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日が暮れた頃に、エメラはようやく魔獣界の王宮の城へと辿り着いた。
正門を通ると、出入り口の横の柱にアディが腕を組んで立っている。いつから待っていたのか、不機嫌そうな顔をしている。
「遅かったね。何かあったの?」
「……いえ。魔界での会議が長引いただけですわ」
エメラは表情に感情を出さないようにしているが当然、アディはお見通しだ。
「嘘だね。何かあったんでしょ? 教えてよ、僕に」
エメラはアディには逆らえないし、嘘は見抜かれる。いや、嘘をつく必要なんてない。ありのままを話しても、アディの愛は決して揺るがないのだから。
「求婚されました」
一瞬、アディは金色の瞳を細めて鈍く光らせた。
「へぇ。エメ姉、モテるんだね。それで?」
「当然、お断り致しましたわ。立場上、よくある事ですので」
エメラは今までに何度も密猟者の攻撃から魔獣を助けたが、助けた魔獣を全て覚えている訳ではない。
しかし魔獣にしてみれば、何度もエメラに助けられるうちに、それが恋に変わる者もいる。今日のクルスみたいな例だ。
エメラは『よくある事なので心配しないで』という意味で言ったのだが、それは逆効果。積み重なる嫉妬がアディの狂愛を加速させていく。
「何度もあっちゃ困るよ。エメ姉は今後、一人での外出は禁止」
「え……? で、ですが、外でのお仕事は……」
「僕が一緒に行く。二人で仕事すればいいよ」
「は、はぁ……」
確かにアディは正式にとは言い難いが、仮にも魔獣王。今後は外交など王としての仕事の経験を積む必要がある。
長年、女王の役割をしてきたエメラの方が手本となるのは当然で、そういう意味では納得する。
すると突然、アディがエメラを正面から強く抱きしめた。ここは城の出入り口で目立ってしまうというのに。
「アディ様……?」
「愛してるよ。エメ姉に求婚していいのは僕だけだ」
少し意味が理解し難い違和感のある言葉ではあったが、エメラはそれを受け止めた。
「はい、アディ様。わたくしもです。どうぞご安心下さいませ」
なぜか『愛しています』とは言い返せなかった。今も感じるこの胸の痛みは何なのだろうか。
アディが自分に向けるのは、愛ではなく嫉妬だから?
自分がアディに向けるのは、本当の愛なのだろうか?
愛とは一体何で、何を真実の愛と呼ぶのだろうか。
かつて愛した魔獣王ディアのおもかげを重ねながら、エメラは若き魔獣王であるアディを抱きしめる。
……だが、その日の夜。
エメラが長い一日を終えて、ようやく自室へと戻った。
今日は特に疲れた1日だった。思いっきりベッドに倒れたいと思い、真っ先にに奥の寝室へと向かった。
「こ、これは……」
寝室を見たエメラは唖然とする。
……ベッドが、ない。
まるでベッドだけが忽然と消えてしまったかのように、そこだけ大きなスペースが空いている。
何が起こったのかは分からない。だが、誰の仕業なのかは瞬時に分かった。
とりあえず寝間着に着替えたが、寝るためのベッドがない。思い立ったエメラは早足で部屋を出る。
廊下を少し歩いた先にある部屋の前で止まり、ドアをノックする。すぐに返事が返ってきたので、エメラはそっとドアを開けて入室する。
「失礼致します。……アディ様」
そう、ここはアディの自室だ。アディは大きなソファに堂々と座っていて、笑顔でエメラを迎えた。
「ふふ、エメ姉。よく来たね」
よく来たも何も、エメラの部屋からベッドを撤去したのはアディしかいない。
それが意味するアディの思惑も簡単に読み取れる。だからこそ、エメラは寝間着に着替えて来たのだ。
「アディ様。何も、あそこまでしなくても……」
「これからは僕のベッド以外で寝るの禁止だからね」
こうしてまた、エメラに対しての禁止事項が増える。
やはり、アディはあの一家の血筋だ。『婚約したら添い寝』という伝統をしっかり受け継いでいる。
「さぁ、今夜から一緒に寝るよ」
まだまだ、これは始まり。
エメラを縛り、独占し、不要なものは排除する。
そんなアディの狂愛が、魔界をも巻き込んだ大騒動を起こしていく。