テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#近未来
鳳蓮荘
751
#憑依
成瀬りん
633
#家族
たつ
53
冬の夜。
一祟は薬局の袋を手に、静かな住宅街を急いでいた。
妹・琴音のための薬。
一刻も早く届けなければならない。
白い息を吐きながら足を進めていた、その時だった。
路地の奥から、四つの人影が現れる。
まるで待ち伏せしていたかのように。
一祟は立ち止まった。
「……お前が一祟か」
低い声が響く。
黒ずくめの男女。
その瞬間、一祟は悟った。
(この気配……)
ゆっくりと腰を落とす。
自然な動作で構えを取る。
「失礼ですが、どちら様でしょうか?」
礼儀正しい口調。
だが瞳は鋭い。
最前列に立つ男が前へ出る。
カイン。
その隣には巨漢のレオン。
妖艶な笑みを浮かべるセリーナ。
そして獣のような眼光を放つダリウス。
「アビス、ですか……」
一祟の表情がわずかに引き締まった。
するとセリーナが優雅に歩み出る。
「私はセリーナよ。よろしくね、一祟くん」
柔らかな微笑み。
その美貌に、一祟はほんの一瞬だけ視線を逸らした。
だがすぐに表情を戻す。
「ご挨拶ありがとうございます」
深々と頭を下げる。
「ですが今は急いでおります」
薬の袋を持ち直しながら続けた。
「通していただけませんか?」
そして静かに言う。
「これ以上は、僕も手加減できません」
セリーナは微笑んだまま片手を上げた。
それが合図だった。
次の瞬間。
鋭い蹴りが一祟の顔面へ飛ぶ。
「ッ!」
一祟は最小限の動きで回避。
同時に反撃の拳を放つ。
だがセリーナは軽やかに後退した。
「あら、速いじゃない」
「風音師範に教わりました」
一祟は静かに答える。
「女性との戦いで油断するな、と」
その瞳には冷たい光が宿っていた。
「甘く見ないでいただきたい」
その言葉と共に、残る三人も前へ出る。
「まずは坊主から潰すか」
レオンが笑う。
「できるならどうぞ」
空気が張り詰めた。
そして四人は、一祟の過去や寺のこと、住職のことまで口にし始める。
心を揺さぶるための挑発。
しかし。
一祟の怒りは叫びにならなかった。
静かに燃え上がる。
「……それを許すわけにはいきません」
風が吹いた。
彼の足元で空気が歪む。
「覚悟してください」
その瞬間。
戦いが始まった。
最初に動いたのはレオンだった。
「術なんていらねぇ!」
巨体が猛牛のように突進する。
重い拳が振り下ろされた。
だが。
「……遅いです」
一祟は軽く身をひねる。
拳は空を切った。
そのまま背後へ回り込み、足払い。
体勢を崩したレオンの顎へ掌底を叩き込む。
「なっ!?」
レオンが大きくよろめいた。
続いてカインが飛び込む。
「隙ありだ!」
計算された絶妙なタイミング。
しかし。
「読めていますよ」
一祟は肘打ちを返す。
カインは吹き飛ばされながら舌打ちした。
「近接も強いのか……!」
その時。
上空からダリウスが襲いかかる。
「ぶっ飛べぇ!!」
鋭い蹴り。
だが一祟は掌を添えるだけで軌道を逸らした。
「焦りは隙になります」
空中でバランスを崩したダリウスが着地する。
そこへセリーナが舞うように接近した。
「ふふっ」
鋭い爪撃。
死角からの一撃。
だが。
「美しい動きです」
一祟は低く回転しながら回避。
そのまま足を払う。
「ですが、それだけでは足りません」
セリーナは地面に着地しながら微笑んだ。
「面白いじゃない」
四人の猛攻。
だが一祟は一度も膝をつかない。
風のように流し。
雷のように反撃する。
まるで自然そのものだった。
レオンが血を拭いながら笑う。
「なら次は術だ」
ダリウスも笑った。
「ここからが本番だぜ」
一祟は静かに構える。
「……では」
風が巻き起こる。
雷光が揺らめく。
「こちらも本気で参ります」
レオンが拳を掲げた。
「轟雷砕!!」
巨大な雷が落ちる。
だが風の障壁がそれを霧散させた。
「何っ!?」
カインが続く。
「断界崩!」
地面が裂ける。
岩塊が襲いかかる。
しかし一祟は空高く舞い上がり、それらを風で吹き飛ばした。
ダリウスの斬撃。
セリーナの連続攻撃。
全てが空を切る。
誰一人として一祟を捉えられない。
やがて。
一祟は両手を広げた。
風と雷が全身を包み込む。
「見せてあげましょう」
静かな声。
「神威風雷――」
轟音。
暴風。
雷光。
嵐そのものが生まれたかのような圧力が四方へ放たれる。
四幹部は耐えきれず後退した。
吹き飛ばされる者。
膝をつく者。
誰も前へ出られない。
静寂。
雪だけが静かに舞っていた。
一祟は深く息を吐く。
「これが――」
風が収まる。
「僕の答えです」
その背後で、薬の袋が静かに揺れていた。
だが。
倒れた四幹部の口元には、まだ不敵な笑みが残っていた。
まるで――
本当の戦いは、これからだと言わんばかりに。
コメント
1件
おお、第45話読み終えたわ!いやもう戦闘シーンのテンポ良すぎない?一祟くんの「読めていますよ」からのカウンター連発がめちゃくちゃ気持ちいい。しかも四人相手に一度も膝つかず、風と雷の複合技で吹き飛ばすとか格好良すぎだろ。最後の四幹部の不敵な笑みも「まだあるのか…」って震えたわ。妹の薬届けなきゃいけないのに、もう一波乱ありそうで続きが気になる!