テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
その日もエメラは会議室で熱弁を振るっていた。
だが、その場所は魔獣界ではない。ここは魔界の王宮の城内の会議室だ。
「ですから、森の警備の協力をして頂きたいのですわ!」
バン!! と両手でテーブルを叩き、エメラは正面の席に座る男を睨みつける。
「あぁ? それが人にモノを頼む態度か? 気に入らねぇ」
腕を組み、エメラを見下すようにして構えるこの男こそ、魔界の王。魔王オランである。
悪魔特有の褐色肌に紫の髪、赤の瞳。魔獣界の王妃アイリの父であり、アディの祖父であるが、見た目は20代くらいで異常に若い。
悪魔は長寿で数万年生きるというから、見た目で実年齢は判断できない。
「そのお言葉、そのままお返し致しますわ。それに貴方は人ではありませんわよ、悪魔男さん」
「いちいちうるせえな、テメエもだろ、魔獣女」
強気なエメラと俺様な魔王は馬が合わず、いつも何かと口喧嘩になる。
ここで、魔王の席の側に立って控えていたディアが二人を仲介する。
「魔王サマ、落ち着いて下さい。エメラさん、お話は分かりました。後ほど警備の検討を致します」
魔界でのディアは魔獣王ではなく、魔王の側近である。素直に対応できない魔王の代弁をする役割なのであった。
決して魔界と魔獣界が不仲なのではない。エメラと魔王の性格が合わないだけなのだ。
会議を終えたエメラが城の渡り廊下を歩いていると偶然、アイリと会った。
魔王の娘であるアイリは、ディアと結婚後も魔界の城に住んでいる。
「あ、エメラさん、お疲れ様。時間があるなら一緒にお茶しない?」
「まぁ、アイリ様。えぇ、喜んで」
二人はそのまま、城内のアイリの自室へと向かった。
アイリの部屋で小さなテーブルに向かい合って座ると、紅茶を飲みながら女子会のノリで世間話が始まる。
「それで、その……アディ様の事なのですが」
「うん。ふふっ、婚約してラブラブなんでしょ?」
息子の幸せを願うアイリは純粋に嬉しそうにしているが、エメラは複雑な心境だ。
それ以前に、アディの母親なのにアイリの見た目は18歳くらい。見た目20歳くらいのエメラよりも年下というのも不思議である。
エメラは、アディの突然の宣言をアイリに報告しようと思った。
「アディ様が、魔獣王になると仰いまして……」
「え、そうなんだ。アディに魔獣界を任せるのは、いいかもね」
冗談だと思っているのか、アイリはその報告を笑って軽く流してしまった。そして話題を変える。
「エメラさんは、もうアディと一緒に寝てるんでしょ?」
「……え? いいえ」
「え、まだ? 普通は婚約したら一緒に寝ると思うんだけど。私とディアもそうだったし、パパとお母さんもそうだったよ」
つまり、アイリとディアは婚約したら夜は同じベッドで寝るようになった。そして魔王と王妃も。
「……そういうもの、なのでしょうか?」
魔界では、婚約したら一緒に寝るという風習でもあるのだろうかと、エメラは少し驚いた。
エメラが魔界の城を出た時には、時刻は夕方ごろになっていた。
城門を出た所で立ち止まるとエメラの全身が発光し、次の瞬間には巨大な魔獣の姿に変身していた。
黒い毛並みに金色の瞳を持つ、全長5メートルほどの巨大な犬。背にはコウモリのような黒い羽根を生やしている。
この魔獣こそがエメラの本当の姿であり、希少種の魔獣『バードッグ』である。
黒い羽根を羽ばたかせて飛び立つと、エメラは魔獣界に向かって魔界の空を飛行する。
飛行すること数十分、魔獣界に着いて森の上空を飛行していると、眼下の森のどこからか数回の発砲音が聞こえた。
(これは……銃声!)
エメラは今まで、この音を何度も聞いた事がある。猟銃の発砲音だ。
(密猟者ですわね!)
魔獣のエメラは飛行を止めて、音のした方向の森の中へと降下していく。
その森の中では、一人の青年が猟銃を持った男二人に追い詰められていた。
「クク……こいつは高く売れるぜ」
「なるべく殺すな、生け捕りの方が高く売れるからな」
迫られる青年は人の姿をしているが魔獣で、体中を負傷している。何発もの銃弾が体を掠めたのだ。
その時、青年と密猟者二人の間に割り込むようにして、魔獣のエメラが森の中に降り立った。
突如、頭上から舞い降りた巨大な魔犬。魔獣の姿のエメラは密猟者を獰猛な金の瞳で睨みつける。
「う、うわぁぁ……!!ば、バードッグ!!」
最強の魔獣と言われる希少種・バードッグは密猟者の間では有名だ。
エメラの気迫だけで命の危険を察した密猟者二人は、背中を向けて一目散に走って逃げ去った。
エメラを見た青年は驚きに声を上げる。
「あ……! あなたは……」
しかしエメラは魔獣の姿では言葉が話せない。
すると魔獣のエメラの全身が発光し収縮していく。光が収まると、そこには人の姿に変身したエメラが立っていた。
青年はエメラに対して、まず頭を下げた。
「あ、あの。ありがとうございます」
「お怪我は大丈夫ですの? この辺の森を一人で歩くのは危険ですわよ」
エメラは青年に近付き、顔色や全身を見て確認する。怪我の程度は軽いようだ。
その青年はアディと同じくらいの年齢に見える。エメラと同じ深緑の髪と金の瞳を持つところから、同種族の魔獣『バードッグ』だと分かる。
しかし、それならば疑問に思う事がある。
「なぜ魔獣の姿に戻りませんでしたの?」
最強の魔獣であるバードッグの姿に戻れば、密猟者には簡単に勝てたはずだ。だが、その質問をしたエメラ自身が勘付いた。……彼の目的を。
青年は密猟者に追われた上に負傷したというのに嬉しそうに微笑んでいる。
「僕はクルスと申します。ずっと、あなたに会いたかった……エメラ様」
エメラは魔獣界を治める女王的な存在なので、顔も名前も知られている。
青年は、わざと自身の身を危険に晒したのだ。そうすれば魔獣界を守るエメラが来てくれると思ったから。
そこまでしてエメラに会いたい理由は1つ。それは、何百年も前にエメラ自身も同じようにして魔獣王ディアに伝えた気持ちと同じ。
「エメラ様。僕と結婚して下さい」