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第2話:時空を超えた文通のルール


潮風が窓ガラスを揺らす午前。

アオイは、手紙が入っていたポストを、まるで聖なる箱であるかのように見つめていた。

昨日入れたはずの自分の手紙の横に、まるで瞬間移動でもしたかのように現れたナギからの返信

その紙は、アオイの書いた未来からの励ましを、確かに10年前の過去のナギに届けた証拠だった。

「どういう仕組みなの…?」

アオイはポストの構造を調べたが、ただの古びた鉄製の箱でしかない。

鍵は壊れ、投入口の蝶番も錆びついて動かない。しかし、この壊れたポストだけが、時空の窓になっているのは間違いない。

ナギからの返事を何度も読み返す。彼の文字はまだたどたどしいが、感謝と驚きで満ちていた。

アオイさんの「君は必ず笑っている」という言葉を読んで、涙が出ました。

この一文が、アオイの心を何よりも強く揺さぶった。

都会で夢を諦め、自分の無力さに打ちひしがれていたアオイにとって、誰かの心の支えになったという事実は、最高の癒しだった。

アオイは再びペンを執った。今度は、ただの励ましだけでなく、この文通の「ルール」を理解する必要があった。


ナギへ

君の返事が届いて、私もとても感動しています。本当にこのポストは、君と私を繋いでくれたんですね。

*ただ、一つだけ確認させて。私から手紙を出した後、君が返事を出すまでの間に、どれくらいの*時間が経っている?私の手紙が届いたのは、すぐにだった?

それと、君の人生を変えてしまうようなことは、教えてはいけない気がする。

*例えば、*「将来○○という株を買うと儲かるよ」*とか、*「来週、海猫軒の近くで起こる出来事」とかね。

*私たちは、*お互いの心だけを繋ぎましょう。

*未来の私は、10年前の君が*希望*を持って生きられるように。過去の君は、今の私が*孤独から立ち直れるように。

*これが、この*「時を越えるポスト」のルールだよ。約束できるかな?

君の描いた海の絵、本当にきれいだね。もっと色々な話を聞かせて。


未来より、アオイ


アオイは手紙をポストに入れ、蓋を閉めた。

そして、コーヒーの練習を始め、店の片付けに集中することで、ポストのことが頭から離れるように努めた。

しかし、夕方。

ガタッと、微かな音にアオイは顔を上げた。壊れたポストの取り出し口の蓋が、わずかに開いている

アオイは、呼吸を忘れるほど驚いた。

ポストを開けると、中にはまたしてもナギからの返信が入っていた。


アオイさんへ

*手紙のルール、わかりました。*心だけの文通、約束します。

*それに、アオイさんの手紙は、僕がポストに入れた後、*次の日にはもう届いていました。

どうしてこんなことが起こるのか、すごく不思議だけど、とにかくアオイさんと話せるのが嬉しいです。

(中略)

僕は、絵を描くことしか得意なことがありません。

新しい学校で、僕の絵を誰も笑わなかったら、どうしよう。

*アオイさんの言うように、僕は本当に*未来で笑っていられますか?

町を離れるまで、あと一週間です。


ナギ


アオイは、ナギの返信から、このポストの驚くべき仕組みを理解した。

1.アオイ(未来)が手紙を入れる。

2.ナギ(過去)の「次の日」に手紙が届く。

3.ナギ(過去)が手紙を入れ、アオイ(未来)の「次の日」に届く。

つまり、彼らの文通は、未来のアオイ過去のナギの時間軸を、毎日同期させているのだ。

「ナギ君はあと一週間でこの町を出て行ってしまう。私に残された時間は、たったの七通…」

アオイは、ナギが新しい土地で希望を持って生きていくために、

この一週間で、彼の心に確固たる勇気を植え付けなければならないと強く決意した。

そして、アオイが最も気になったのは、

ナギが「絵を描くことしか得意なことがない」と書いていたこと、

そして「新しい学校で、僕の絵を誰も笑わなかったらどうしよう」という根深い不安だった。

「この子は、自分の存在価値を、誰かに認められるかどうかだけに求めているんだ…」

アオイは、都会でクリエイティブな仕事に就きながら、

他人の評価ばかりを気にして疲弊し、結局夢を諦めた過去の自分を、ナギに重ねて見た。

(彼の才能は、私が知っている。だって、10年後の今、彼の絵とそっくりの海を私が見ているんだから)

アオイは、自分の孤独を癒してくれたナギのために、

今度は自分のすべてをかけて、彼の才能を信じさせる手紙を書こうと決めた。

この時を越えた文通は、もう単なる奇跡ではなく、10年前の孤独な少年を救うための使命へと変わっていた。

ナギの旅立ちまで、残り6日。

時を越えるポスト

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