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はじめに
執着騎士×甘え王子 のBL作品となっておりますっ。
苦手な方はブラウザバックをお願いします。
エロシーンはありません(第一話)が、軽度の触れ合いはあります。苦手でない方だけどうぞ。
それでは。
第一章
「ウィリアム殿下、アルベール殿下からお手紙が届きましたよ」
ウィリアム・リューア・ロズヴェルト。ウェルナリア王国の第三王子で来月で十七になる。
母親譲りの整った顔立ちは姫を連想させるほど美しい。透き通るような白い肌に瑠璃紺の艶やかな髪。線が細く、ほかの兄たちよりも儚い印象だ。
それ故か、巷では『バラの王子』と呼ばれているらしい。
ウィリアムが受け取った手紙に目を通す。伏せがちの瞳は長いまつげに縁どられ、瞳に影を落としていた。
「……はぁ。また縁談…。アルベール兄上は何故出張をするたびに婚約話を持ってくるんだ。もう、うんざりだ……」
「おやおや、ウィリアム殿下、お口が乱れておりますよ?それに、縁談はアルベール殿下も心配してのことです」
ルイ、もといルドヴィクが殊更丁寧な口調で窘める。するとウィリアムはわかりやすく顔をしかめながら返事をした。
「ルイ、普段通り普通に話して。ルイがそんな口調だとなんか気持ち悪い」
ウィリアムは自分がからかわれていたことをようやく理解し、むくれたように話す。
するとルドヴィクは顔を緩めて普段のラフな喋り方になった。
「あははっ酷いなぁ、リアム様。俺普段もこんな感じですよ?」
ルドヴィクがそう言うとウィリアムは眉根を寄せる。そして
「お前のそれがもうさっきと違うだろ」
ジトっとルドヴィクのほうを見て話す。今ので完全に不機嫌になってしまったようだ。ルドヴィクのほうをずっと見て目を離さない。
ルドヴィクは特に気を留めず、ウィリアムに話しかける。
「そういえば、この前書店に行って新しい本を買ってきたんですよね。リアム様、読みます?」
ルドヴィクはウィリアムの反応を軽く受け流し話をする。するとウィリアムは目を輝かせてうずうずとしだした。
「今回買ってきたのは魔術についての本です。リアム様、魔術得意だし、好きでしたよね?」
「い、いいから早く出せ」
読みたくてたまらないという風に近寄ってくる。ルドヴィクよりもいくらか背の低い彼は隣に並ぶとまるで兄弟のようだ。
ルドヴィクは慌てて離れる。近くなってしまったウィリアムとの距離をさりげなく開けると、コホンと咳ばらいをして口を開いた。
「リアム様、ちょっと待っててください。買ったままにしていて今、俺の部屋にあるので取ってきます」
「すぐに持って来いよ」
ルドヴィクはさっと扉の外へ出て、自分の部屋へ向かった。
(あぁ、リアム様、今日もかわいい!抱きしめたい!)
部屋の外に出ると平静を装っていたルドヴィクの表情が途端に崩れてしまう。不意に敵に襲われた時でさえ表情一つ変えないルドヴィクが、今は蕩けるような表情でスキップでもするのではないかと思うほど軽快な足音を立てていた。
ルドヴィク・エヴァンス。
頭脳明晰で一騎当千それに加え、端正な顔立ちをしており何をとっても優秀なウィリアムの専属騎士だ。剣術、武道、魔術…などできないことはほとんどない。貴婦人の間で人気が殺到しているが、ルドヴィクの本命はウィリアムである。
◆◇◆◇
ルドヴィクがウィリアムのもとへ戻る最中、廊下を歩いているとふと遠くから影が近づいてくる。ルドヴィクは警戒しつつ歩みを進めると徐々に顔が鮮明になって見えてくる。
「ああ、ルドヴィク殿ではないか」
身長が高く、程よく筋肉のついた男――第一王子のローレンスが話しかけてくる。
一見すると穏やかな笑顔だがその瞳はまるで品定めでもするかのように鋭くなっていた。
普段ウィリアムに対して何かと冷たい彼をルドヴィクは警戒していた。いつも鋭くウィリアムを見つめ、何も言わずに去っていく彼の心境が読めない。
ルドヴィクは警戒を表立って出さないよう、穏やかにニコリとほほ笑む。
「ローレンス殿下、こんにちは。本日は、どうされたのですか?」
先ほどまでウィリアムに向けていた穏やかな雰囲気とは打って変わってひんやりとした空気が辺りに漂う。ルドヴィクの冷たさを孕んだ恐ろしく澄んだ声が辺りに響いた。
「ああ、そういえばウィリアムに伝えたい要件があってな、それで参ったんだ」
「要件?なんでしょう。私が承ります」
ルドヴィクは怪訝な声を隠さず応答する。王宮の中だと言えど王族が側近を連れずに場内を歩くのは珍しい。それこそ、側近は部屋に入るまで……否、部屋に入ってからも王族の安否を確認をしなければならないのだ。
「そ、そうだな。今日アルベールが帰ってくるそうだ。だから、父上が夕食を一緒にどうか、と。」
動揺したのか明らかに挙動不審になっているローレンスに警戒心が深まる。それを伝えるのならば側近間のコミュニケーションでも十分成り立つはずだ。わざわざローレンスが伝えに来る必要はない。
(大方、ウィリアムの動向を探るためといったところか)
「承知いたしました。お伝えしておきます。では、どうぞお引き取りください」
ルドヴィクは微笑みを崩さず、優雅に微笑んで見せた。凄みのあるルドヴィクに堪えかねたのかローレンスはそそくさと返ってしまった。
ルドヴィクは速くウィリアムのところへ戻りたいと言わんばかりに速足で戻る。ただ、嬉しそうな顔ではなくローレンスへの動向を探るため、無表情に考え込んでいた。
――ガチャ
「ただいま戻りました」
部屋のドアを開けるとウィリアムが少し心配そうにルドヴィクを覗き込んでくる。ルドヴィクは上目づかいで見つめてくる主人に尚もキュンとしていたが、悟られないようにさっといつもの笑顔を向けた。
「随分と遅かったようだけど、大丈夫だったか?」
「はい、問題ありませんでした。途中、ローレンス殿下にお会いしましたが……」
そういうとウィリアムは複雑そうに顔を歪める。ウィリアムは手厳しいローレンスが苦手なようでこの一週間でも数回会ったか会わなかったかくらいの頻度だ。
「……それで、何の用だったんだ?」
さすがは王子。ローレンスとこの後の予定のことについて話していたことはお見通しらしい。とても聡明である。
ルドヴィクはローレンスから伝えられたことを簡潔に話すと、ウィリアムの頬はにわかに薔薇色に色づいた。
「えっ、兄様が帰ってくるのか?」
目をキラキラさせてはしゃぐ。久しぶりに会えると知って相当嬉しいのだろう。実際、普段は『兄上』と呼ぶところが、『兄様』呼びになっている。
その姿にルドヴィクは内心少し嫌だと思ってしまう。気が付けば、ルドヴィクの口からは心の声が漏れ出ていた。
「俺といるのに、俺のこと考えてくれないんですか?」
とたんにウィリアムの顔は首まで真っ赤になる。口をパクパクと動かして硬直していた。相当驚いたのか、目を丸くしてルドヴィクを凝視している。
「リアム、様?」
ルドヴィクは恥ずかしさと困惑に声を震わせながらしゃべる。
するとウィリアムははっとしてカーテンの中へと逃げてしまった。
「す、すみません、リアム様。そんなつもりじゃ……っ」
ルドヴィクは心配を滲ませてカーテンに近づいた。
ウィリアムの影がピクリと動く。すると、か細い声でルドヴィクに言葉を返した。
「る、るい。ちゃん…とルイのことも、考えてるから。しんぱい、しないで……?」
カーテンの隙間から真っ赤に染まった顔が遠慮がちにこちらを覗いてくる。すると細い指がルドヴィクのジャケットをつまみ引いた。
「だ、大丈夫ですっ。ごめんなさい、困らせて。そういえば本、読みます?」
ルドヴィクは慌てて本を差し出すとウィリアムが本を受け取り、書見台に置く。そして――
「り、リアム様……っ⁉」
そして手の空いたルドヴィクの胸に飛び込んだ。ぎゅーっとウィリアムの胸板に頬を寄せて抱きしめる。
「ほ、ほら、考えてるから。大丈夫……」
恥ずかしすぎてパニックになっているのかウィリアムは素っ頓狂な声で話し、尚もずっと抱きしめてくる。
「は、はい。十分わかりましたから……。もう、離れませんか?」
ルドヴィクはどうにか震える声を押さえ、なだめるようにウィリアムに言った。
しかしウィリアムからは想定外の言葉が返ってくる。
「ルイが、抱きしめ返してくれなきゃ、やだ。僕ばっかり恥ずかしい」
かわいいおねだりにルドヴィクの心は跳ねる。そして恐る恐る抱きしめ返した。
――ぎゅっ
柔らかくて、暖かい。花のようないい匂いがルドヴィクの鼻をくすぐる。ルドヴィクの好きな匂いだ。
思わず髪に顔を近づけるとウィリアムの軟らかい髪が頬を撫でる。ルドヴィクが息をするたびに彼の髪が揺れ、いい匂いが漂ってくる。
「る、ルイ。もう、大丈夫だから。恥ずかしい」
ルドヴィクの腕の中でウィリアムは両手で顔を隠す。
「す、すみません」
ルドヴィクはそこでようやく自分がしていることを改めて自覚した。
ルドヴィクがバッとウィリアムから離れる。するとウィリアムは少し名残惜しそうな表情をし、こちらを見てくる。
「ルドヴィク、本ありがとう。さっそく読むよ」
ウィリアムはルドヴィクにお礼を述べてさっさと書見台に座ってしまった。
しかし、今のルドヴィクには動揺と後悔でその言葉が耳に入らない。
(……やってしまった。)
ルドヴィクはそれからウィリアムが本を読み終わるまで、ずっと思考がぐるぐると回ってまともにウィリアムを見ることができなかった。