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いつも通りワイヤレスイヤホンで音楽を聴きながら登校する真風菜(まふな)。
「君は突然現れた。雲1つない夜、歩いてたら一筋流れる星が直撃したような衝撃」
耳元で流れる「月光-Gecko-」さんの曲の歌詞が耳に残る。
突然現れた。…衝撃
思い浮かべたのは時守(ときもり)が転校してきた最初のこと。
…
「皆さんに紹介したい人がいます」
「お!奥さんですか!」
教室がクスクス騒めく。
「違うから。じゃ、入って」
と渋谷先生が扉を開ける。入ってくる足。スラッっとした脚。綺麗な手。
黄葉ノ宮高校のブレザーをまとっている。綺麗な唇にスラッっと通った鼻。
鼻筋の中央には絆創膏。大きな目に縦長の瞳。への字の曲がった眉。
綺麗な白髪。左側の髪を黒いピンで留めている。真風菜(まふな)は思った。
どっかで見たことある顔
「今年度からこの黄葉ノ宮高校に転校してきて私たちのクラスメイトとなります」
「平野(への)です。よろしくお願いします。あ、このプリント廊下まで来たんですけど」
平野(への)はへのへのもへじの描かれたプリントを自分の胸の辺りに持ってくる。
「あ、それ私の…で…す…」
と言うのと同時に真風菜(まふな)は思った。
へのへのもへじ?
どこかで見たかも?というのはへのへのもへじだった。軽く腰を上げた真風菜(まふな)の元に来て
「はい」
と平野(への)が机にプリントを置いてくれた。
…
曲が変わる。また耳元でお気に入りの曲が流れる。
「あなたはまるで私の好きな少女マンガの王子様」
耳元で流れる「ToTes.」の可愛らしい女性ボーカルの声。そしてやはりその曲の歌詞が耳に残る。
…
私は未だに自分のタイプどころか、そもそもタイプってことすらわからんしなぁ~
と思いながらプリントの裏に大きく「へのへのもへじ」を描いた。
「ふっ」
鼻で笑う。
私のタイプはこれです~なんて
…
真風菜(まふな)は思った。
どっかで見たことある顔
「今年度からこの黄葉ノ宮高校に転校してきて私たちのクラスメイトとなります」
「平野(への)です。よろしくお願いします。あ、このプリント廊下まで来たんですけど」
平野(への)はへのへのもへじの描かれたプリントを自分の胸の辺りに持ってくる。
「あ、それ私の…で…す…」
と言うのと同時に真風菜(まふな)は思った。
へのへのもへじ?
どこかで見たかも?というのはへのへのもへじだった。
…
「いやいやいやいや」
頭を左右に振る。恋愛ソングばかりが流れる。
その中の歌詞に自分の感情、状況に似たものがあると自然とリンクさせてしまう。
でもたしかに、私が書いたへのへのもへじが飛び出してきたような感じだよなぁ〜平野(への)くんって
と思っていると
「大鍵芸常(タケゲツ)さんおはよ」
ワイヤレスイヤホンで耳元から流れる音楽の奥から挨拶の言葉が聞こえ
「はい!」
とビックリする真風菜(まふな)。ワイヤレスイヤホンからは
「朝、君のおはようが聞きたくて、学校にも行きたいって思えた」
という「WESICK」の曲の歌詞が耳に届く。耳元にその歌詞が残っている中
ワイヤレスイヤホンを取り、声の方を向くと
「お、はよ」
とビックリしている時守がいた。
「お…平野(への)くん、お、おはよ」
頭の中にあの歌詞たちが駆け巡る。
「君は突然現れた。雲1つない夜、歩いてたら一筋流れる星が直撃したような衝撃」
「あなたはまるで私の好きな少女マンガの王子様」
「朝、君のおはようが聞きたくて、学校にも行きたいって思えた」
そんな歌詞に謎に照れて右前腕で口元を隠す真風菜(まふな)。
「ごめんね。なんか驚かせてばっかで」
「あ、いや、全然全然。平野(への)くんはなにも悪くない」
「ふっ」
時守が笑う。
「前もそれ言ってたよね」
「あ、…そうだった?」
「うん。口癖?」
「いや、そんな変な口癖はない…はず」
「自信はないのね」
「まあぁ〜…。自分の口癖ってわかんなくない?」
「たしかに。言われてみれば」
いつの間にか謎の照れも頭の中を駆け巡る歌詞もいなくなり、普通に時守と喋れていた真風菜(まふな)。
「綺麗な白だよね」
真風菜が自分の髪を触りながら、時守の髪に視線をやる。
「あぁ。ありがと」
「地毛?」
「そうなんだよね」
「マジで!?」
「冗談」
「なんだ…ビックリした。てことは染めてるってことだよね?当たり前だけど」
「そうなるね」
「どう…やってんの?」
「限界までブリーチして、黄色を消すために紫色のカラー剤と入れてるって感じ」
「へぇ〜。めっちゃ大変じゃん」
「めっちゃ大変…なんだろうけど、もう慣れたかな」
「週末?」
「週末?空いてるよ?」
「へ?」
変な声が出て立ち止まる真風菜。時守も立ち止まる。
「ん?」
「なんの話?」
「え。…デートのお誘い?とか?」
ポカーンとする真風菜。
「嘘嘘。冗談。…で本当はなんだったの?」
「な、冗談か」
変に体がぽっぽっする真風菜。ワイシャツの襟首の部分を掴みバサバサ風を送り込む。まるで夏の光景である。
「いや、そんな大変なの、週末にしてんのかなって」
「あぁ。そーゆーことか。ごめんごめん。
当たり前すぎて、カラーを週末にって考えがなかった。ううん。基本的に毎日カラーはしてる」
「毎日!?」
「うん。ムラシャンってわかる?」
「なんか聞いたことはある。紫のシャンプー?」
「そうそう。さっき言ったみたいにブリーチして金髪にして
そこから黄色を打ち消すために紫色入れるんだけど
素人では難しいっていうのと、あと白を維持するためのアイテムかな」
「へぇ〜。なるほど。それで毎日か」
「そそ。ね?大変じゃないでしょ?」
「たしかに」
「あ。そうだ」
時守が立ち止まり、スマホを取り出す。真風菜(まふな)も立ち止まる。
「LIME教えてくれない?」
とスマホを軽く振る。
「あ、うん。いいよ」
真風菜もスマホを出す。真風菜の背後から自転車が近づく。
それを見た時守が真風菜の肩を抱き寄せるようにする。自転車に乗った人が軽く頭を下げて通り過ぎていった。
あまりに突然の出来事にドキッっとし、放心とする。その様子を見て
「あ、またビックリさせちゃった?ごめんね」
と微笑みつつも申し訳ない表情もしながら謝る時守。
「あ、ううん。全然全然。逆にありがと」
「ど、ういたしまして?」
端によって2人はLIMEを交換した。
「大鍵芸常(タケゲツ)さんも髪、染めてるよね?」
「あ、うん。マロンブラウン?だったかな?」
「おぉ〜。似合ってるね」
さらっと言う時守。ドキッっとする真風菜(まふな)。
「あ、ありがとう…」
「自分で染めてるの?」
「ううん。美容院で染めてもらってる」
「あ、そうなんだ。…高いでしょ」
「…高いね」
「だよね」
なんて話をしながら2人で登校した。その2人の後ろでニヤニヤしている影が2人…。
下駄箱で上履きに履き替えていると
「「どーーん!!」」
まるで兄妹、姉弟のように声を揃えて真風菜、時守に軽く体当たりする2人。
「おぉ。空楽王(ソラオ)」
「おぉ〜。子那恋(しなこ)〜」
「真風菜ぁ〜おはぁ〜」
「トッキーおっはー!」
空楽王と子那恋だった。
「お2人さん、仲良しですなぁ〜」
「ですなぁ〜」
ニマニマ顔が隠し切れていない2人。
「それ言うならそっちもね」
「たしかにね」
大ブーメランが返ってきて
「「ぐあっ!」」
ぶっ刺さる2人。
「真風菜は一州茗楽(イスミラ)と喋ったことあった?」
「あ、うん。最初の、あの」
「席替えしたときね」
「そうそう。よく覚えてたね」
「そりゃー、こんな可愛い人と話したことは忘れません?」
「チャラい」
「チャラすぎる」
「チャラいね」
「トッキーまで?」
「ホストかと思った」
「将来…なろうかな。…ほら…顔もさ?この通り…イケメンだし」
と自分のイケメンさに浸っていた空楽王。
「平野(への)くんのその髪さー」
「染めてるのかでしょ」
「おぉ。よくわかったね真風菜。…あ、もしかしてもう聞いてた?」
「もう聞いた」
「聞かれた」
「おぉ〜」
そんな空楽王を置いて教室へ向かっていた。
「おいおいおぉ〜い。置いてくなぁ〜」
空楽王も3人の後を追って4人で仲良く教室へ向かった。
「おはよー」
「おはよー」
「おはー」
「YEET!!」
「YEET!!」
「いいねぇ〜」
それぞれがそれぞれに朝の挨拶をして席に着く。
「鏡ちゃんは今日はなんのお勉強?保健体育?」
「小学生かな?」
「大人の…保健体育」
「脳みそが小学生だわ」
「小学生に失礼じゃない?たぶん今の小学生もっと賢いよ」
子那恋(しなこ)が言う。
「あぁ。たしかに。音多木野(オトキノ)さんの言う通りだわ」
腕を組み、大きく頷く礼王(れお)。
「おい!それオレに失礼!てか小学生にも個性あるから。エロいことしか考えてない小学生だっているし」
そんなバカバカしい話をしていると担任の渋谷先生が入ってきて朝のホームルームが始まる。
そしてホームルームが終わり、1時間目の授業の準備。1時間目は世界史。
みんな世界史の教科書を机の上に置いている。
「古代ローマだって。テルマエ○マエじゃん」
よほど授業がダルいのか、左手をグーっと伸ばし
その左腕を枕にして机に寝ながら、世界史の教科書をペラペラ捲る空楽王。
「これがわたし…!?こんなイケメンが!?」
「はいはいイケメンイケメン」
と笑う礼王。
「でも、それくらい濃い顔の人は写真ありそうだよね」
子那恋(しなこ)もペラペラ教科書を捲りながら言う。
それの様子を見ながら一緒に笑う時守。その横顔を見る真風菜(まふな)。
ううぅ〜ん。…何度見てもへのへのもへじ…。
と時守の横顔を見て思う真風菜。もうこう思うのは何度目だろうか。
時守が転校してきたときにも思ったし、家に帰ってからも思った。そして今も思っている。
気づけばへのへのもへじと時守のことをずっと考えている真風菜。
世界史の授業が始まって、世界史の授業を聞いていたものの
端々でへのへのもへじと時守に意識を持っていかれる。
それは1時間目の世界史に限った話ではなかった。2時間目も3時間目も4時間目もそうだった。
「やっとお昼じゃー」
空楽王(ソラオ)が思い切り伸びをする。
「じゃー華音っちー。購買へ行こうぞ?」
変な口調の子那恋(しなこ)。
「う、うん。変な口調の子那恋」
「そーかなー?」
「じゃ、オレらも購買行こうか。時守」
「だね」
礼王と時守も購買へ向かう。子那恋と空楽王がウインクをしてなにか合図をした。
そして子那恋と華音、礼王と時守は購買へと向かった。
「ねえねえ」
子那恋(しなこ)が礼王と時守に話しかける。
「ん?どうかしました?音多木野(オトキノ)さん」
「あのさ、平野(への)くんと六蓋守(ムコウモリ)くんと須木弁(スギべ)くん
土曜日空いてる?」
「土曜日?オレは空いてるけど」
「オレも空いてるけど」
「おぉ〜」
「鏡はわかんないな。…空楽王(ソラオ)はいいの?」
「あぁ。一州茗楽(イスミラ)はずっと暇だから大丈夫。永遠に暇だから」
「っ…しょん!」
大きなくしゃみをする空楽王。
「失礼失礼。灰水部(ハスベ)さん、大鍵芸常(タケゲツ)さん」
と空楽王が優佳絵(ゆかえ)と真風菜(まふな)に話しかける。
「ん?」
「どうしたの?一州茗楽(イスミラ)くん」
「土曜日一緒に遊びません?」
「土曜?」
「一緒に?」
「はい!」
「土曜って」
優佳絵が真風菜を見る。
「うん。優佳絵と子那恋(しなこ)と華音(はなお)で遊びに行く日ー」
「音多木野(オトキノ)から聞いております」
なぜか執事のような口調になる空楽王。
「なぜ?」
「いやですね?」
「いやぁ〜イチゴジャムパン〜。華音はあんこパン。あんこギッシリだねぇ〜」
「ね」
「あんこ好きなん?」
「好き」
「こしあん派?つぶあん派?」
「お。顎殺人が起きるよ?」
「なんだそれ」
笑う子那恋(しなこ)。
「平野(への)くんは焼き鳥パンにしたんだ?」
「うん。前回食べてハマっちゃったみたい」
「美味しいよねぇ〜。私も好き」
と子那恋(しなこ)と時守が話す一方で
「顎殺人ってあれでしょ?」
と礼王(れお)が華音に話しかける。
「え、あぁ。え、六蓋守(ムコウモリ)くん知ってるの?」
「うん。友と友のゲーム会ってチャンネル知ってる?」
「MyPipe?」
「そうそう」
「ごめん。知らない…」
「全然謝ることじゃないよ!MyPierなんて腐るくらいいるから知らなくて当然だよ」
「腐るくらい」
思わず笑う華音。
「そうそう。腐るくらい。で、まあ、その友と友のゲーム会っていうチャンネルの友さんが
そのゲーム、ソロで実況してた」
「そうなんだね。ま、私もゲーム実況で見たんだけどね」
「なんてチャンネル?」
「アプさんって人なんだけど」
「アプさん」
スマホを出した立ち止まる。華音も立ち止まる。
「アプさんアプさん…。お、このカタカナのアプっての?」
礼王が華音にスマホのMyPipeの検索欄を見せる。
「そうそう」
タップする。
「え。スゴッ。チャンネル登録者数130万人越えてるじゃん」
「そうなんだよ」
「見てみよ」
登録ボタンをタップする礼王(れお)。
「今日早速見てみる」
メガネ越しだが、爽やかで恐らく学年屈指のイケメンの笑顔。
「あ、うん」
華音もタジタジである。
「LIME教えて?」
「あ、うん」
礼王と華音はLIMEを交換した。子那恋(しなこ)と時守は2人で話していて気づかなかったが
「ね?華音?」
と話を華音に振ったところで、華音も礼王いないことに気づき
「おいぃ〜。2人でこそこそなにしてんだよぉ〜」
と走って華音にタックルをかました。
「こそこそもなにもしてないよ!」
慌てふためく華音。
「焦っちゃってぇ〜。このこのぉ〜」
肘でツンツンする子那恋。
「なにしてたの?」
時守も礼王(れお)に聞く。
「ん?ニ宅寺(にたくじ)さんのおすすめゲーム実況チャンネルを教えてもらった」
ニカーっと笑顔を見せる礼王。その笑顔を見て
「この学年、いや、もしかしたら学校1かもしれないイケメン
六蓋守(ムコウモリ)きゅんとお近づきになるとは華音も隅に置けないのぉ〜」
と華音に小声で言う子那恋(しなこ)。
「だから!そんなんじゃないって!」
そんな大声でもないけど、強調して言う華音(はなお)。
「どうかした?ニ宅寺(にたくじ)さん」
「ううん。なんでもない」
「じゃ、教室帰ろっか」
「だねぇ〜」
そんなこんなで仲良く4人で教室に帰った。
「たっだいまー!」
「お。おかえり」
「ただいまー」
「おっかりー!YEET!!」
「ハマってんね、空楽王(ソラオ)。YEET!!」
「なんか語感がいいよね。言いたくなる英語」
「気に入ってくれてなにより」
「んじゃ。いただきまーす!」
「いただきます」
女子陣は女子陣、男子陣は男子陣でお昼ご飯を食べた。
お昼休み、女子陣は体育館へ、男子陣は教室でスマホをいじりながら駄弁っていた。
「優佳絵(ゆかえ)!パース!」
優佳絵がバスケットボールを子那恋(しなこ)にパスする。
子那恋がゴールに向かってボールをシュート。リングをクルンと回って床に落ちて跳ねた。
「あぁ。リングに嫌われた」
「あぁん!こんな可愛い子那恋ちゃんのゴールを嫌うなんて」
優佳絵がボールを拾って、ドリブルしながら歩き、子那恋の横に立って、軽く投げた。
軽く投げたとは言ったが、シュートフォームはお手本のように綺麗なものだった。
そしてそのシュートも、まるでお手本のような弧を描いて、ザボッ。リングの下のネットの音も
まるでサウンドエフェクトのような、すべてが綺麗なシュートだった。床に落ちて跳ねる。
優佳絵(ゆかえ)は無言で子那恋(しなこ)を見る。
「なんですかー?ほんとーの美人はゴールに嫌われないとでも言うんですかー?」
「なんも言ってないけど」
「顔が言ってましたー」
「仲良いね、あの2人」
体育館のゴール側の壁際に座って話す真風菜と華音。
「仲良いね」
と話す一方。教室では
「お。たーりお熱愛疑惑だって」
「空楽王(ソラオ)そーゆーの興味あんだ?」
「いや?まあ、人並みに?ただただポツッターで回ってたからさ。トレンドにも入ってるし」
「へぇ〜。あ。あのSuperstar、契約更新したんだ。良かった良かった」
相変わらず礼王はプロレス情報サイトにてプロレスの最新情報のチェックをしていた。
「equally:均等に。feed:与える。育てる。deal:〜を扱う。分配する」
鏡は鏡で相変わらず勉強していた。英単語の勉強。
「S○X:気持ち良い筋トレ」
空楽王(ソラオ)が入ってくる。
「そんなん小学生6年生の英単語だろ」
「マジリアルにさー。英語厳いわぁ〜。英単語に加えて文法もあるじゃん?」
「まあ、たしかにムズいよな」
「トッキーは?苦手科目とかある?」
スマホをいじっていた時守は手を止め、視線を上にして考える。
「ううぅ〜ん。…全部?」
「おぉ!仲間!」
空楽王がこの上なく嬉しそうである。
「空楽王よりはマシでしょ」
「ひどなーい?鏡たんひどなーい?」
「なんで時折ギャル出てくるん」
「姉ちゃんが現役のギャルだから」
「あぁ。言ってたな。でも現役ならもっと現役らしいギャル感な気ぃするけど」
「現役バリバリっしょー。ちょべリグー」
「わざとやってんだろ」
と笑う礼王。それを見て笑う時守。静かに笑う鏡。
「そうだ。トッキー」
「ん?」
「土曜日の話聞いた?」
「あぁ、音多木野(オトキノ)さんから聞いたよ?」
「そうなんです。土曜日!女子4人とオレたち男子4人で遊びに行くことになりました!拍手!」
パチパチ…パチパチパチ…と空楽王がめちゃくちゃ拍手をして
それを見て、礼王(れお)、時守、鏡と徐々に拍手が増えていった。
「あのクラス。いや、学年。いや!学校1美人でスタイルの良いと言われている
灰水部(ハスベ)さんの私服が拝めます!」
「そこなんだ」
と笑う礼王。そんなこんなでお昼休みも終わり、5時間目準備へ。
5時間目も真風菜(まふな)はへのへのもへじと時守のことが頭の片隅にありながら
授業を受けていた。すると制服のジャケットのポケットに入れていたスマホが振動する。
そーっとポケットからスマホを取り出し、机の教科書などを入れるところの陰でスマホの画面をつける。
すると時守からのLIMEの通知があった。つい、ばっ!っと時守のほうを見てしまう真風菜。
しかし時守は前を向いて、真面目に授業を受けている風。
しかし、メッセージが来ているので、真面目に授業は受けていない。
今一度時守からのメッセージを確認するため、画面をつけた。
時守「土曜日の話聞いた?」
あぁ。昼、一州茗楽(イスミラ)くんが言ってたやつか
そう思い、時守からの通知をタップし、時守とのトーク画面に入る。
今朝LIMEを交換して、最初に送り合ったスタンプと
先程送られてきた時守からのメッセージだけのトーク画面。
新学年になり、新しい出会いがあるのが当たり前のこの時期。
なのでこんなトーク画面なんて珍しくもなかったが
なぜかこの、最初に送り合ったスタンプだけの画面から始めるのが好きだったりする。
まだスクロールなんてできない。今は1画面の上半分だが、時期に関係を深めていけば
スクロールしてもスクロールしても終わりの見えないトーク画面に育つ。
その始まりと考えると、ワクワクするのである。
真風菜「一州茗楽(イスミラ)くんから聞いたよ。みんなで遊びに行こうって」
送信ボタンをタップする。今度は時守のスマホが振動する。
制服のジャケットのポケットからスマホを取り出し画面をつける。
あぁ。空楽王から聞いたのか
真風菜から送られてきたメッセージを見ながらそう思う時守。メッセージを確認する時守の横顔を見る真風菜。
真風菜と同じように机の陰に隠れる教科書などを入れる部分で真風菜とのトーク画面に行く時守。
やっぱ、そこでスマホいじるよね。北海道でも共通なのね
と思う真風菜。と思っていると制服のジャケットのポケットが振動する。
すると時守は制服のジャケットのポケットにスマホをしまった。スマホを取り出し、画面をつける。
時守「そっか。空楽王から。なるほど。楽しみだね」
シロクマがワクワクしているスタンプが送られていた。
「かわい」
思わず声に出た。そこから授業が終わるまでLIMEをした。
真風菜「楽しみだね。シロクマ好きなの?」
猫が「?」を頭の上に浮かべているスタンプ。
時守「まあ、嫌いじゃないけど」
真風菜「じゃあなぜにシロクマ?」
時守「北海道って熊ってイメージない?んで、ほら。オレ髪白いからさ?
北海道にいたとき、友達から誕プレでこのスタンプ貰ったんだよね」
真風菜「なるほどね?」
時守「ちなみに靴下もシロクマだったりする」
というメッセージに真風菜が時守のほうを見ると
時守が制服のパンツの右脚のほうの太もものあたりを少し掴み、くっっと上げて靴下が見えるようにする。
するとくるぶしソックスの足の甲の部分に、腕を組んでドヤ顔をしているシロクマがいた。
真風菜「かわいw」
時守「ありがとwちなみにこれも誕プレ」
真風菜「そうなんだ。シロクマ尽くしだったんだねw」
時守「そうなんよw紙袋いっぱいにシロクマグッズ貰ったよw」
5時間目の授業が終わった。鏡の
「起立」
で立ち上がるとき、時守も真風菜のほうを、真風菜も時守のほうを見て
2人目が合い、なんだか少し照れ臭かったが、秘密を共有している感じというか
2人で授業をサボったような感じというか、そんな感覚を共有して2人で笑った。
この日は6時間目までということで、6時間目の授業が終わると
すぐに先生が来て帰りのホームルームが始まる。
何事もなく1日が終わった。
「んじゃー帰ろーぜー」
空楽王がほぼ空の軽いスクールバッグを振り回しながら時守や鏡、礼王に近寄る。
「あ。オレ今日ちょっと寄るとこあるわ」
鏡が立ち上がる。
「あ、そうなん?どこ?」
「本屋」
「本屋?なんかマンガでも買うん?」
「いや?参考書」
「サンコウショ?」
フランス語を喋られたような顔になる空楽王。
「空楽王の大好きな勉強の本だよ」
と礼王が言う。
「うえぇ〜…。なんでそんなん買うん?しかもまあまあ値段するっしょ」
「まあ。1000円以上はするかな」
「マンガ買おうぜぇ〜。バトルもの、異世界もの!」
「好きそぉ〜。名前も銀髪万事屋のマンガの作者さんみたいな名前だし」
「ギャーギャーギャーギャーやかましいな。実写化大失敗だコノヤロー」
「言ってやんなよ」
「ま。ということで。お先ー」
鏡がスクールバッグを肩にかけて机の間を縫って歩き出す。
「鏡ー!また明日ぁ!」
「鏡、またね」
「また明日」
あまり感情を表に出すのが苦手な鏡だが、3人に「またね」と言われ、口が綻ぶ。
その上がった口角を元に戻し、振り返って
「ま、また」
と言った。
「ぎこちな!照れてんの?ツンデレ?」
と空楽王(ソラオ)が駆け寄る。
「すぐ空楽王は茶化すー」
礼王が笑う。鏡が教室まで空楽王はついて歩いていた。
「んじゃ。オレらも帰るか」
礼王がリュックを片方の肩にだけかけて背負う。
「てか、鏡と途中まで一緒に帰ってもよかったよね」
時守のその一言に、教師内にはまだ生徒は十何人もいるのに
3人の間だけ音がなくなり「…」が宙に浮き出た。
「そうじゃん!」
空楽王が叫び、バッグを持って廊下へ走り出た。
「おーい。一州茗楽(イスミラ)ー。廊下は?」
「走らなーい」
軽く先生に注意される空楽王。
「注意されてる」
「ね」
2人も歩いて後を追いかける。その道中
「大鍵芸常(タケゲツ)さん、また明日ね」
と時守は真風菜に言う。
「あ。うん。また明日」
「ニ宅寺(にたくじ)さん。アプさん帰ったら見る。またLIMEするね」
と礼王は華音に言う。
「あ。うん。また明日」
「うん。また明日」
眩しいほどの礼王の笑顔。もちろん時守も子那恋(しなこ)、優佳絵(ゆかえ)、華音に
礼王も子那恋、優佳絵、真風菜に挨拶してから教室を出た。
「鏡ー!」
「うおっ。ビックリした」
ワイヤレスイヤホンを外す鏡。
「途中まで一緒にかーえろっ!」
後ろのほうを見ると下駄箱で靴に履き替えている時守と礼王が見えた。
「小学生みたいなテンション」
「童心を忘れない空楽王くんなのだよ」
そんなこんなで途中まで4人で帰ることとなった。
「んじゃ。私は部活だから」
「お。そっか」
優佳絵(ゆかえ)がスクールバッグとバスケの練習着が入った袋を持って立ち上がる。
「んじゃ、優佳絵また明日ー」
「また明日ね」
「また明日」
「ん。また明日ー」
と言いながら優佳絵が教室を出て行った。
「ま、じゃ、私らも帰りますか」
「だね」
「うん」
真風菜(まふな)、子那恋(しなこ)、華音もバッグを持って教室を出た。華音は今日もバイトということだった。
真風菜は家に帰り、部屋着に着替え、いつも通り家族と過ごし
部屋に戻り、寝る直前に時守とのトーク画面に入った。
授業中にしたやり取りがズラッっとある。少しスクールできた。
少しずつ育ってきていた。それが嬉しかった。
それは時守も同じだった。ほぼ同じときに時守も真風菜とのトーク画面に入り
「シロクマ、評判いいな」
とシロクマのスタンプを眺めながら呟いた。
「「土曜日楽しみだな」」
と呟いて眠りについた。