テラーノベル
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お久しぶりです ぺろです。
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古い時計台の下で、私は彼と待ち合わせをしていた。
彼はいつも時間に正確で、遅れたことは一度もなかった。
今日も同じだった。定刻の午後3時、塔の大きな針がカチリと動く音と共に、彼は私の目の前に現れた。いつもと変わらない、優しい笑顔で。
「待たせてごめん」
彼の言葉に、私は首を横に振った。
「ううん、大丈夫。私も今来たばかりだから」
私たちは特に話すこともなく、並んで歩き始めた。空はどこまでも高く、遠くから聞こえる鐘の音が、私たちの間の静けさを埋めていた。
彼の右腕には、見慣れない腕時計がはめられていた。それを見た瞬間、私は胸の奥が冷たくなるのを感じた。それは、私が彼に贈ったはずの、壊れて動かなくなった腕時計だった。
彼の腕の中で、その時計は滑らかに、正確な時間を刻んでいた。
私は気づいた。彼がいつも時間に正確なのは、この時計のおかげなのだと。
そして、彼が「待たせてごめん」と謝った本当の理由にも。
「止まらない時計」
作・ぺろ
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