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12 - “ラストボールに続く、長い春”

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2025年08月08日

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初めて  夢小説に挑戦しました。


✄———————–‐✄


卒業式が終わった後の、誰もいなくなった校舎。

窓から差し込む春の光だけが、静かな教室を満たしていた。


机の上には、忘れ去られたように教科書が一冊だけ置かれている。

若利は、自分の席から、ただじっと窓の外を眺めていた。


そこには、桜並木が、静かに風に揺れていた。

私は、教卓の隣に立ち、若利の横顔をじっと見つめる。


彼の隣で見た、この三年間の景色が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。

体育館の熱気も、グラウンドの土の匂いも、この教室で過ごした何気ない時間も、すべてが幻のように思えた。


彼の視線の先をたどると、そこには見慣れた体育館の屋根が見えた。

若利は、少しだけ視線を私へ向けた。

その瞳は、いつものように力強く、揺るがない。

だが、その奥に、ほんのわずかな寂しさが滲んでいるように感じられた。


彼は、私の手を、そっと握った。

掌から伝わる、分厚い、温かい手。

高校生活の全てをバレーボールに捧げてきた、その手だ。


その温かさに触れ、私の心は、この時間が永遠に続いてほしいと願った。

若利は何も言わない。私も何も言わない。

ただ、二人の間に流れる静かな時間が、全てを語っていた。


私たちは、言葉を必要としない。

この、言葉にならない想いこそが、私たちの絆そのものだった。

やがて、若利は立ち上がり、私を促すように、教室の扉へと向かった。

開け放たれた扉から、温かい春の風が吹き込んでくる。


その風に、二人で同じ匂いを感じた気がした。

最後に、若利は私と向き合い、ただ一度、静かに頷いた。

そして、私たちは二人、この校舎を後にした。

夢のような日々は、今、静かに終わりを告げた。

だが、この温もりだけは、永遠に私の中に残り続けるだろう。


「ラストボールに続く 長い春」

作・ぺろ


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