25時。
自分にしては遅い時間まで起きてい たなと考えながらベッドルームへ行こうとした時、ドアフォンが鳴った。
(…こんな時間に?)
モニターをみると、フードを被った元貴が映ってる。
「……待ってて 。」
ドアを開けると元貴は何も言わず、うつむいていた。
「…入ったら。」
「いいの…?」
「丁度起きてたし。」
そう言って中に入るように促すと、かぶっていたフードをはずす。
ライトに照らされた顔は青白くて、生気が感じられなかった。
リビングへ向かおうと歩き出したところで、背中に元貴の体が触れるのが分かって思わず足が止まる。
「…どうしたの、元貴。」
「……。」
答える代わりに、背中から胸に回された腕に力が込められて、元貴の体温と一緒に鼓動まで伝わって来そうだった。
「良く…ここに来る気になったね。
また、この前と同じ事になるかもよ。」
そういうとピクリと元貴の手が震えるのが分かる。
元貴と無理矢理に関係を持ったあの日から。
予想に反して何事もなかったかのようにお互い日々を過ごしてた。
スタジオでもいつも通りに話して、笑う。
誰も俺たちの事に気が付かない。
だって何も変わらない。
どうしたってそれぞれの想いは通じないし、バンドも続けて行かなくてはならないのだから。
なら、いつも通りに。
お互いにそれが暗黙の了解となっていた。
そう思っていた矢先のこと。
「好きな人がいてね、付き合う事になったから。」
「2人にも報告ね」とはにかむ若井から話しをされたのは半月ほど前の事だ。
言われた瞬間に元貴の顔色が変わるのが分かった。“血の気が引く”とはまさにあの事だろう。
すぐにマネージャーも含めて、週刊誌やファンに撮られないようにとゴシップ対策の意識共有が行われた。
元貴は平静を装って「週刊誌気をつけてよね」なんて言ってたけれど。
シャツの影で爪痕が付くほど握られた手に 気付いたのは僕くらいだったろう。
そして今日、元貴は自分から僕のところに来た。
(来るってわかってたよ。)
だって、僕しか元貴の気持ちを知る人はいないんだからさ。
「…一人で、居られなくなって、でも…」
それ以上、震えて言葉が続かない元貴の代わりに言ってやる。
「『でも、』若井はもう呼べない。から? 」
「……。」
元貴は何も答えない。
でも、それが答えだよね。
振り返って元貴の腕を取る。
「こっち。…何か淹れるよ。」
「え…」
元貴が僕の顔を見上げたけれど、何だか目が合わせられなくて。
腕を引きながらリビングに向かうと、元貴をソファに座らせた。
「ちょっと待ってて。」
「…うん」
キッチンへ向かってポットにスイッチを入れてから、ゆらゆらと揺れる水面を眺める。
元貴がどうして来たかは分かってる。
若井がいない寂しさを、埋めに来たんだろう。
僕は…どうしたい?
コトコトと水が沸騰する音がしても、まだ答えは出なかった。
.
私、どうしたいの…
読者の方、どっち?
➡️①イジワル涼架のまま
➡️②優しい涼架になっちゃう
コメント
6件
意地悪なりょうちゃんも見てみたいけど、優しい方めっちゃ気になります!!!
①も捨て難いですけど、大森さんが可哀想なので、②の藤澤さんで癒して欲しいです!
断然②!です✨ よろしくお願いします🙇