テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
61
「現時点で美並がそう言うのもわかるよ。
だけどね、今回俺に知らせがきたのはたまたまだったんだ。
彼女のお産が難産で生きるか死ぬかの状態になって、彼女のお母さんの
一存で最後に一目会ってやってほしいって連絡がはいってね、それで妊娠・
出産とこれまでの彼女の心情を知らされることになったわけで……。
本当は俺に妊娠の事も知らさず、もちろん彼女のご両親にも説明し説得した上で
出産して、自分と家族だけで育てようと決めていたらしいんだ」
「そんなドラマのような展開、ほんとなのかな?
とてもじゃないけど私には信じられないわ。
ピルだって最初から飲んでなかったんじゃない?」
「俺もそれを最初に疑った。
そう、君が言うように嵌められたって思わなくもなかった。
ただ、難産のあと、生還した彼女の話によるとピルを使うのが初めてで、
使い方を間違ってしまったって言ってた」
「そんな大事な問題を間違えて……って、どう考えてもおかしいんじゃない?
それなのにどうしてあなたはそうすんなりと嵌められたわけじゃないと思えるの?
彼女もあなたも、ふたりともおかしいわよ」
自分は彼女から嵌められたわけではない。
彼女は自分と子供への責任を感じる必要はないと言っている。
認知も求めないのでこの先一生付き合っている女性に迷惑をかける
つもりはないから、その人と一緒になってほしいとも言われた。
だけど、熟考した上で美並には申し訳ないけれど、自分は里穂と結婚をして
子供の父親として生きることを選びたいと思うと目の前の彼が言う。
なんて酷い人たちなの。
酷いっ、私の夢をぶち壊しにした人たち。
ふふっ、私が本田くんの意志を汲んで結婚を諦めれば、里穂という女も
本田くんも子供もいて、みんな幸せで──
私だけが我慢すればいいってことなのね。
そうすれば、全てがまぁ~るく収まるっていう寸法か。
私は本田くんに、あちらにするか私にするかという天秤にさえかけて
もらえなかったのだ。
いうほど、彼に愛されてなかったことを知る。
それほど彼から愛されてなかったということに思いが至ったら
ストンと何かが身の内で落ちていった。
『愛ってなんなのかな?
愛の尺度ってなんなのかな?
一度は捨てたはずの気持ちを再度拾えるってどういうことなのかな?
結婚したいとプロポーズした気持ちを簡単に捨てられるってどういうことなのかな?』
私には一生かけてもわからない答えが、そこに横たわっていた。
「本田くん、お幸せに!」
私は好いて好かれて結婚まで決めた相手を罵倒することはできなかったし、
そういう人間にはなりたくなかった。
私は自分の目の前でずっと膝をつき、経緯を説明していた彼を残し、ひと言言葉をかけ──
なんとか身体と気持ちを立て直し、部屋から出た。
◇ ◇ ◇ ◇
木の芽月、まだまだ寒さの残る静謐な空気の中──
美並は、手にしたオフホワイトのボアジャケットを羽織り、駅までの道を踏みしめた。
✿山倉美並が幸せを掴むまでの道のりは、まだまだ先のことであった✿
―――――――――――――――――――――――
❖木の芽月\=2月
AZ

91
277
ユナ語尾にゃん&関係者再募集中
97
コメント
1件
うわあああ…美並ちゃん、つらすぎるよ😭💔 「天秤にさえかけてもらえなかった」ってとこ、胸がぎゅってなった。 自分が我慢すれば丸く収まるって考えちゃうの、優しすぎて泣ける…。 「愛ってなんなのかな?」の問いかけ、重すぎてずっと残るよ。 最後に「お幸せに!」って言えた美並ちゃん、強くて美しいよ…✨ 次、美並ちゃんが幸せ掴むとこ絶対見たい!!🌸