〖桜目線〗
「…….で?おめーらは俺で何がしてぇんだ」
ことはを人質にとられ、渋々奴らについて行くと、隣町の廃工場に辿り着いた。
「はははっ!君は何か、勘違いをしているようだね」
「あ?」
「確かに俺達は君を狙った。けど、それはある人に頼まれたからだ」
「……ある人….?」
「あぁ」
ニヤリとざらついた声で笑い、男の1人が突然、倉庫の扉を開け始めた。
「金で雇われてね。君は強いから、連れて来るのに苦労したよ。わざわざ弟を風鈴に送って君と同じクラスにしなきゃいけなかったからね」
「…..は?」
「ははっ!いいねぇ、その表情♡♡」
ドクドクと、心臓の血が全身に駆け巡る。
温度のない目で見られ、途端にドクンっ!と脳みそと心臓が共鳴した。
その温度のない瞳は、見た事ある。
いつも、笑っているけれどどこか一線引かれてあって。
冷めた目で笑う、アイツ。
あの男と、面影が重なって、頭がズキズキと痛んだ。
「あ?もう気づいたー?」
はははぁっ!っと、相変わらず冷めた目で奴が笑う。
「そーそー!俺はねぇー、 」
『潮見桜雅の兄貴だよぉー』
キャハハと甲高い声で笑った。
その声が耳の奥を貫き、頭の痛みが増す。
……じゃあ、あいつも、金で雇われたのか。
深い絶望に突き落とされ、昔の頃味わった痛みを、思い出す。
…..痛ぇ。
「んじゃ、俺もう退散するわー!みんなももう行こーぜぇ!」
そして倉庫が完全に開いた時。
…….俺は、再び見た顔に、ぞくりと震え上がった。
「あとはよろしくおねがいしゃーす!」
『……あぁ…..。よくやった….』
三日月のように細い目に、タッパのある背。
ニヤリと嫌な笑みを浮かべたその顔は。
忘れるはずもない。やつは。
「…棪堂..」
「覚えててくれたのか!桜!」
ぱあっと花が咲くように、明るく笑う棪堂。
それに反して、俺は顔を凍らせたまま、奴に問う。
「……何がしてぇ」
「随分と人聞きが悪いじゃねぇか、桜」
ケラケラとせせら笑う声が、心底耳障りだった。
震えそうになる手足に力を込め、キッと棪堂を睨んだ。
「….ふざけんな。ことはを人質に取りやがって。汚ぇぞ」
「なんだァ?あの女、テメェの気に入りモンか?」
「黙れ」
いつの間にか凍りつくような震えは止まり、逆に燃え上がるような怒りが、ふつふつと湧き上がった。
「….桜ァ、俺は、テメェを気に入ったんだ、色々な意味で」
「は?」
….急になんだ、コイツ?
いつになく静かに言う棪堂に、不気味さを感じつつ、睨みを緩めず聞く。
「何が言いてぇ」
「桜」
シン、と静かな沈黙が降り。
棪堂が、こちらへ歩を進めた。
「俺と付き合え」
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