余裕たっぷりなものとは違っていた。
口元は引き結ばれ、どこか緊張したように、顔がわずかに強張っている。
その様子を見た瞬間、
胸の奥に、言いようのない不安がすっと広がった。
そのまま、僕たちは特に何も起こらないまま歩き続けていた。
拍子抜けするほど静かで、さっきまで感じていた緊張も、少しずつ薄れていく。
視界の先に、木々の切れ目が見えた。
——出口だ。
『もうすぐ出られそうだね』
そうさとみくんに声をかけようとして、口を開きかけた、その瞬間だった。
がたっ。
背後から、はっきりとした音がした。
風や動物のものとは明らかに違う、硬いものが地面に落ちたような音。
心臓がどくどくと嫌な跳ね方をする。
「……今の、聞こえたか?」
そのさとみくんの言葉を聞く前に、僕は反射的に振り返っていた。
暗がりの中、月明かりに照らされて、
何かが地面を転がり、ゆっくりと止まるのが見えた。
——丸い、何か。
喉がひくりと鳴る。
足が勝手に一歩、また一歩と近づいてしまう。
近づくにつれ、それが“何”なのか、はっきりしてきた。
人形の頭だった。
金色の長い髪。
ロングヘアで、毛先が少しだけカールしている。
ところどころに土が付着していて、黒ずんだ部分がまだらに広がっていた。
ガラスのような瞳が、虚ろにこちらを見上げている。
「……っ」
思わず息を呑む。
作り物だと分かっているはずなのに、背筋を冷たいものが走った。
気味が悪い。
一刻も早く、ここを離れなきゃ。
そう思って踵を返し、前を向いた——その瞬間。
視界の下に、それがあった。
人形の下半身。
胴体から下だけが、まるで最初からそこにあったかのように立っている。
服は色褪せ、土に汚れ、微動だにしない。
理解が追いつかなかった。
頭は、後ろに落ちているはずなのに。
じゃあ、これは何だ。
思考が止まる。
体が、言うことをきかない。
足から力が抜け、その場に崩れ落ちるように座り込んでしまった。
逃げなきゃいけないのに、視線が逸らせない。
そのとき。
背後で、何かが転がる音がした。
ごく、ゆっくりと。
僕の方へ近づいてくる音。
振り返りたくない。
でも、振り返らずにはいられなかった。
さっきの人形の頭が、
いつの間にか、僕のすぐ近くまで転がってきていた。
そして——
その口が、ぎぃ、と不自然に開いた。
「……にがさないよ」
掠れた、低い声。
人形から発せられたとは思えない、はっきりとした言葉。
一瞬、世界が静止したように感じた。
心臓が限界まで音を立て、
喉から、声にならない悲鳴が漏れる。
——やばい。
そう思ったとき、
視界の端で、人形の下半身が、僅かに動いたのだ。
逃げないと。
頭では、はっきりとそう分かっている。
ここにいたら駄目だ。危ない。今すぐ離れなければならない。
何度もそう自分に言い聞かせるのに、体がまるで他人のものみたいに動こうとしなかった。
——いや、違う。
動こうとしないんじゃない。
動けないんだ。
恐怖が限界を超えて、脳と体の処理が追いついていない。
足に力を入れようとしても、感覚がなく、
指先一つ動かすことすらできなかった。
背後から、嫌な気配が膨れ上がってくる。
人形が、どうやって動いているのかも分からない。
ただ、確実に僕に近づいてきているのだけは分かった。
視界の端で、黒い何かが蠢く。
それは煙のようにも、影のようにも見え、
人形の方から、じわじわと滲み出すように広がっていた。
まるで僕を包み込み、飲み込もうとしているかのように。
息ができない。
喉が締め付けられ、視界が歪む。
そのときだった。
「ころんっ!」
聞き慣れた声が、闇を切り裂くように響いた。
はっとして顔を上げると、
さとみくんが必死な表情でこちらへ駆け寄ってくるのが見えた。
恐怖で強張っていたはずの顔は、今は焦りと必死さでいっぱいだった。
彼は僕の名前を叫びながら、迷いなく手を伸ばしてくる。
『さとみくん……!』
声は震え、ほとんど掠れていたけれど、
それでも確かに、彼の名前を呼んだ。
助けてほしい。
ここから連れ出してほしい。
その一心で、残っている力をかき集め、僕も手を伸ばす。
指先が、震えながら前へと伸びていく。
もう少し。
あと少しで、届くはずだった。
——けれど。
次の瞬間、
僕の手は、何もない空気を掴むだけだった。
さとみくんの指先は、
ほんのわずかに届かず、
虚しく宙を切る。
その距離が、
あまりにも、残酷だった。
『さとみくん、 ごめんっ、』
その一言だけをさとみくんに残して
僕の目の前は真っ暗になった。
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最後までご観覧ありがとうございました。
普段より長めに制作させていただきました。
ホラーが苦手な人でも読めるような作品になってると嬉しいです。
いいね、もしくは作品への感想があると幸いです。